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■ おあそび迷宮講座
 たまにはこうした頭の体操的コンテンツもいかがですか、という事で。

§余談
 私は子供の頃からこうした螺旋的な形象に確かに興味を持っていました。紙に次々と迷路を書いていった覚えがあります。それは迷宮ではなく迷路ではありましたが、迷路の中に迷宮形象が確かに存在していました。そして書いた迷路を自分で辿って楽しんでいたのです。皆さんはそんな経験はありませんでしたか?


おあそび迷宮講座 / 2002.7.8

 迷宮というものの説明と、その構造の解説、あとはちょっとしたお遊び。文化的読物っぽいかもしれません。


はじめに - 迷宮とは

 だいぶん昔に、「迷路生成アルゴリズム」なる記事を書きました(1999/7/4)。実に他愛も無いアルゴリズムだったのですが、これが意外に受けが良く、同人ソフトで組み込まれるわ各所で紹介されるわ社内研修で使われるわ、大学の学生から卒業論文の中で使われるわ(しかも2件)とちょっとビックリ。
 それはそれとして、迷路の話題になると一緒に出てきたりもする「迷宮」。これが今日の話題です。
 迷宮というと、迷宮組曲とか、ガリウスの迷宮とか(古っ)を思い出す方もいるでしょうか?ともあれ迷宮とは具体的になんでしょうかと聞くと、「地下にあって、迷路になってて、入ったら最後迷って出られなくて……」といったような答えが返ってきます。しかしそれは本当の意味する所とはだいぶん違います。迷宮はラビリンスと訳されますが、これは特定の建物であり、ミノス王の建てたと言われるクレタの宮殿(クレタ大迷宮)の事を主に指します。あのミノタウロス伝説の舞台となった所ですね。(ただし、エジプトの大迷宮などもラビリンスと呼ばれたりもします)
 ですがこの宮殿、実在は信じられてきましたが今に至るまでその姿を表しては居ません。一時はクノッソス宮殿(これは発掘された)がラビリンスの事だったという説が広まりましたが現在では否定されています。
 しかし、このクノッソスで発見された貨幣に、不思議な迷宮模様が描かれていました。ピュロスのネストール神殿でも同じようなものが見つかっています。下記に示したこの形を現在ではクレタ型迷宮図と呼んでいます。

クレタ型迷宮図

 他にも世界各地でこうした迷宮図が見つかっていますが、それらは決まった法則性を持っています。その中でも最も特徴的なのは、「螺旋構造」をしていると共に、「一本道であり本来迷うものではない。辿っていけば誰でも再奥に辿り付く事ができる」ということです。これは私達の言うところの迷路とは似て非なるものです。
 最初、こうした迷宮と呼ばれる形象が存在していまして、そこから人を迷わせるような、分岐のある「迷路」が派生して出現しました。そしてこの2つを人々は混同、同一視するようになり、迷宮の形象については忘れ去られてしまったのです。
 とまあ、このへんの迷宮伝説の歴史については後は講談社現代新書「迷宮学入門」を読んでください、ということで終わりにしておきまして。


迷宮を描く - 1

 迷路の描き方、ということでのアルゴリズムは既に示しましたが、今回のような迷宮構造はどういう考え方で作られるものでしょうか、というものをこれから紹介していきます。
 まず、一本道の螺旋と言えば、誰でも思いつくあの図形を紹介しましょう。これは描き方を教える必要などそもそもありませんね。

 

 実はこれは正しい意味での迷宮ではありません。迷宮図の条件では他に「常に振り子を描くように移動する」「迷宮を歩くものは常に最奥部を繰り返し通る」というのがありまして、この部分に引っかかります。が、それ以外についての条件はすべて適合するので、半迷宮といったところでしょうか。
 え、こうした話が何の役に立つかって? まあ今回は、直接的に役に立つ話ではないんです。しかし、どこでこういう知識が役に立つかは分かりません。RPGや何かでこういうマップを作れる時もあるでしょう。あるいはこういう話はストーリー製作にも応用が利いたりするものです。模式図というのを投影された結果とみなし、その投影前の姿を推測する事によってお話が作れたりもするのですが……まあ、このやり方については稿を改めて紹介しましょう。

 折角だから一言付け足しておきますが、RPGにこういう形のマップを作る場合、このままだと奥で行き止まりですよね。重要な宝を配置するとかボスを置くとか、そういう用途に使うならそれでも良いでしょうが、そうでもないなら戻るのに徒労感を感じさせてしまうでしょう。(フラグが立ってないうちのポートピアの螺旋迷路を歩いた事を思い出す人も居るかも)
 徒労感を感じさせずに、こういうマップを歩かせるようにするには?簡単な事で、同じ道を通らせないように、つまりは通過路とさせてしまうことです。そうしたマップの作り方は非常に簡単、通路の真中にもう一本通路を作るだけですよね。

 

 つまりはこういう事。後に紹介する一本道迷宮のすべてに適用できるやり方なので、一応頭に留めておいて下さい。


迷宮を描く - 2

 ではいよいよ、完全な迷宮図(クレタ型)の描き方を紹介しましょう。まず、基本形は次の通り(図A−1)。

  :図A−1

 十字線と、その周囲に点を4つ配置しました。そしてまず最初に、終わりの位置を用意してあげます(これは中心部分であれば、あとは任意)。その終わり線が半時計周り方向だった場合、次の線は、その方向の延長線上にあるもっとも近い(但し今さっき関与しなかった)線か点から、今度は逆方向に、一番近い(やはり今さっき関与しなかった)線か点へと道を伸ばします。あとはこの繰り返しで迷宮図が出来上がります。

    

 上の迷路は3回の振り子的な周回を行う迷宮図なので、三路迷宮と呼びます。一番最初に紹介した迷宮は7路ですね。7路クレタ迷宮の基本図は下の通り(図A−2)。

  :図A−2/七路迷宮の基本

 途中まで描いておきますので(図A−3)、あとは自分で紙に描いて完成させてみてください。

  :図A−3/七路迷宮の書き途中

  んで、出来上がり

 自分で描いた迷宮をなぞって辿ってみてください。何度も中心に近づきながらまた遠く離れていき、再び近づくのだけれどもまた遠ざかる……これは迷路にはない、神秘的なものです。
 最後に、演習として二つの基本図だけ示しておきます。それぞれ11路、7路の迷宮図ができあがるはずです。

  :11 路クレタ拡張型

  :7路迷宮

 あ、おまけにもう1枚。これは中心に十字を描いておらず、また入口と出口のルートが分かれているタイプですね。螺旋の描き方を覚えてしまえば、自分オリジナルの迷宮図も作る事ができるでしょう。

  :変則7路迷宮


迷宮の役割と効果、そして私達の活用

 明らかにお遊び的な事をやっています。しかし迷宮という形象は本来はお遊びとは大変かけ離れた存在です。はるか昔、人々は大真面目にこの迷宮の形に沿って歩いていたりしました。その者が道を踏み外すと結婚を許されなくなるという恐ろしい約束事もあったのです。裏返すと、その歩行が結婚前の通過儀礼的位置付けにあるという事。また、インドではこの形に兵士達を並ばせる戦闘隊形があったと伝えられますし、教会では神の祝福を受けるために、床に描かれた迷宮図を辿っていたというわけです。
 なぜこんな事をしたのか? 迷宮は、「死」と「再生」を象徴する存在だから、というのが有力な説ですが、本当の所、その起源は完全には解明されていません。しかし、ともあれ、迷宮形象には神秘的な力と、意味が備わっている事は確かなのです。
 私達が直接に迷宮形象を何かに使うことは殆どないでしょう。しかし、迷路ならゲーム製作で使うことも多くあるでしょう、その際にこの迷宮形象を意識してみるのも良いかも知れません。プレイヤーを不思議な感覚に誘うことができるかもしれません。
 ちなみに私は自分の作ったゲームにまったくそのまんまのクレタ七路迷宮を使ってみたりしました(笑)。
 以上、おあそび迷宮講座でした。

- 鷹月ぐみな 


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