GAOGAO_REVIEW_03




3.パンドラの森
開発元:フォアナイン(エクセレンツ) 発売:1994/04/16 媒体:PC9801 Winリメイク無し
Author:鷹月ぐみな / Update: 2014/12/13 10:51:40
死のウィルスの蔓延しているとされる森の樹海。
我々は荒々しいその外をドームシティから眺めるが、
もしも外から我々を見ている者がいたとすれば、
きっと、なんと大きな鳥篭なのだと思ったに違いない。



a. 作品背景

 天才科学者ウォーレンは死にましたが、彼の研究は、伊集院家の手によって秘密裏に引き継がれていました。
 そして西暦2014年(!)、フロリダの研究所で重大なバイオハザードが発生しました。拡散するウィルス「クラブHT1」に罹った、ありとあらゆる生物はその遺伝子を狂わされて、次々と死に絶えていきました。哺乳類は98%、植物も50%という死亡率。一命を取り留めた者も身体と精神に重大な異常を引き起こしました。
 人類はウィルスによる絶滅を防ぐために、外界から遮断する「ドームシティ」を次々と建設し、なんとか滅亡の危機を免れました。そして250年以上が経過します。ドームシティの外は、ウィルスの猛威の中生き残ったわずかな種の植物による森の樹海が広がるようになっていました。
 この物語はジャッキーという名の少年が、アリストシティに住むいとこの少女ルシアに会いにいくところから始まります。そして小さな事件をきっかけに、二人は決して出てはならないシティの外、森の樹海へと迷い込んでしまいます。そこで彼らが見たものとは……。

b. メインキャラクター

ジャッキー(男/人間/主人公)
 頼りなく甘えん坊な少年。
ルシア(女/人間)
 ジャッキーのいとこの少女。好奇心旺盛で行動力もあり、前半部のプレイヤー側の行動の主導権を握っています。
メグ(女/人間)
 ルシアの友人でコンピュータハッカー。主人公たちの援助者として活躍します。
リア(女/変異体)
 樹海の奥で出会う変異体の少女。
ライラ(女/変異体)
ナギ(女/?)
 アリストシティの研究所所長の娘。箱入り娘。

c. ゲーム概観

 未来世界を舞台としたAVGです。基本スタイルは第1作と変わりませんが、狭い範囲内を北だ南だと動いていた前作と違い、それぞれ離れた場所を行ったり来たりと明快に距離感が導入され、主人公たちの目的意識もハッキリしているため(前作は「ミィの素性を調べるというあやふやなもの」)、テンポ感が向上しています。
 作品の雰囲気としては、会話はおおむねコミカルなノリの中で進みますが、今回はあくまで圧倒されるハードなストーリーを緩和するための覆いとしてそうした演出が使われている感じです。主人公たちは常にサスペンスの中に放り込まれているのです。

 それにしても(イントロでも触れましたが、)いくら舞台が未来モノと言われていても、ラジカルシークエンスの雰囲気で入ったプレイヤーは茫然としたのではないでしょうか。ウォーレンの研究はあれで終わりかと思いきやしっかり引き継がれていて、しかもそれが元で「世界が崩壊した」とは!
 これらの事実を淡々と流すオープニングだけで背筋がゾクゾク来るのを感じました。オープニングの文章のみ衝撃を受けた作品なんて後にも先にも本作くらいだったような気がします。
 GAOGAO!4部作全てを遊び終えた後で改めて見てみると、本作のストーリーのシーケンス(流れ)はそこまで長くもないのですが、4部作の中で最も密度の濃い作品だったなと感じます。SF好きな筆者はこの小気味よさが何とも堪りませんでした。

d. メインストーリー

 アリストシティーから森に迷い込んだジャッキーとルシア。2世紀以上に渡って隔離されて、何人たりとも出る事の無かった外の世界に「不自然なまでの自然さ」を感じながらも、そのうち空腹と疲れで倒れてしまいます。
 そんな二人を、一人の少女が助けてくれました。その少女は不思議な長い耳と尻尾が付いていましたが言葉を離すことはできず、名前も分からないため二人はリアと名付けて呼ぶことにしました。喋れないけれども人の言葉が分かるこの彼女に、どことなくルシアは覚えがあったのですが(デジャブ)、思い出す事はできませんでした。
 体力が回復したルシアたちはある日、森の中で不思議な建物を見つけます。クラブHT1の影響を受けた森は全ての建造物を飲み込んだはずですから、そこにあるはずのない建物なのです。怪訝に思いながらも入ってみるとそこは無人で、しかし十数年前まで使っていた跡を残していました。荒らされた跡があり、何かがここで起きたのです。

 リアはアリストシティーに戻る道を知っていたので、彼女の案内で3人は町に戻る事になります。しかし、ゲートでリアのその容姿を咎められ、彼らは取り押さえられてしまいました。リアはどこかへと連れ去られ、二人は外での記憶を規定により抹消されてしまいました。
 気が付けばルシアの部屋にいた二人。ひどく頭痛がするだけで、何があったのか完全に忘れてしまったのですが、リアがずっと付けていて、別れ際にジャッキーの手にひっそり渡ったペンダントが怪しく光を発し、ばちん!と弾けたかと思うと、二人の記憶はあっさりと戻りました。この一件で、彼ら二人が子供の頃の記憶を失っていたのもひょっとして? と気づきます。ルシアもジャッキーも、昔は外の樹海に居たのではないかと。シティの管理人たちは、意図的に外の存在といくつかの事実を隠していたのです。クラブHT1のウィルスの拡散はとうに終わっていること。そしてそれなのにドームシティの外への移動を禁じていること、などなど。
 それがどうしてなのかまでは分からず首をひねる二人でしたが、ひとまずはリアを助けなければとやるべきことを決めます。ルシアの友達であるハッカーのメグに事情を話し、彼女の協力を取り付けました。調査の結果分かったことは、リアはアリストシティの一角にある、厳重に警備された研究所に居るらしいと言うこと。深夜になって3人は潜入を企てます。
 捕まったり逃げ出したりと研究所の中を探索した後で、一行は色々な事実を知ります。ここではじめてルシア達は「変異体」という言葉を知り、リア以外の変異体にも出会います。これらの真実を知り、リアを助けた一行の目指すもの、それはドームシティの外の樹海の中でした。そこが、変異体たちの生き抜ける場所なのですから。

e. 解析への取り組み

 スケールが大きくなったものの、前作に引き続いて相変わらず主人公ジャッキーとルシアは人より力が優れているわけでもなく、頭もとりわけ良いところもありません。ルシアに襲い掛かる男をどうにもできなければ、樹海では道に迷い、ガードロボットは倒せないという有様です。作品を終えたあとに正直なところ、二人への印象はあまり残りませんでした。
 ルシアとジャッキーに個性がないわけではないんですが、なぜそうなったのかといえば彼らは自分の意志で行動したとはいえ、その実、強力な援助者(メグ等)と義務、あとは降りかかってくる出来事によって半強制的に動かされているにすぎないのです。本作の特徴の一つはここにあると言っても過言ではないでしょう。プレイヤーは彼らをヒーロー的な主人公ではなく、視点者として頼り、その軌跡を辿って物語を体験していくわけです。非常に珍しい印象のある作品です。
 但しこれは正確な評価ではありません。ジャッキーとルシアの物語開始と終了の間の役割を比較検討することで、役割の移行という面白い事象が見えてきます。そしてそこからモチーフとなった一つの作品の姿が見えてきます。前作「ラジカルシークエンス」がフランケンシュタインのモチーフを使っていたように、本作では実は「ヘンゼルとグレーテル」のモチーフの跡が見られます。この件については総合解析の際に詳しく取り上げますのでここでは措いておきます。

 さて、この物語の評価なのですが……実に書きにくいんですね。
 ラジカルシークエンスのように、ストレートに読み取れるメッセージ性がなく、ただ未来世界の出来事、ジャッキーたちの過去の真相を辿っていくだけ。変異体同士が結束を深めていくプロセスはそれなりに興味深いのですが、それはどんな作品でも当然なされるコミュニケーションの枠内に収まるものです。真実が明らかになった時点で、あるいはもう少しその前から結末がどうなるかの予測ができてしまう上に、何かチャンバラで成敗ーなどの血沸く展開がラストにあったわけでもなくあっさりと終わり、エンディングロールを見ながら「あれ?」と不思議な気持ちになってしまいました。
 非常に作品密度が濃い気がした割には、改めて思い返すとどんな物語か? と簡単に述べることができないのです。
 おそらくは、前作のようなメッセージ性が本作には存在せず、オープニングから圧倒されたこの衝撃の世界観を描き切ることそのものが作品の目的だったからと考えています。主人公たちが動く事でプレイヤーが得た沢山のフレーバーが、全体として始めて一つの作品でありそれが全て、といいますか。女の子は様々出てきましたが彼女らもまた主人公側の人間であり、メインヒロイン不在の作品と言えます。(一時的にリアやナギがヒロインの地位にはなるのですが結局すぐ一行に埋もれます)
 したがって本作についてのテーマ解析は断念し、背景構造を簡単に書き留めるのみにします。表題(パンドラの森、の意味)とモチーフについてはそれぞれ踏み込める部分がありますが、これらは「カナン」のレビュー後、まとめて行います。そちらの方がタイミングとして良いので。

 人類はウィルスの猛威をドーム建設で防いだかと思われましたが、実は完全なものではなく、発病しないレベルで変異の因子を吸収していました。この結果、奇形児の出産率が徐々に上がっていったのです。闇に葬られた奇形児はたくさんおりましたが、その中で五体満足の「変異体」が素晴らしい力を持っていることが確認されました。しかし、人間より優れた存在が生まれたことを公表することはパニックに繋がりうることで、これを明るみにすることができず隠ぺいされることとなりました。
 ドームシティという都市の形態は一般市民と管理側、体制維持側の格差を広げ、支配層と非支配層(平民)というヒエラルキーを生むこととなりました。街の命名にしてもアリスト(=貴族)ですからそれを印象付ける効果を狙ったのでしょう。
 実は既にドームの外はもうクラブHT1の猛威の終わったエクメーネ(居住可能地域)ではあったのですが、それを知られてしまえばこのヒエラルキー構造が壊れてしまう事はほぼ確実です。支配者層はこの権利を失うことを怖れ、それを防ぐためにあらゆる策略を取りはじめました。こうして記憶操作も含めた手段を選ばない情報統制が行われるようになりました。それは正義の行為とはとても言えないけれども、社会や文明はそのおかげでここまでは維持することができたのもまた一つのこの世界の現実です。クラブHT1によりその数を大きく淘汰されることになった人間たちにとっての、コントロールされた安全な社会、安全な箱庭。しかしそれは人間たちのためのもの。
 そして変異体という、元から鳥篭に居るべきではない鳥は、そんなドーム内の世界にいつまでもいれるわけはないのです。外に出るべき存在は、ごく自然に卵の殻を割るようにして、自らその権利を勝ち取りにいきます。
 それは、変異体という種の歴史の第2歩目、ということになるでしょうか?
 エンディングの彼らの姿からは、第3作、第4作の世界の萌芽がすでに浮かび上がっていました。

f. 終わりに

 主人公たちは相変わらず貧弱なままでしたが、ゲーム的には「ラジカルシークエンス」と比べるとスリル感も謎もありだいぶ面白く感じました。とはいえ、名作と評価するほどでもありませんでした。
 が、本作で称賛されるべきはやはりその世界観の演出です。設定に凝る作品など実に様々あります。当時でしたらHHG(ぱんだはうす)、NOVA(キャッツ・プロ)、PHOBOS(姫屋ソフト)等多数。しかし、その世界観を余すところまで味わえたと感じられない作品が多かったり、吟味していくと色々と中途半端だったり、ようするに設定負けしているわけです。これに比べて本作「パンドラの森」は設定負けせずに、広げた大風呂敷をきちんと畳みきった成功した作品と言えます。三峰奈緒氏の力量というよりほかありません。
 惜しむらくは、このようになるしかないと予測できる、「終わるべくして終わった結末」そのものであったこと。終盤が既に作品の収束フェーズに入っており転回による揺さぶりが乏しかったところでしょう。ELLE(エルフ)のようなどんでん返しを期待していたら、ラストハルマゲドン(ブレイングレイ)のような結末になってしまったといいますか。

 それでも、世界観重視の方には自信を持ってお薦めできる作品である事は間違いありません。
 ただ、余談レベルですが一つだけ気になったのは、ジャッキーの育ての親の存在が見捨てられてしまったこと。童話をモチーフとするなら、その童話の結末にある帰郷の筋について後始末をしてほしかったような気がします。鍵をかけ忘れたまま家を出ていくような心の引っ掛かりが一つだけマイナスといったところです。
 その他、この閉鎖系が飽和するような社会機構であれば遠かれ少なかれ、熱力学第二法則のような問題にぶち当たって外の世界の存在と真実ついてバレるような気がしないでもないんですが、そのあたりは玄関管理がきちんと維持されていたと考えるしかありません。記憶操作までするくらいですし統制が万全だったのでしょう。

 モチーフの解析を保留したままではありますが、「パンドラの森」のレビューは以上となります。
 そしてミューティアクロニクルは、ラストハルマゲドンのような結末からさらに先へと進みます。人間たちの世界から遠ざかっていく点において第1部と極めて似ていますが、第1部は少女2人だったのに対して第2部は男性も女性もいる賑やかな共同体であり、それは希望と発展の予感を感じさせてくれます。
 そんな彼ら彼女らの未来の姿がGAOGAO!3部作の時点での最終作「ワイルドフォース」となるわけです。では、私たちも次の世界へと移動することにしましょう。





GAOGAO_REVIEW_02 ≪Back | Next≫ GAOGAO_REVIEW_04

レビューのはじめに戻る