GAOGAO_REVIEW_02




2.ラジカルシークエンス
開発元:フォアナイン(エクセレンツ) 発売:1994/01/07 媒体:PC9801 Winリメイク有
Author:鷹月ぐみな / Update: 2014/12/13 10:51:17
……ほんとうは愛されたかった。
けれどあの男は、その気持ちに気づいてくれなかった。
私は誰なのだ、何のためにここに居るのだ?



a. 作品背景

 主人公の柴田祐二はどこにでもいそうな大学生です。そんな彼はある日、住宅街の外れ、ゴミ捨て場に一人の少女がうずくまっているのを見つけます。彼女には猫の耳と尻尾が付いていました。このまま放っておくわけにもいかず、彼はその少女「ミィ」を拾って帰ります。彼女はおまけに記憶喪失でした。気のやさしい祐二は、そのまま彼女を保護するだけでなく記憶を戻してあげるために色々町を歩き回ることにしました。しかし彼の前にミィを付けねらう謎の男たちが現れ、どんどん物語は思わぬ方向へ進んでいきます。ミィとは一体何者なのでしょうか。

b. メインキャラクター

柴田祐二(男/人間/主人公)
 大学生。取り柄のようなものはありませんが、明るく、優しく、困っている人を放っておけない性格で、Hなことが大好きな自然体の主人公です。
立川奈々子(女/人間/主人公と良い仲)
ミィ(女/実験体:猫/ヒロイン)
アルファ(女/実験体:ホワイトタイガー)
 のちに変異体と呼ばれることになる存在の第1号。軍事戦闘用の生体マシーンとして闘争・殺戮本能を埋め込まれています。
フリッツ・ウォーレン(男/人間)
 ミューティアクロニクルの全ての元凶であり始まりとも言うべき科学者。
綾小路香織(女/人間)
 伊集院財閥の関係者。主人公の敵として登場する。彼女自身の個としてはそこまで重要なキャラクターではありませんでしたが、この伊集院財閥は以降の作品世界でも延々と関わってくることになります。

c. ゲーム概観

 現代世界が舞台。二昔前によくあった、ひたすら色々な場所を回って会話したり調べたりしてフラグを立てて物語が一本道的に進行していくタイプのアドベンチャーゲームです。エンディングは1つしかなくゲームオーバーもありません。なお、1本道AVGというこの構造は第2部〜第4部共に共通ですが、後ろの作品になるほどフラグ立てに奔走する頻繁な場所移動は少なくなりサクサクと進む印象です。
 ストーリーは複数章から成り、切れ目ごとにCMさながらのテロップが入るところが良い感じでした。雰囲気としてはアヤしいキャラ、おバカなキャラが続々登場してきて、コミカルベースなのですが、物語を包むテーマがクールにできているため、後半になるにつれシリアスになっていきます。

 なお、Windowsでリメイクされた「シルバージーン」ですが、グラフィックの描き直しのほかUI回りが変更されサクサク進めるようになりました。本筋の変更はありませんが、大学の名前が変わるとか、端役キャラの性別が男性から女性に変更されたり、どうでもいいキャラがカットされるなどの細かい修正が行われています。
 現在では「ラジカルシークエンス」の入手難度が高い上プレイ環境(PC9801)を整えることも難しいため、リメイク版である「シルバージーン」で体験されて差し支えありません。

d. メインストーリー

 フリッツ・ウォーレンという、バイオテクノロジーを専門とする科学者がいました。彼はアメリカでははぐれ者でしたが、その技術、能力は桁外れのものを持っていました。伊集院家の令嬢(綾小路香織)がたまたま彼に会い、話をするうちに彼の研究を面白いものだと思い、力を貸すことにしました。日本に連れてきて、屋敷の地下室で好きなように研究をさせたのです。彼の研究とは、遺伝子操作により、新しい人間を作り出すことを目的としたものでした。そしてそれは、度重なる失敗を重ねながらも、とうとう2例を成功させたのです。猫少女「ミィ」と、白虎女「アルファ」が生み出されました。そんな中、ミィは逃亡しました。主人公によって彼女が拾われたとき、その記憶は失われていましたが、徐々に素性、過去について思い出していきます。逃げ回ったりと休み無い生活をしているけれど、その昔と現在において、ミィは愛されていました。やがて伊集院家から脱走したアルファは、そんなミィを見て「おまえを殺してやる」と言い始め……物語は急転直下、クライマックスへとなだれ込みます。

d. テーマ解析(AnalyzeReview)

 世界観を捉える上で重要なのは中盤最後のウォーレンとの会話部分のみ、それとテーマに関わるシリアスなやりとりはすべて終盤に集中しているため、解析はさほど大変な作業ではありません。
 主人公−伊集院とのどこか間の抜けた対立がアルファの逃亡をもって終わり、突如として風雲急を告げます。アルファは自分を造りだしたウォーレンを殺害したあと、いわば仲間であるはずのミィを殺すと宣言しました。

 アルファのこの感情と行動原理は嫉妬によるものです。ウォーレンによって造られた同じ存在ではありますが、彼女とミィとの違いは、愛されたか愛されなかったかの違いにありました。どちらもウォーレン博士自身からは愛されませんでしたが、かたやサーカスに所属し金を生み出す道具として扱われ、もう一方は伊集院家のお婆さんに優しく育ててもらい、獣少女にされた後も祐二たちによって優しくされています。捕まった奈々子が権三に拷問された時に、アルファはサーカスでの鞭打ち経験が頭の中にフラッシュバックして思考回路が切れてしまったのでしょう、彼女は狂乱すると束縛を自ら解き放ち、伊集院の手を離れていきます。
 もしもウォーレンに彼女を慈しむ心があったのならば、決してこんな事は起きなかったはずなのに。
 狂ったアルファは最終的にミィを倒しますが、そこでようやく自分の嫉妬と、たった一人の仲間に牙を向けてしまった事を自覚しました。彼女はこの時点で戦意を喪失したのですが、それに気づかなかった香織は彼女を撃ち……エピローグへと移ります。

 作中最後の最後で主人公とアルファはセックスします。主人公にとってその行為の目的は、彼女に愛(単純な恋愛的な愛ではなくて、慈愛=アガベー的なもの)を与えてあげることにありました。ゴミ捨て場でうずくまっていたミィを助け、やがて彼女たちの出生の秘密を知り、ミィに同情し、そしてアルファにも同情した主人公にはその資格があるのです。
 祐二から愛とその想いを感じ取ったアルファは、ミィと共に都会から消えます。 最後のシーンは幻想的で、具体的に何がどうなったのか明かされないまま終わります。あまりに急激で、主人公がデパートの屋上から落ちたのに無事だったのは何故かといった理由を考えるのを忘れてしまうほどです。ここはもはや物語のディテールで語る部分ではないのでしょう。物語中の葛藤がすべて消えた時点で、お話の世界は留まる理由を失います。屋上から落ちたなら主人公は死ぬべきだろうなどというリアリティで論ずる意味はありません。マクドナルドの「かるいお姫さま」の結末の演出のように、ナウシカの金色の野のように、ファンタジー的な光景の中で物語は昇華されエンディングを迎えたのです。
 ともかく、彼女たちは日常という舞台から存在を消しました。自分たちの住むべき環境はここにはなく、それは遥か未来だということを、どこかで知っていたのかも知れません。

e. モチーフ解析(AnalyzeReview)

 生み出した自分に愛情を持ってはくれなかったと、アルファはウォーレンを殺しました。この流れは、古典であるメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」を想起させます。実際、ウォーレン博士の容貌は、フランケンシュタインを彷彿とするもので、三峰奈緒氏は本作のメインモチーフとしてこの作品を使ったのだと思います。もう少し証明が必要であれば、映画「フランケンシュタイン」の主演がダン・ウォーレンであることを指摘すればもう十分でしょうか? 三峰氏は、活用したモチーフの元を作品の中で意図的にバラす作りを好むため、解析する側としては非常にやりやすいのです。
 このメアリー・シェリーの小説においては自分が作り出した化物を拒絶したため弟や妻を殺し、最終的はそれが元でフランケンシュタイン博士自身も死ぬことになります。過ぎた科学の無責任性を暴き出したあの作品では、死んだ博士を見つけた怪物は嘆き、「産みの親が死んだ今となっては、私も消える、そうすればこの事は忘れさられるだろう」と言い、氷河の中に姿を消したのです。
 共に怒れる存在だったフランケンシュタインの怪物と白虎娘のアルファ。前者は存在に絶望し生を棄てますが、後者は愛情の中で孤独を超克し新しい自己を得たのです。

 作中では触れられてはいないものの、祐二の放った子種がミィとアルファの中でおそらくは結実したと考えられます。遠い遠い時代に繋がるための生命のリンク。だからこそ2人は祐二に別れを告げることができたのでしょう。

f. 終わりに

 ゲームプレイヤーとしての「ラジカルシークエンス」の評価は面倒なフラグ立てによるストーリーテンポの悪さ、中盤終わりまでのハラハラ感のなさのせいで凡作というくらいになるでしょうか。一応これ単体が完結した作品となっていますが、GAOGAO!の世界の中ではスターター的な価値しか見いだしにくいところは少々残念なところです。(それなりに深いテーマが描かれていたことについては本項で述べた通りですが)
 ただ、「シルバージーン」で、やろうと思えばもっと抜本的なストーリー変更を行うこともできましたが結局それは行われませんでした。オリジナルを大事にしたいという制作サイドの思いがあったのだと思います。

 さて、ミィもアルファもどこか遠くへと旅立ちました。特にアルファはその名(Alpha=最初)の通り、遠い未来の主役となる変異体のその祖先として。
 私たちも現代を舞台としたこの第1部の世界に別れを告げて、未来世界へと向かいましょう。





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