Article: シナリオの導入と進行

- スタンダードRPGにおける冒険の導入パターン
Article Written: 98/5/27




1、冒険への導入
     主人公が冒険に出かけるキッカケというのが当然ながら存在します。ここではいくつかの例を取り上げてみます。

    A、強制突入型
     いやがおうでも、強制的に探索をするハメになるもの。気を付けないとこれだけでユーザに拒否反応をもたれてしまうので、シチュエーション的に惹きつけるか、主人公達に感情移入をさせてあげるかなどの処置が必要になります。一例をあげますと、

    ・ジャーナリストとして館を調査するために入ったが、閉じ込められてしまい、出口と同時にウワサの真相を求めて探索をするハメになった……(スゥイートホーム/カプコン)
    ・レジスタンスとして、魔胱炉を破壊する任務を遂行する(FF7/スクウェア)
    ・辺境の村にボムのゆびわを届けるよう命じられるが、辿り着いてみると……(FF4/スクウェア)

    B、準強制型
     誰かから「〜しろ」「〜してくれ」といった嘆願を受け、旅に出るパターン。任務遂行は「なるべく早く」程度であることが多い。また、任務達成のために旅に出るだけであって、明確な手段が示されていないのが通例です。このため、プレイヤーは誘導を受けながらも窮屈にならない、一番スタンダードな導入となります。

    ・魔法バラモスの討伐を命じられる(ドラゴンクエスト3/エニックス)
    ・地域のしきたりとして、一人前の冒険者になるための試練を受ける(アルヴァリーク冒険記/リバーヒルソフト)
    ・師匠から、魔天八部衆の監視および撃退を命じられる(幻影都市/マイクロキャビン)

    C、自主設定型
     主人公が、自分の目的のために旅に出るというパターンです。展開的にはBと近くなるんですが、パトロンがいない分、紆余曲折していく場合が多いです。シナリオが貧弱だと、途中でたるんで来てゲームがつまらなくなります。

    ・自分の国を滅ぼした魔軍の魔導師を倒す誓いを立て出発する(ヴェインドリーム/グローディア)
    ・外の生活に憧れ、親衛隊なるものを結成して王国のパトロールを始める(プリンセスミネルバ/リバーヒルソフト)
    ・塔の頂上へいけば、何でも願いがかなうと聞いて向かった(カオスエンジェルス/アスキー)
    ・お姫様との玉の輿を狙って、冒険者レースに参加する(ロマンスは剣の輝き/フェアリーテール)

    D、自然誘導型
     最初は何も情報を与えずに、自然の成り行きで旅に出て、そこで自分の目的を見つけたりしていきます。これは、プレイヤー=主人公の同一化を図ろうとするコンセプトの上でよく使われます。

    ・自分の住む村が、なぜか魔物の襲撃に遭った(ドラゴンクエスト4・第5章/エニックス)
    ・父親の旅にただ付いていった(ドラゴンクエスト5/エニックス)



2、ゲーム進行
     RPGは当然ながら次々とシナリオを辿っていきます。これを舞台に焦点を合わせて追っていきますと、いくつかに分かれていることが分かります。なお、各見出しは分類の必要上、鷹月が造語した言葉ですんでご了承ください。

    A、おだんご型進行
     A地点からB地点に行き、そこでイベントが発生します。それが終わったらC地点へ向かい、またイベントが発生したり……と、新しい場所に行くたびになんらかの「つまずき(障害)」に遭遇しながら進めていくものです。昔行った場所へも戻れますが、新しいイベントは発生していないうえ、武器も昔クラスのものしか置いてないため、基本的には先へ先へと進む事になります。92年までのRPGはこのケースが全体の8割を占めました。
     町や城など、新しく来る土地ではかならず新鮮味を与えつづけていきますが、結果的には使い捨てとしての存在になっています。

    B、すべり台的進行
     次から次へと舞台を移していきますが、昔行った場所へは「もう、そちらへ戻る必要がない」と拒否されてしまい、行動ルートが完全に固定されてしまうものです。英雄伝説3などがこのいい例です。
     強制が入って自由性を下げるという手法は一般的にはマイナスと言われていますが、ロールプレイとしては「極めて当然な行動」であり、リアルストーリー指向ならこちらにすべきでしょう。下手に戻れない分だけ、世界観が崩れないというのはかなりのプラスになります(Aの場合、昔の町はすでに時が止まっているため、世界観は主人公のために存在しているということを証明してしまう)。
     なお、戻れないということは、前のシナリオで使ったフラグを初期化して再利用ができるという面があり、データ処理では非常に楽になる事を付け加えておきます。

     ちなみにもう1点。ボス系の敵などを倒してしまった時点で次の舞台に強制的に移行してしまうと、「しまった。やり忘れたことがあった」とユーザが後悔し、一度やり直すという不毛な作業をする事があります。これは緊張感を崩すマイナス効果があるので、「次の舞台に移動しますか? まだなら、満足するまでぶらついていてくれ」らしき確認を取っておく方が良いかと思われます。
     もっとも、パロム・ポロムの自己犠牲イベント(FF4)で、「しまった。奴らの防具などをはぎとっておくべきだった」などと考え、やり直すユーザの事まで考慮しておく必要はありませんが。

    C、ピボット型進行
     1つないし2つの町を中継として、必要に応じていろいろな町なり洞窟なりに向かって行くタイプ。依頼消化型(依頼をする人物が常に同じ所にいる)の冒険者や、魔法学校の生徒などが主人公の場合に使われます。中継地の町の人たちの行動やセリフを進度に応じて細かく変えていくと、町全体に次第に愛着が湧くようになってきますが、それを行なわないと「セリフの変わらないところには行く必要がない」とされ、生活空間としての実感を失わせる結果となります。英雄志願や幻影都市などがこれを利用しています。

    D、クロニクル・リング進行
     いろいろな場所へ冒険をしていきますが、一巡りして元の町に戻り、そこでまた違うイベントを発生させていくものです。デザイン的には「時間の経過」を強調させることができ、世界観自体に深みがでますが、失敗するとAの進行以上に実感を失わせることになります。ドラゴンクエスト4や5がこの進行を使用していました。

    E、リドル進行
       新しい舞台で障害が発生するわけですが、それを乗り越えるためには、この舞台と、以前の舞台全てを駆け回らせるもの。ユーザはデザイナーの意図にしたがって行動するわけではないので、闇雲に広大な過去の土地を探し回っても「キーとなるイベント」をいつまで経っても見つけられないことがあり、プレイヤーが匙投げを起こしてしまう可能性があります。ある程度のヒントを与え、うまく誘導してあげる必要がありますが、この手法に成功した場合、障害を解くのが楽しみになっていきます。RPGでは「消えたプリンセス/イマジニア」などで採用されていました。



3、ストーリーの誘導に関して
     通例RPGは一本道ですから、あるシナリオをクリアすると、すぐ次のシナリオが与えられることになります。そのシナリオの導入に関しては実に様々なバリエーションが存在します。先の「冒険の導入」と記事が重複する部分がありますが、ご了承ください。

    A、目的のための通過点

    「あの谷を越えるには、長いロープを手に入れないといけない。しかしそれ程のロープを作れる人間が捕まってしまっている。その人間はドルイグ城に幽閉されているのだが、ここに入るには騎士の証がいるらしい」

     この例を見てどう思ったでしょうか。目下の目的である「騎士の証を入手」したとしても、「あの谷を越える」という解決にまったくなっていません。ドラクエ3で船を入手するプロセスがまさにこんな感じだったんですが、「次がああして、こうして……」という手順が沢山あると、「面倒だなぁ」という倦怠感だけがずっしりのしかかります。結果的にこういったプロセスを辿ることになったとしても、ユーザには常に次の目的程度しか示さない方が進めようという意欲が出るものです。

    「谷が越えられないのはまぁ、目下どうしようもないということで、置いておくとする」
    「あの城には善良な人々が囚われているらしい。騎士の証があると城に入れるのだが……」
    城の中にて、「ここには、とても腕のいいロープ職人が囚われているみたいだぞ」

     このように小目的を繋げることにより、気が付けば一連のプロセスをこなしていた、とさせることができます。ゲームデザインの未経験者は最初のパターンを作りがちなので気を付けてください。

    B、逐次指令

     1つの小目的をクリアするたびに、何者かによって次の小目的を「強制的に」設定されていくタイプです。それが主人公の希望と合致していれば問題はないのですが、ルーチンワーク的に与えられると、主人公達がゲーム上のただの駒と成り果ててしまい、愛着を失う結果になります。「ブランマーカー/ディー・オー」などがそうなのですが、ノンコンセプトで作っていくと必ずこのパターンになってしまいます。

    C、誘発的決定

     シナリオの冒頭にて、何らかのシチュエーション(町に病気が流行る、酒場の娘がさらわれる、など)が発生し、感情的もしくは義務的に「〜しなくてはっ」と主人公が行動を決めていくものです。進行としてはBと同じになるのですが、あくまでプレイヤーの分身たる主人公が目的を決定しているので、一本道に対して「強制だよなぁ」とあまり文句を感じなくなります。
     TRPGをやってみると分かるのですが、GMの操るキャラが依頼なり冒険の導入を提示してきた時、プレイヤーたちは「これを受けなくちゃ、GMは困るに違いない」と気が付いているので、彼らは依頼料を交渉したりはしますが、結局「自分達から意欲を見せる」風にロールプレイをしていきます。誘導と分かっていても、導入が自己決定の形になっていれば、強制感というのは受けないのです。やや難しい思考展開ですが、理解しておくことをオススメします。

    D、疑似自由型進行

     見かけ上は、次の行動などを完全にプレイヤー側に任せる形にしておいて、いつの間にか一本のストーリーへと誘導しておくもの。プレイヤーに「次は〜するといいかもよ」と気付かせずにそれとなく提示しておくのがミソです。
     「たまたま〜したらイベントが発生した」と思わせれば勝ちで、その裏では「〜するように」仕組んでいるというわけです。一本道のストーリーなのに、擬似的に自由性を味わわせることができます。RPGではありませんが、AVGの「ナイキ/カクテルソフト」がこの進行においては、世の全てのゲームの中でもっとも巧く調理していると個人的に思っています。



4、シナリオ導入の典型例
     3では、目的設定の主体性について取り上げましたが、ここでは導入そのものの実例を思い付くまま紹介していきます。まぁいわゆる「お約束」と思ってください。

    A、お姫様(など)が何者かによってさらわれた!<大目的>
     「お姫様の仕事=さらわれること」という皮肉が広まるくらいに有名な導入パターンで、ドラクエ1などに用いられています。大抵主人公の階級というのは平民であって、姫を助けるという行為によって一時的に立場が姫と同格になることにより、ヒーロー性を演出することができます。ちなみにこの手のお姫様はかなりしぶとく、助けたときには死んでいたというオチは聞いた事もありません。まぁ、主人公の行為が報われなくなるからという理由なんでしょうけどね。ただし「アンビヴァレンツ」のように上手く利用する方法もありますが……。

    B、お姫様(など)が行方不明になった!<大目的>
     Aと類似していますが、「強い存在によって捕まった」とは限らないため、貧弱な市民にもなんとかする余地があります。たいていオチは「駆け落ち」「家出」「やはり、さらわれていた」というパターンですが、発展としては「実は身内によって殺されたが、公表するとマズいため、わざとこのようにふれこんだ」というものもあります。シナリオ的には王道勇者系ではなく、シティアドベンチャー系になり、楽しさがまた違ってきます。

    C、知り合いがやがて死に至る病にかかった<小目的>
     マトモに解析すると「強制」に他なりませんが、「知り合い」が以前のイベントで感情移入できるキャラだった場合、主人公の目的がプレイヤーの目的と合致しまして「強制」とならなくなります。ちなみにこの後の展開は、「魔法使いに薬を貰いに行く」「高山に咲く花が病の特効薬になる」という、立派な一つのシナリオラインができあがります。

    D、トラブル・大事件をいつの間にか背負い込んだ<小目的?>
     「荷物の運搬を頼まれ、お約束的に荷物が何者かによって狙われる」、「魔物に襲われていた女性を助けてみたら、王女だった」など、なんでもなさそうな行為から大きなストーリーに展開していくパターンです。毎回がこれでは、「黄門様の歩くところに悪事が発生する」となって、気を休めなくなってしまうのですが……。


 ……とまぁ、スタンダードRPGの冒険はこのように展開されるわけです。TRPGのシナリオもだいだいこのようになっていますね。何か感想、要望などありましたら気軽にメールをくださいね。

- 鷹月ぐみな


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Written by. gumina(鷹月 ぐみな)