Article: AVGを作るにあたって
     AVGを作るにあたって押さえておきたいキーワードや考え方をここでは紹介しています。本当は順序だてて書ければいいんですが、そこまでの構成力がないので、雑多な構成になっています(^^;

Article Written: 98/3/5




0:はじめに
     プロフィールを読んでいただければ分かると思いますが、鷹月はプロではありません。そんな人がAVGの制作論なんてできるのか、と考える方もいるかも知れませんが、いちおう、170キロバイトにも及ぶテキストを書ききって(原稿用紙250枚以上)、同人AVG「夢のなかの少女」という作品をほぼ一人で作ったという実績はあります。
     いちおう自分としては、AVGの制作論を語れるだけの解析はしたかな、と思っています。そういう前提のもと、少しだけ安心して(?)、読み進めていってください。


1:主人公
     AVGは選択肢が存在することから、ほぼ例外なく視点者が主人公であり、「いっぽう、その頃……」や、「実はこんな事があったの……」という自動語りモード以外はすべて、主人公を中心とした物語が進められることになります。
     この関係上、1人称小説のAVGへの移植は3人称に比べると楽のようです。視点がぱらぱら変わる3人称タイプは下手にAVGにすると、ただのデジコミとなるか(選択肢を少なくして消化した場合)、妖しいマルチサイトストーリーになってしまいます(選択肢を各キャラごとに用意した場合。普通ゲームとして失敗します)。


2:中継地
     2d要素(「AVGの型分類」の項を参照してください)のAVGでは、同じ所を行ったり来たりします。基本的にフラグ立てとなるのですが、その移動においての基点(ベース)となる部分を「中継地」と呼びます。
     探偵モノだったら、自分の探偵所がそれにあたるでしょうか。
     これを用意しないと、フラグ立てに詰まったプレイヤーが混乱してしまうようです。特に後半の移動個所が増えれば増えるほど、その度合いは強くなります。
     その場所のみセーブ・ロードが許されていたり、もしくは、今やらなければならない事(指針)を示してくれたりする場所が中継点になることができます。「JOKER/バーディソフト」では、スペードクィーンの部屋がそこにあたるといっていいでしょう。
     なお、シナリオの関係上、この中継地にイベントフラグを用意する人が多いようですが(家の周りに誰かいる/電話がかかってきた/突然の来客だ)、多用すると、逆に落ちつけない場所となってしまい、中継地になってくれなくなります。この点は気を付けましょう。


3:選択肢
     AVGの基本要素であり、世界観に広がりを与えてくれる重要なオブジェクトです。当たり前ですけど、各選択肢に対応する結果をそれぞれ用意しなくてはいけません。
     選択肢には少なくとも4つのパターンがあるようです。それぞれを軽く紹介してみます。もちろん呼び名はありませんので、適当に命名させていただきました。

    3−A、クリティカル選択肢

       ストーリーの重要な分岐、もしくは選び方によってゲームオーバーへと誘うものです。ユーザに緊張感を与える効果がありますが、多用すると、それに束縛されてゲームを窮屈に感じさせてしまうこともあるようです。

    3−B、シチュエーション選択肢
       いくつかの選択肢があり、それぞれ結果がちょっと違う程度でゲームのクリアには影響を与えないものです。線形的 にしか世界観を説明していけない小説との相違点であり、利点でもあります。「痕/リーフ」で、初音ちゃんに見せる花火などがこれにあたるでしょうか。

    3−C、ノベル選択肢
       いろいろと選択肢が出てきますが、結局それらをしらみつぶしに読ませるようになっているものです。
       だったら最初から選択肢なんてなくても、と思うかもしれませんが、それをやると、「ただ見ているだけのデジコミ」になっちゃうんです。これのおかげで見せかけ上のインタラクティブ(相互干渉)性を実現しているわけです。
       この手の場合、1つの選択肢に対して、2〜4つほどのメッセージが用意されていて、それらをフラグで処理していきます。最後のメッセージは簡潔なものにしておく事によって、ユーザに「この選択肢は行き詰めたな」と判定してもらうことになります。
       この最後のメッセージを長ったらしく、さらにスペース待ちを要求するものになっていると、「インターフェイスが悪い」「ユーザーフレンドリーじゃない」等とぶうぶう文句を言われることになります。

    3−D、リレーショナル選択肢
       直接的にゲームの進行は変わらないのですが、選び方によって何らかのステータス変化を起こし、後の展開に影響を及ぼす選択肢がこれです。同級生、メッセンジャーフロムダークナイト等で用いられています。


4:巡回
     フラグ立てAVGでは、1つのフラグを立てるために、しらみつぶしに歩いていかなくてはいけません。これを巡回と呼びます。コマンド類や移動可能地点が多い場合、巡回量も増えることになります。
     プレイヤーは巡回をする際、「聞く」コマンドあたりはよく使うのですが、あまりに面倒になってくると「見る」あたりはすっ飛ばしてしまう事が多いようです。
     で、フラグを立てるためには実は「見るコマンド」が必要なときがあり、全然先へ進めずに困り果てる事があります(夢幻夜想曲・ドラキュラ伯爵、など)。困るというのは即ち、ゲームに倦怠感(=うざったさ)を与えることになります。
     これを防ぎたい場合は、作り手側が「もう何もイベントの起きない場所」を移動可能地点から次々と削除していくといいようです。鷹月はこれを「自己消滅型選択肢」と呼んでいます。「サークルメイト/ボンびい」他で用いられています。
     また、「見るコマンド」に重要なフラグを用意しない、という手法もありますが、下手をするとプレイヤーは会話文だけしか読まずに、世界描写部分を無視してしまうことになってしまうので、あまりおススメはしません。


5:舞台
     AVGと言っても様々ですが、その物語の舞台となる場所はたやすく分類ができます。

    5−A:現代

       AVGは何らかのドラマチックな展開へ持っていくのが普通です。そのため、現代といってもベタベタに私生活を扱ったりするものはありません。慣れきっている、分かりきっている、しかもフラットな(変化のない)出来事ではユーザはなかなか興味を持ってくれないからです。
       大概は恋愛モノ(憧憬)に入るか、非日常的ストーリー(ファンタジー観・古代・未来・超常系・旅・エッチもの)へもつれ込むようになっています。
       これを逆に捉え、日常を描き出しAVGにした作品も多少ですがあります。同人での「もりな/ACTIVE GAMERS」がそうでしょうし、また恋愛モノでもあるんですが、「トゥハート/リーフ」はかなり日常生活部分の描写に凝っていました。

    5−B:ファンタジー
       舞台が現代でないものはどれも非現実的ではあるのですが、その中でも現代との関連をゼロにしたものがファンタジーです。現代の人間の規範(ルール)に縛られることがないため、詰めていけば、とても壮大かつ独特な世界・テーマの描き出しができるようになります。  ただAVGの場合は、RPGほど事象中心でなく、基本的に人物中心でストーリーが進んでいくので、とことん壮大になることはなく、一つの世界で起きた、あくまで一つの物語、というパターンになると思います。世界の根幹まで詰めて展開させると、「ワイルドフォース/フォア・ナイン」のような長編にならざるを得ません。
       ところでファンタジーで重要なのは、プレイヤーをその世界に引き込むことです。
       つまり、「ああ。こういう世界があったらいいなぁ。多次元空間のどこかに存在していて欲しいなぁ」等と思わせることにあります(現実にある、と思うのではなく、願望として)。逆に「これは作り物の世界だ。人が考えた設定の中で、役割を与えられたキャラが踊っているだけだ」と思わせては絶対にいけない、ということですね。
       その為に、世界観に魅力を与えていく作業が必要になるんですが、そのアプローチとして、「世界設定に凝り、演出する」方法と、「感情移入のできるキャラを登場させる」方法とがあります。
       前者はともかく、後者は下手をすれば、ファンタジーそのものもどうでもよくなってしまうという、自己破壊的なものが含まれていますので、短絡的に「可愛い女の子を出せば、ファンタジーに引き込めるだろう」という考えは止めたほうがいいです。
       とかいって、それでハマる人たちもいるようですが……。

    5−C:近未来
       文字どおり、現代の延長線上の時代で起きるストーリーです。
       これは割とAVGでは扱いやすいものと言われていますが、現代から未来に至るまでのプロセス・歴史をしっかりデザインする必要があり、実際はかなり大変です。
       ただし、「未来に実際にこんな物語が起こるのかもなぁ」と、プレイヤーに想像させたとき、他のどのジャンルよりも感動(もしくは衝撃)を与えることができます。カクテルソフトの「コズミック・サイコ」「ナイキ」はやるべし、うん。

    5−D:その他
       もちろんこの他にも、小説や漫画・映画で使われている舞台はすべてAVGで実現できます。ただ、AVGが他の読み物系よりも自由性があるため、設定はしっかりと作っておく必要があることだけは覚えておいてください(小説とかは、テーマを優先させた場合、設定は適当で済むことがあるのに対して。AVGでは、登場人物の名前を彼、あなた、あの人、と抽象化すると、何がなんだか分からなくなるのがオチです)。



6:結末
     AVGを作る場合にまず考えなければいけないのが、これです。
     小説を書くのに比べて、十何倍も大変な作業ですので、「考えながらおいおい結末も……」では、決して作品を作り上げることはできないでしょう。これは経験からよく分かっています。
     結末が決まれば、ゲームがどれくらいの長さになるのかが決まり、またどれくらいのキャラが登場するのか、そして、制作にどれくらいの時間を必要とするかも見えてきます。
     必ずしも逆順に作った方がいいとは言いませんが、見通しはキチンと立てておきましょう。AVGでは「次回に続く〜」は、確実に続けるつもりがない限り、やってはいけないのです。前例によると「疲れたからここまで〜」的に終わったAVGに、続きが出た試しはありません。
     完結のないストーリーならまだともかく、途中でちぎれているストーリーは、物語とは言えず、はじめからないも同然です。せっかく作るのですから、最後まで作り上げましょう。


7:時間の経過
     小説は読んでいくと、物語中の時間は確実に経過していきますし、残りページ数も少なくなっていきます。これが読み手を「物語の時間軸の流れ」へと引き込むことになるのですが、2D型のAVGはフラグ立てに奔走している間は、処理上、時間が止まってしまいます。同じキャラが同じセリフを喋る、と言うのは時間が経ってない証拠です。あまりこの部分を見せてしまうと、プレイヤーは次第に倦怠感を覚えていきます。
     AVGではなるべく、時間が少しずつ経っている事を見せ、気付かせてあげてください。
     セリフを微妙に、もしくは大幅に変えるもよしですが、展開として、今までいたキャラをいなくさせたり、新しいキャラを登場させたりすると効果があります。また、外部処理として、絵(背景の色とかも含めて)や音楽をチェンジさせることによって、時間の経過とともに新鮮感を与えることができます。


8:選択肢の水増し
     1本道のAVGを作る場合は、まずはデジタルコミックさながら、選択肢もそこそこのゲームを作ってしまっても構いません。最初からきっちりと作れる人はそれでいいのですが、1つのシーンを消化するだけでも、予想の数倍の時間が掛かってしまいまして、非経験者にはお勧めできない構築方法です。

     1本道のラインを作ってから、その途中にいくつも選択肢をくっつけていく、という作業をしたほうが実際に楽になります。ただし、ここで1つだけ注意しなければいかない事があって、それは「あまり冗長な内容を書いてはならない」ということです。
     もちろん選択肢をくっつけないと、AVGのスタイルにならなくなるので必要なのですが、1つの完成したストーリーに強引に「こぶ」を付けていくようなもので、適当な事を書きがちになります。そしてそれは、下手をすると、作り手の表現したがっているテーマを感じ取れなくしてしまう事があります。
     たとえば一例として……。

     勇気、友愛をテーマにして、正義一直線の主人公の物語があったとします。この主人公が、途中で、「助けてぇ〜」と、近くにいるキャラクターに助けを呼ばれたとします(なんかベタな設定やな……)。
     「もちろん、すぐに助ける!」という選択肢があり、これが最初から用意しているルーチンなんですが、ここに「もうちょっと待つ」「無視してみよう」という、正当な行為と対照的な行動を入れようとしてしまいます。もちろん1本道ですから、このマイナス的な行動は結局は取れないように仕向けられます。
     ここでの作り手側の狙いは、「主人公に正しい選択をさせる」という事そのものです。通過儀礼のようなもので、これ自体は一見何も悪いように見えません。
     ところが、ユーザにとって、このプロセスは違った感覚を受けます。マイナス的な行為をする選択肢がある時点で、「そのキャラはそういう行動も考えている」と思ってしまい、また、そういうマイナスな行動を選んでしまうと、たとえ、「無視しちゃおうか……と思ったが、繰り返されるその悲鳴に、俺は足を止めた」という、最終的には助ける事になっても、ユーザにとっての主人公像に、「一度は拒否した」という行動の事実が加えられるわけです。
     そしてこのまま、正規のストーリーが進んだ場合、作り手は「感動を与えられる」という自信があったとしても、ユーザにとっての主人公には自己矛盾を抱えているため、感動できなくなる……という結果になる場合があるのです。

     なんか難しく書いてしまったので、もう一度、分かりやすく説明します。
     ドラクエ1のエピローグで、ローラ姫が、勇者に擦り寄ってきます。
    「私も、旅のお供に付いていってよろしいでしょうか?」と、「はい・いいえ」の選択を余儀なくされます。ここで最初から「はい」と答えた場合、問題なくロト伝説は成立します。作り手とユーザの主人公像とが合致するからです。
     問題は「いいえ」を選んだ場合で、永久に「そんな、ひどい……私も、旅のお供に付いていってよろしいでしょうか?」と、同じ質問が繰り返されます。これを選んだ時点で、勇者はローラ姫が好きではない、という事になります。そして強制型で「はい」を選ばされて、「結局、ローラ姫の権力に屈する形となり、勇者は心あらずも、ローラと結婚してしまうのであった……」とユーザは感じてしまうんです。選択肢を入れたために、二者のイメージが変わってしまうのです。まぁ、幸いドラクエ1の場合はユーザの感動という面には影響を与えませんでしたけど。
     選択肢自体は、世界観の幅・行動の幅を広げるという意味でとても有益なのですが、気を付けないと細かいところで、致命的な結果になるということです。



9:フレーバー挿入
     先の8と、話的に続いています。
     ゲーム中のテキストの中で、どうでもいい事まで書かなければいけない、という事がよくあります。たとえば「見る」選択肢での「立て札」とか、本当にどうでもいい端役のセリフなど。これらを「フレーバーの挿入」と鷹月は呼んでいまして、AVGやRPGでは、意外にこれを埋めるのに時間がかかります。
     フレーバーは、うまく世界観を広げるようなテキストを書くのがコツです。
     立て札を見ると「その立て札はずいぶん昔のもののようで、文字がかすれている。なんとか、王都街道、と読む事ができた」とか、
     人に聞くと、「北の山は、3年前に噴火したんです」など。
     縦のストーリーに登場する事がなくても、こういう切れ端切れ端のテキストを繋げる事が、世界への魅力を増していく事になります。そして、ここの部分をないがしろにする人たちがかなり多いようです。
     面倒のあまり、立て札を見ると、「マルチ萌え〜、と書いてある」とか、人に聞くと、「中島みゆきの歌詞って、暗いと思いませんか?」などと、突如ファンタジー世界となんの関連もないテキストを登場させているのです。作り手にとってはただの「お遊び」だと思っていても、ユーザにとっては、世界観から「引く」要因になってしまいます(JOKERとかね)。
     最初からパロディ・ギャグのAVGを目指す人は気にする必要はありませんけど。

     面倒なものでも入れなければ作品にならないものがあって、それを自然に消化させるという作業がAVGでは必要なのです。これが小説や漫画などのノンストップ型ストーリーとの大きな違いであり、これをこなせるようにならないと、小説が書ける人でもAVGの脚本は作れないのです。
     作品性にこだわりを持っている人なら大丈夫だと思いますが……。



 とりあえず、思いつくままに重要であろうという事だけを挙げてみました。ひょっとしたら書き忘れていた事があるかもしれませんが、それはまた別の機会にでも紹介しようと思います。記事への感想などお待ちしています。

- 鷹月ぐみな


Creation College
鷹月ぐみな情報局2号館

Written by. gumina(鷹月 ぐみな)