Article:RPGの不条理性・DQIII編


 日本製のコンピューターRPGが、リアリティの面でどういう部分が不条理になっているのか、DQ3を例に取り上げて(プレイした人が多いと思ったため)、小説もどきで紹介しています。先に断っておきますが、ゲームのあら捜しをするものが目的ではなく、新しいタイプのRPGの形を模索してもらうために書いたものです。欧米のRPGと比べてみてください。どれだけ不条理性が少ないことか。しっかりデザインをすれば、世界観とゲームが一致できるんだなぁ、と言うことが分かります。
 ちなみに以下の文章は、鷹月ぐみな情報局1号館時代のものです(96年2月ですからねー)。ずいぶん昔になったなぁと思いますが、それでもこの記事は今でも有用と考えて掲載しています。

- もしも「私」が勇者だったら
Article Written: 96/2/7




1
「これ勇者、早く起きて、お城に行きなさい」
 母親が「私」を叩き起こそうとする。しかし「私」はまだ眠いから無視することにした。
「…………」
「…………」
「あの〜、時計が動かないんですけど」
「そりゃそうよ」と母。
「貴方が起きて、城に行かないと進まないの」
「なるほどね、強制イベントを進行させないといけないんだね。時間経過があるように見せかけても、結局はフラグが全てなんだ」
 「私」は嘆息しながら起きる事にした。
「ドラクエ4でも結局はこれだ。……明日までにXXを持ってこないと娘の命はない、というシーンに出くわした後、宿屋に何度寝ても娘は殺されていないんだ。RPGとはいっても必要なのはロールプレイじゃあない、XXを手に入れたというフラグさえあればいいんだよ」
「今なんか、とんでもない事を言わなかった?」
「お城に行ってきま〜す」


2
 「私」は謁見室へと向かった。謁見と言うと絶対王政の象徴のように見えるが、実際の所は市民から猫まで、誰が行っても王様に会える。そもそも王様は夜が来るまでは謁見室で座っているらしい。

「私」は王に会う。そして王は喋る。
「バラモスによって今、この世界は征服されようとしているのだ」
「……ふうん」
「お前の父である、あの勇者オルテガも今は亡い。……我々の望みの綱はもう、一つだけしかないのだ」
「……ふうん」
「というわけでだ。……バラモスを討伐してくるのだ。頼まれてくれるか?」
「頼まれてくれるかって王様。……王命に逆らったらどうなるか、貴方が一番良く知っているでしょうに。まあこのファンタジーだから死刑はないだろうけど……その場合は……試してみよう、返事はノーだ」
「そんな、ひどいことを言うものだ、オルテガの息子よ。……そなたしかおらんのだよ。バラモスを討伐してくるのだ。頼まれてくれるか?」
「実際にゲームのこの場面ではこの問答はないけど、質問が与えられた場合、大抵はこのパターンだ。何の為の質問なんだろうな。……結局の所、王命には逆らえないのさ」
 「私」は不承不承、これを受ける事にした。
 そして、お金と武具を貰う。「私」はそれを手にとって、小さく独り言を言った。
「……おいおい、何だこのよわっちい銅の剣にこのチンケな軍資金は。これでバラモスと戦えって言うのか……?」
 嘆息。俺は独り言を続けた。
「……ひょっとして、アリアハンは財政難なんだろうか。だとしたら、この国は明日にでも潰れるだろうな」
「なんか言うたか、オルテガの息子よ」
「いえ、ちょっと考え事を……」
 「私」は下を向いたまま呟いた。
「いいんだけどね、こういう設定。……ただ、ゲームバランス調整の為だって、ちょっと考えれば気づいちゃうのに問題があるんだ。実際にファンタジー世界があったとして、果たしてこんな「のたれ死ね」と言わんばかりの用意を与えるだろうかな。……一応抗議してみるか」



 「私」は抗議すべく、王様に詰め寄った。
 しかし返ってきたのは。

「さあ行くのだ、勇者よ」
「……おい」
「さあ行くのだ、勇者よ」
「……もう少しマシな物はくれないのか?」
「さあ行くのだ、勇者よ」
「壊れてやがる」

 まるで蓄音機だ。

「基本的にキャラクターの台詞は、用意されたデータをそのまま繰り返し表示させるだけ。……言ってみればロボットだな。こういう世界で、現実性をもたせることは無理だろうな」
 「私」は抗議を締め、城を後にした。



 ロボットに何を言っても無駄だと悟った「私」は、ルイーダの酒場に行くことにした。
 たくさんの人々……戦士や僧侶や魔法使いがたむろしている。
 ここで仲間を探せというわけだ。
 そうか、強い人達もいるんだろうと声をかけてみて愕然とした。
 「……ほとんどみんなレベル1じゃないか! あとは、レベル2がほんの少しいる程度だしな。……おいおい、冒険者ってのはいっかくウサギぐらいしか戦えないほど弱いやつらなのか。20分も戦っていればレベル3以上にはなれるぞ普通。真面目に冒険してるのか?」

 まあ強い人達はすでに冒険に出かけたんだと自分を納得させ、仕方なく仲間を集めることにした。
 もちろん仲間は多いほうがいい。一人、二人、三人……。

「それ以上仲間の登録はできませんよ」
「なぜに?」
「なぜにって、あなたはもう、三人も仲間がいるじゃないですか」
「TRPGでは6人ぐらいが普通なんですが……」
「……5人以上にすると、戦闘時のステータスが表示できなくなるからザマス」
「まあ、これはゲームバランス調整の為だからいいんだけどさ……ブライみたいに8人いても、面倒なだけだし」
 「私」はため息をついて、
「ただ、仲間は3人以上仲間に出来ない正当な理由ぐらいは説明してくれよ。敵は最大8匹もパーティーを組んでくるじゃないか。おまけに仲間も呼ぶし」
「……あなたには3人ぐらいしか仲間を作る人望がないザマスね」
「このアマ……」



 ところで、仲間は一応「布の服」を着ていた。
 「私」はちょっとした指示をしてみる。
「それを脱いで俺によこせ」
「はい。あなたのご自由に」
「ルイーダ、この仲間を預かってくれ」
「はい、あなたのご自由にザマス」
「道具屋、こいつを買い取れ」
「はい。7ゴールドになります。ありがとうございました」
「……なぜ、こんな事ができるんだ」
「それがRPGの自由性ですよ」

 「私」はそれを聞いて、脱力感に襲われた。

「思いっきりストーリーは束縛しておきながら、そういった台詞をぬけぬけと吐くか。……これは自由性なんかじゃない」
「まあ、裏技ですから」
 そっけなく答えてくる。「私」は怒りを募らせる。
「実際に勇者に限らず人間はこんなことはしないし、こういう事が許されてはいけないんだ。人の家に上がり込んでアイテムを無断で盗んでこれるのもどうにかしているんだ」
「プレイヤーが鬼畜じゃなきゃ起きませんよ」
「ほう、プレイヤーのせいにするか。じゃあ、いい例を見せてあげよう……」

 「私」は未来が見える、遠見の水晶球をかざす。

「あんた、そんなもんどっから……」
 「私」はそのツッコミを無視した。



「私」とその仲間達は、付近一帯を支配する邪悪な魔人の住む居城に乗り込んだ。沢山の怪物たちと戦い、体力/魔力とも似消費しながら、もうすぐ魔人の元へ辿り着こうとしていた。
 その時、雑魚を倒したおれたちは一斉にレベルアップをした。
 レベルアップは嬉しいもので、一時休憩して床に座り、その喜びを語り合った。
 だが「私」は現実を思い出し、呟いた。
「でも、だいぶみんなHpもMpも消費したな……」
 そして、みんなに励ましの言葉をかけた。
「つらいかも知れないが、……あと二部屋、もう少しだ。頑張ろうぜ」
「ちょっと勇者、提案があるんだけど」
「提案?」
「いや。せっかくレベルアップしたんだし、セーブしたいんだけど」
「気持ちは分かるが、この城内じゃセーブポイントはないぜ」
「いや、だから……いったん街に戻ろうって事だよ。なに、俺達も強くなったし、今度はここまで来るのに、今回の半分で済むだろうよ」

 と、他の仲間もそれに同意するような意見を次々に出し始める。「私」はまた嘆息した。
「ちょっと待て、俺達はあれだけの祝福を受けて、この城に乗り込んでいるんだ。加えて、生贄の命もかかっているんだから、戻るわけにはいかないだろう」
「でも、死んだら元も子もないぜ」
「それはキャラクターというよりはプレイヤーの台詞だ。そんな事を言うようなキャラクターは初めからこんな所には来ないはずだ。……まあ、そういう行動をするのはプレイヤーのせいじゃない。悪いのは、戻る事を認めているゲームシナリオの方だ。自由性を振りかざしているから起こる、キャラとプレイヤーの不一致現象の典型的な一つだ」
「なんでもいいけどよ……一度戻ろうぜ」
「あんたら、今の話聴いてなかったな……」



「……というわけだ」
 「私」は水晶球をしまうと、話を聞いた男の反応を待つ。
「う〜ん、なるほど。君の主張は理解した。でも、HpやMpを本当に消費していて、勝てない事が100%ないと分かっている場合はどうするんだ?」
 その男は反問してきた。「私」は我が意を得たりと、うなずいてから答えた。
「100%ないっていうのはプレイヤーの感覚だろう。キャラクターとしては、戻る事こそ100%ないぜ。まあ、怖じ気づいて逃げるというのなら可能性はあるけどな」
「じゃあ、システムで、戻れないようにしておこうか。消費がひどかった場合、それだと100%パーティーは死んでしまうぞ。それでも行かせる気なのか?」
「それはゲームバランス屋さんがサポートすべき問題なんだ。うまい具合にポーションやエーテルを配置しておく。そっちのほうがゲーム的にもリアリズムとしても正しい方向性になるからな」
「なるほど……それは君のいう通りだな。じゃあとりあえず、布の服は買い取れない事にしておくか」
「もしくは0ゴールド引き取りな」


 町人みんなロボットだ、と認識し、不快感を覚えながら「私」は外に出る。
 と、「おおガラス」の集団と遭遇する。
「ちょっと強そうだ、逃げろ」
「駄目だ、回り込まれた!」
 ……時は流れ、目の前にメタルスライム登場。
 敵は逃げ出す。
「やつを逃がすな!」
「駄目だ、われわれに追いかけるコマンドは用意されていない」
「ンな不条理な!!」
 そう、不条理なのだ。今まで述べてきた事柄は不条理ばかりである。
 この問題に取り組まない限り、日本のRPGは本当のRPGとは言えないのである。


 ロマリアに渡るためには「魔法の玉」で、塞がる壁を壊さなければいけないことが分かった。
 ナジミの塔で鍵を貰った「私」達はそんな事態に直面していた。
 ふと「私」は仲間に聞いてみた。
「なあ、アリアハンは世界でただ一つの冒険者の登録所だったよな」
「ああ」と、仲間。
「あいつら、どうやってロマリアに行ったと思う」
「その時はいざないの洞窟の壁はなかったんじゃないかなぁ」
「そう仮定しておくよ。じゃあ、どこで盗賊のカギを調達してきたと思う? あれもロマリアに行くためには必要不可欠だぜ」
「……船で渡っていったんじゃ」
「港町はアリアハン王国にはないぞ」
「うーむ」
「そこで、考えてみたんだ。つまり、彼らは誰一人としてロマリアには行けなかったんだ。考えてもみろ。俺達はフィールドや洞窟で、ただの一度もあいつらには会っていない。結論は、あいつらは冒険をしていないんだよ。みんなそうだ。ウィザードリィのギルガメッシュの店だってそうだったろ」
 そして第五点目。結局のところ、世界のストーリーというのはプレイヤーの周りでしか動いていないのだ。いくら世界観を出そうと頑張ったつもりでも、これでは無意味どころか逆効果である。
 これはもはや世界とは言えまい。


 あからさまな仮想世界の中をそれでも我慢して冒険を続けてきた「私」。
 そしてとうとうゾーマの城の中に入った。
 いまちょうど目の前では、「さつじんき」……もとい、オルテガが生命力無限大のキングヒドラと戦っている。
 そしてオルテガは殺されてしまった。
 「私」は駆け寄った。  「父さん!!」
 「△△か……もうだめだ、ぐふっ」
 「大丈夫だよ父さん。ザオラルもザオリクも、世界樹の葉もあるんだ。今生き返らせて……あ、消えたぁ!?」
 「私」は絶叫する。
 「不条理だ! どうせゾーマを倒したら母さんと会えなくなってしまうんだ。もうやめてやる、さらばアレフガルドのロト伝説、さらば! ……リレミト!」
 ……こうして「私」はアリアハンに帰ったのだった。  「どうせ、時間なんて経たないんだ、俺がゾーマを倒すまでは。つまり、世界がゾーマに支配されることもないんだ……さて、アッサラームあたりでぱふぱふしてもらいに行こう☆」

 こうして「私」は、永遠の平和を世界に与えたのである。



 改めて言っておきますが、鷹月はドラクエの大ファンです。全てリアリティを解決するべきとも考えていません。下手にリアルリアルした面が見えない方が、ユーザの中で自己補完(想像)の楽しみがあることも確かです。しかし、日本のRPGがTRPGを基底としていないため、本来のRPGの意味やモチーフというものを知らないまま現在に至るまで作りつづけられています。この記事は、新しい方角へ進んでもらいたいがために、わざとリアルマン(TRPG用語。リアルロールプレイを目指す人)の視点から捉えて紹介してみました。「私」のひねくれ方には反発したか共感したかはともかく、既存のRPGに何か思うところができればいいかなと思います。

- 鷹月ぐみな


クリエイションカレッジ
鷹月ぐみな情報局2号館

Written by. gumina(鷹月 ぐみな)