GAOGAO_REVIEW_08




8. 寄り道I「ARMIST」
開発元:Basement 発売:1992/07/13 媒体:PC9801/X68000 Winリメイク無し
Author:鷹月ぐみな / Update: 2014/12/13 10:53:17
――人間にとって、デミノイドとは何なのだろう?


▲パッケージ裏側



a. BackStory

 時は近未来。大地は核戦争やらの影響で荒廃したものの文明はさらに発達し、「人と動物の合成生命体=デミノイド」という存在が生まれました。元は戦争のために作られた彼らは、人間をはるかに越える力を持ち、人間たちはそれを戦争以外にも様々な事で利用するようになりました。
 結果、この時期の凶悪犯罪の大半にデミノイドが絡むようになっていました。
主人公である鷲羽昇は、そんなデミノイド犯罪専門の警察組織「ARMIST」(英語では「停戦」の意)に所属する男性です。彼はビリーミリアという二人の女性デミノイドをパートナーにしています。
 そんな彼に、デミノイドが関与していると見られるAクラス犯罪対応の指令が下りました。二人を連れて目的地である「コスモ・プラン」の屋上へと向かうのでした……。

b. GameStyle

 ビルの49階から45階までの部屋をくまなく調査していく、二昔前に流行った場所移動型フラグ立てAVGです。情報がまとまるたびに主人公は屋上に戻り状況整理と推理を行い、ふたたび捜索を再開していきます。
 若干コマンドバトル式のイベント専用戦闘シーンが存在しますが、これは雰囲気付けのようなもので、レベルアップや経験値稼ぎ、アイテムによる強化のようなRPG的な概念はありません。

c. OverView

 1992年当時はパソコンゲーム界はいまより活発で、また、コンシューマ市場にギャルゲーが成熟するずっと前であり(ときメモの登場は1994年です)、美少女ゲーム業界の人達による、18禁指定のない美少女物も多少なり売れました(他の例を挙げると「宝魔ハンターライム」など)。本作もそういった作品の一つです。
 原画にMON−MON氏を迎え、400ラインにも対応したこともあって92年当時としてはグラフィックの質はかなり高い方です。脚本はH.MIYABI氏。こちらはほぼ無名ですが筆者は一時期この方の作品を追い続けたことがあります。

 さてこの作品、Hシーンが無いゆえに18禁扱いではないとはいえ、実際は本編に入った直後から惨殺死体のオンパレードです。ビル内の部屋という部屋の到る所が滅茶苦茶に破壊され、あちこち血痕の後が飛び散っています。スプラッタ物と言えますが、よくあるホラーと違って追う追われるスリル展開はあまりありません。大抵は惨劇の終わった舞台を移動して調べるだけで、とはいえこれはこれで次第に寒気がしてきます。もっとも、「ELLE」のように屍体がアップで出てくるということはありません。意図的にそうしたホラー性を排除したのだと思います。
 システムインタフェース的には若干不満がありまして、他作品に比べてディスクアクセスが頻繁かつうロード時間も長く、ディスク自体もちょくちょく交換させられます。HDDインストールは対応していませんでした。

d. Main Story

 コスモプラン内で行われていた大量殺人事件。その犯人は2体の女性デミノイドでしたが、彼女を暴走させるように仕向けたのは、デイブという一人の人間でした。その経緯は次の通りです:

 デイブは優れた科学者で、デミノイドに関する画期的な技術発明を成し遂げました。しかし、大学時代に恋人であったフェルモンド河合という女性に人物にその技術を丸ごと盗まれてしまいました。つまりは彼は騙されていたわけです。
 フェルモンド河合はデイブの技術を活用しコスモプランでデミノイドを量産します。その結果として社内での地位を不動のものとしましたが、デイブへの罪への意識か、人と接することを極端に嫌うようになり、何体かのデミノイドたちにマインドコントロールを施して自分に忠実であるペットにして侍らせていました。
 そんなある日、デイブはコスモプランの研究員として入社します。そして彼は変わり果てた河合と出会います。デイブを恐れて避けようとする河合。デイブはそんな彼女を無視して自分の研究に没頭し、新型デミノイドの開発を始めました。しかし、気が付かずかつての河合そっくりの人格をそのデミノイドに持たせていたのです。
 そのことに彼が気が付いた時……デイブは自分と河合との関係の全てを消そうと考えました。研究の全て、自分達の痕跡もろとも……こうして壮大な、社内を惨劇に巻き込む無理心中計画を立てました。河合のペットであるデミノイドたちを暴走させて……。

 そんな惨劇の舞台に主人公である鷲羽昇が降り立ちました。

e. Review

 作品の主題となっているのは以下の3点。
(1) 人間(男女)のあいだの感情
(2) 人間とデミノイドとの関係
(3) デミノイドの存在そのもの

 このうちデミノイド絡みの(2)と(3)については、最終節においてGAOGAO!のレビューと一緒に取り扱う機会を設けましたので、本節のレビューでは(1)の犯人側の動機についてのみ触れようと思います。

 作品では淡々と出来事だけが進んでいくため、背景となっているデイブと河合との一連の経緯と引き越された惨劇が、単なる狂的な行為と片付けるだけで終わってしまう可能性があります。心情面は綴られる部分とそうでない部分があるのである程度行間から推測を働かせる必要があります。
 まずフェルモンド河合という人物。大学時代にデイブを愛していたと言うのは本当のようです。その様は、彼女の作り出したデミノイド「リィ」の中に見ることができます。そんな彼女がデイブを裏切ったのはほんの些細な相性の相反、すれ違いと、それに彼女の支配欲、名誉欲があったためでした。その欲望の強さに関しては台詞だけでなく、作中で女王様スタイルで登場したことなどからも読み取ることができます。
デイブの方ですが、作中では裏切られたということに関して「恨みは持っていない」と喋っていますが、半分は嘘だろうと思います。信用していた人間が裏切り、心がずたずたに引き裂かれ、ボロボロになる心を防衛するために彼は自らの感情を切り離しました。その時既に「彼女の全てを奪ってやる」と考えていた事でしょう。コスモプランに入り、同社で始めた研究は彼女を再び出し抜いてやろう、という意図があるとしか思えませんし、惨劇を引き起こす際に他のデミノイドでも良かったのにわざわざ河合のデミノイド達を狙い撃ちして操作したのも「全てに裏切られてしまえ」という復讐の表れだったと思われます。
 そして彼はついに、全てを失い茫然とする河合をその手に取り戻し、当初計画である無理心中を完遂しようとするわけです。火に包まれるコスモプラン。
 ただ、結末は作者の特権ではあるのですが……コスモプラン内の罪なき人物をあれだけ大量殺害しておきながら自分たちはあの世にさようならで終了という展開には若干の消化の悪さは否めず、もう少し何かケアが必要だったような気がします。

f. 終わりに

 GAOGAO!シリーズの1年半前にリリースされたこの作品。似て非なる作品ながら「人と動物の合成生命体」や、愛情にまつわる様々な話を書こうとするなど共通点も多く、影響を与えている可能性を否定できない作品です。あるいは両者のネタ元となったアニメなどがあったのかもしれませんが私はそちら方面は疎いため分かりません。
 一般向作品ゆえエロもなくスプラッタ表現と退屈なフラグ立て、インタフェースの悪さを踏まえるとゲームとしては高評価を付けることは厳しい作品ではありますが、作品性の高い美少女ゲームということで再評価されてほしい作品の一つではありました。
 現在では98(もしくはX68000)環境の準備に加えて、ソフトそのものの入手は非常に困難であるために遊ぶことも難しい作品ではありますが、せめてもこのコンテンツでこうした作品が存在していたことだけ記憶していただければと。
 そして、H.MIYABI氏は4年後に「デミノイド」をテーマとして扱うもう一つの作品をリリースしました。それが次のページで取り扱う「メリーゴーランド」です。





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