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∇ 脚注
 このページで取り上げている資料のカテゴリを示し、そのカテゴリが創作のどのあたりに役に立つのかを述べておきます。

昔話・神話→昔・神
 ファンタジー作品の物語の源は、昔話や神話等です。そうしたオリジンを調べる事は極めて重要であろうと思うのです。

解析書→析
 昔話解析、ファンタジー解析。専門家の知識を労なく得られてしまうのですから、こんな楽なことはありません。

ファンタジー作品→幻・童
あなたがファンタジー作品を作りたいなら、実際の作品例も勿論参考になります。

歴史書→歴
 世界観を練りこみたい人は、歴史の真実やディテールに目を向けてみるのも良いでしょう。

社会学関係→社
 作り手は、読み手(遊び手)たちの置かれた境遇、環境、願望などを知っていなくてはいけないし、また、ゲームというのがどういう影響を持つのかなども把握しておかなくてはいけません。ゲームデザイナーやシナリオライターは社会学・文化人類学関係の書籍は読んでおいた方が良いと思います。

哲学・思想関係→思
 作品・物語にはコンセプトやテーマが必要です。哲学書なんて一見ゲーム製作の資料としてはあまりに遠い距離にあるものと思えますが、いえいえ、なかなかに有用なものです。

一般小説→小
 ファンタジーではない小説。

その他製作関連→資
 直接創作の参考資料となるもの。RPGメイキングガイドシリーズ等。


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クリエイターズボード(掲示板)

- 創作参考書籍一覧

 主にゲームデザイナー/シナリオライター向けとなる書籍についての紹介です。といっても、鷹月の読んできた本を創作の観点から評価しているだけなので、偏りはあるかと思いますが(^^;

Update: 2001/10/26


これらの書籍について

 私が参考にしている、あるいはした資料はかなり膨大な数にのぼります。一度には書き切れないので、暇を見てこのページに少しずつ追加していこうと思います。現在の紹介数は41です。(100くらいにはしたいですね〜)
 本の大まかなカテゴリを作品表題の前に漢字1字で表しています。左脚注欄にカテゴリの解説がありますので、自分が読むべき本のカテゴリはどれなのかを先にチェックしておきましょう。
 なお、プログラム系/パソコン知識系の書籍はこちらでは触れていませんので、予めご了承下さい。

あ行の参考書籍

 社  遊びと人間/ロジェ・カイヨワ/講談社学術文庫/1990年/\1000

 「遊びとは何か」「何故人間は遊ぶのか」という根本的な問いに対して、あらゆる見地(現象学、発生学……)から考察、解釈を加えた遊戯論の名著。やや読みにくく、内容も難解であり、また現代の遊びの形に適用させるためには読み手自身の解釈作業を必要としますが、ゲーム製作に関わる人間は読んでおくべき、と思わされる本でした。というより、遊びについて真剣に、その意味を問おうとする本自体が殆ど存在していないので、非常に貴重なのです。文庫(400P程度)のくせに1000円するという、思わず回避してしまいそうな値段ですが、実際お勧めです。
 なお、カイヨワの理論を深く知るためには、「遊びと聖なるもの」の他、ジョルジュ=バタイユの著書にも目を通しておくと良いでしょう。

 歴  海の都の物語(上・下)/塩野七生/中公文庫/1989年/\876

 水の都と称されるヴェネツィアについての一千年の歴史を描いた小説風随筆。迷走を重ねたと言われる第四次十字軍について、独特の見解を図っていて、それだけで読む価値があるかと思います。氏の叙述は具体的かつ興味をそそられ、世界観を製作するときの参考になるでしょう。特に都市国家を舞台とした作品を書きたい人にとっては、これらのディテールは涎ものの資料と思われます。
 なお、これと一緒に、「ロードス島攻防記」「コンスタンティノープルの陥落」という氏の小説を読んでおくと、なおいっそう深く知る事ができると思います。

 神  変身物語(上・下)/オヴィディウス/岩波文庫/1981年/\700

 「幻想系ファンタジーを書くなら基本だよ、基本」と某学者が私に(執拗に)薦めてくれた、ファンタジー第1の古典。要するにギリシア神話の本なのですが、神話についての知識のみならず、枠物語という形式を取ったその叙述形態にも注目できます。何の参考になる云々でなく、確かに基本として押さえておきたい書籍で、そこらへんの本屋さんですぐに手に入る文庫なので、とりあえずGETしておきましょう。

か行の参考書籍

 社  悲しき南回帰線/レヴィ=ストロース/講談社学術文庫/1985年/\900

 構造主義の泰斗、学者ストロースの熱帯訪問記。学術的には文化人類学の転機をもたらした価値のある書です。ファンタジーの観点から行くと、未開の地および、植民地(の人々)についてのディテールを得るのに最適の資料となり得ます。小説のように読みやすい本ではありませんが、少しずつ読んでいくと良いでしょう。ストロースは哲学も学んでいるため、事象について広い視野からの考察もしていて、これらも参考になるでしょう。

 童  かるいお姫さま/G・マクドナルド/岩波少年少女文庫

 メルヘンを書きたい人なら読んでおきたい、「神話をつくる現代作家」G・マクドナルドの代表作の一つ。児童向けの短編ですが、ルイス・キャロル(言うまでもなく「不思議の国のアリス」で有名)とは違った方向での現代社会へのパロディが散りばめられています。パロディはともあれ物語としても非常に美しく、メルヘンとはかくあるべき、と認識させられます。
 脇明子氏の「ファンタジーの秘密」内でも紹介されている本です。

 資  感覚表現辞典/中村明

 「白」とか「熱い」とか、そういった感覚に属するものについて、文学作品から表現を抜き出し辞典形式にしたものです。物書きにとって、形容ボキャブラリーの参考資料となるでしょう。もちろんこの本に依存するようでは駄目で、これをテキストとして、自分で感覚表現の能力を身につける助けにする、というのが良い活用法なのかな、と思います。

 幻  吸血鬼ドラキュラ/プラム・ストーカー/創元推理文庫/1971年/\860

 ファンタジー書きとしては、有名なファンタジー古典は読んでおくべきでしょう。この作品、複数の登場人物の日記を列挙する事によって展開される、日記小説の形態を取っています。しばらく前に「パースペクティヴ」がもてはやされましたが、遥か昔のファンタジー作品ですでに実現されていたというわけです。恐怖がじわじわ外の世界に広がっていくところ、ホラー小説としてもバッチリ、ともあれ吸血鬼を物語に出したい人は、「吸血鬼カーミラ」ともども一読しておきましょう。
 しかりクロウリーの教本にされたというのが何とも笑えます。

 幻  銀河鉄道の夜/宮沢賢治

 賢治の本はご存知のとおり殆ど全編メルヘン仕立てのファンタジーです。けれどメルヘンとはいっても、生や死の問題を常に取り扱い、シビアで深い作品ばかりです。物書きとして薦められる話は沢山あるのですが、ファンタジーの代表作として「銀河鉄道の夜」を挙げておきます。私も子供の頃、この作品世界のその澄み具合には惚れたものです。(今でもですが)

 析  金枝篇(1〜6)/J・G・フレイザー/岩波文庫

 古代呪術・儀礼についての膨大な研究をまとめたもの。賛否ずいぶん出ましたが、この分野に一大センセーションをまきおこした本です。ちょっと読みにくいのが難点ですが、魔法昔話というカテゴリのファンタジーを構築しようと思っている人は、一度は読んで置きたい本です。

 析  グリム童話 〜子供に聞かせてよいか?〜/野村滋/ちくま学芸文庫/1993年/\760

 「グリム童話が残酷であり、子供に聞かせるのは良くない」等という意見に対して、根拠を挙げて反論しているグリム童話の解析的書物です。プロップの「昔話の形態学」を構造解析のために取り上げていながら、対を成す「魔法昔話の起源」の部分を無視しているようで、そこに片手落ちが見られるものの、概ね提示された命題はうまく消化できている気がします。グリム童話の本を数冊読んだ方はどうぞ。

さ行の参考書籍

 資  シナリオメイキングガイド/桐生茂/新紀元社/1991年/\1650

 TRPGのシナリオをどのように考え作るか、というテーマで書かれた教本。ドラマチックという観点においてシナリオ構造を様々分析、考察しています。(特にファンタジー系の)シナリオ書きさんは必携でしょう。

 資  新人賞の取り方おしえます/久美沙織

 「ドラゴンクエスト4」「精霊ルビス伝説」などで有名な久美さんの、小説執筆講座です(実際に講座だったものを本としてまとめた)。文の正しい書き方、表現の仕方、テーマの発想の仕方などなど、浅く広く、久美流に解説しています。とはいえ、手法を学ぶつもりで読むのではなく、久美さんのさらっとした毒舌を楽しみつつ、氏のものの考え方を吟味するという感じな本になってしまっています。

 資  スペースオペラの書き方/野田昌宏

 日本SF界の大元帥の書いたスペオペの書き方指南書……ですが、これがスペオペだ!という知識的なものは少なく、どちらかというと氏のアイデア発想法、整理法について述べている本です。また野田氏の考えに触れられるという意味でも貴重です。「日常生活色々大変な思いをしているのに、なんでまた小説とかゲームで暗い終わり見せられて落ちこまなくちゃいけないんだ」は耳にグサリ突き刺さります。

 幻  スレイヤーズ/神坂一/富士見ファンタジア/1994年〜

 アニメ・マンガ・映画化とメディアミックスで展開された魔法冒険物語(小説)。ライトファンタジーの、文字通りスカッとする軽さを感じさせてくれます。資料としては殆ど役に立ちませんが、楽しませながら読ませる手法については吟味の価値はあろうと思いますし、あるいは反面教師的に一度設定してしまったこと(特に妖魔)に縛られてストーリーの深みがどんどん弱くなってしまった部分について知っておくと、自らのストーリー製作の参考になるかなーと思います。「何でもあり」の存在を出しすぎてはいけないんですね。この辺は「ゲド戦記」などの名作古典も合わせて読んで見ると分かるのではないか、と思います。
 なんか酷評していますが、ライトファンタジーとしては随分楽しませていただきました。但し映画版はCrapも良いところで、服部さんに申し訳ないと思ってしまえます。

 資  世界の奇書/自由国民社/1998年/\1900

 世界各地の奇書・偽書・神話・性文学などについて紹介した書籍(紹介書を紹介するのも何ですが……)。ファンタジー製作の想像力の助けになるのみならず、純粋に読物としても参考になるところ大です。この本を読んだ後に、興味を引かれた各奇書を読むことをお勧めします。この本に紹介されている本の一例:「エッダ」「シオンの議定書」「マビノギオン」「フランケンシュタイン」「死海写本」「カンディード」「ソドム百二十日」「禁じられた領域」
 この値段から言ってお勧めです。

 歴  「世界の歴史」シリーズ/河出書房新社/\680〜

 世界観の構築の上で、歴史的知識は欠かせません、ということで世界の歴史について浅く広く押さえておくためにお勧めな文庫シリーズがこれです。中国、ヨーロッパ、インド、オリエント……一通り揃っています。興味のあるだけでも買っておきましょう。なお、ファンタジー書きな人には9巻「ヨーロッパ中世」は必須です。これで一通り中世の社会について外貌だけ捉えた後で、個々の細かい分野(騎士、城砦、魔女狩り、悪魔学etc…)を調べていくと良いでしょう。

た行の参考書籍

 幻  第十軍団のワシ/サトクリフ

 ゲルマンに脅かされている時代のローマ帝国の中のお話。児童向けの歴史小説ですが、なかなかに深い問題について挑戦しており、大人が読んでも全く味わい深いと思えることでしょう(というか、スニーカー文庫などがいかに浅いファンタジーが多いかを認識させられてしまいます)。読みやすさ、読後の印象も抜群で、ファンタジーの参考書籍としてはかなりお勧めです。シリーズ3部作の第1作で、他に「銀の枝」「ともしびをかかげて」、それから外伝的に「運命の騎士」など。とりあえず図書館などでこの本を借りてきて、気に入ったら残りも是非ぜひ。

 析  タブーの謎を解く/山内昶/ちくま新書/1996年/\660

 サブタイトル「食と性の文化学」ということで、この2カテゴリにしばし代表されるタブー(禁忌・穢れ)について、リーチ理論を元にその発生原理を説き明かそうとした書。学術的な内容について、分かりやすいように噛み砕かれていて、ああなるほど、と納得する事しきりです。神秘ファンタジーのオリジンに興味のある人なら購入をお勧めします。参考書籍としてはウラジーミル・プロップ「魔法昔話の起源」、J・G・フレイザー「金枝篇」。

 資  ダンジョンメイキングガイド/朱鷺田祐介/新紀元社/1991年/\1650

 名ゲームマスター朱鷺田氏による、ダンジョンについての解説書。ここで言うダンジョンとは潜入すべき建物全体を差し、洞窟のみならず城や塔を含みます。これらの種類、成り立ち、構造について紹介していて、ファンタジー全般の資料として大変に役に立ちます。お手元にどうぞ。

 幻  ダンス・ダンス・ダンス(上・下)/村上春樹/講談社文庫/1991年/\590+\590

 60〜70年代のポズトモダニズムをベースとした小説。全編を通して靄がかかったような雰囲気に包まれ、「僕」という主人公は光と闇の中を駆け巡ります。現代文学小説というカテゴリには居ますが、その内容は現代のファンタジーと言っても構いません。ケロQの「終ノ空」やPurpleの「夢幻」など、この作品の影響を受けていると思われるゲーム作品は色々存在しています。
 なお、この作品を読むにあたっては、「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」を先に読んでおくことをお勧めします。
 また、あくまで小説であり、そこからモチーフを掴み取るのは容易ではありません。柄谷行人氏「終焉をめぐって」などの評論書なども読後に買ってみると良いでしょう。

 社  電脳遊戯の少年少女たち/西村清和/講談社現代新書/1999年/\660

 「ゲーム世代」の若者たちに焦点を当て、彼らの熱中する「遊び」について、昔と今、そしてその変容について論じた本です。若者の(大人にとっては異常と思われる)行動を理解できない大人達のために書かれた本であり、当のゲーム世代の人間が読むと、その紹介の仕方に少なからず嫌な気分になる所もありますが、筆者が努めて客観的(公平)に書こうとしているのは分かります。私達としてはこの本を読みながら、自分の時代感覚を元に再評価する必要があると感じます。
 ロジェ=カイヨワの「遊びと人間」の内容、その考え方を大分参考にしているようなので、当該書も合わせて読んでおきましょう。

 幻  トムは真夜中の庭で/ピアス/岩波少年少女文庫

 脇明子氏「ファンタジーの秘密」内で絶賛されていたので読んでみたのですが、いやあ、凄いです。正面からタイムパラドックスに挑戦して、それを文学的に昇華させている稀有な作品です。どうも堀井雄二氏はこの本を読んでDQ6を作ったとしか思えません。感動するような作品ではないのですが、読後に自分の知らなかった視点を得た……と感じられるかもしれません。ともかく、私は読んで良かったと思いました。同時に今まで自分の考えていたタイムパラドックス系シナリオが貧弱に見えてしまいました(笑)。

な行の参考書籍

 析  日本神話の源流/吉田敦彦/講談社現代新書/1970年/\650

 アマテラスノミコト、コノハナサクヤヒメ、ヤマトタケルノミコト……誰もが多少は知っている日本神話。この起源はどこにあるのかを研究した書籍です。他国神話との類似性も色々と調べていて、大衆が読むこの手の解析書の中では非常にまとまっていて信頼のおける書です。もっとも200頁少々の中に詰めこむための最小限の構成になっているため、これ一冊で解析は全てOKとは勿論なりません。

 社  日本人の意識構造/会田雄次/講談社現代新書/1972年/\660

 普段自分たちが意識していない、人間の意識構造について、特に日本人のそれを中心に比較考察している本。執筆者は「アーロン収容所」を執筆した会田氏であり、氏独特のえぐるような視点は目から鱗ものです。正直賛同できない面も多かったのですが、ナショナリズムに関連する思想関係を少しでも書きたい人にとっては一読くらいしておくと良いかなあと思えますし、また、個性とは何かという事についても一考させられますので、やはり色々と興味深い本です。値段も手頃かつそこらへんの本屋さんに並んでいますのでどうぞ。

 昔  日本の昔話/柳田国男/新潮文庫/1972年/\362

 内容は表題通り。100数篇の小話が集められています。柳田国男の名文を楽しむという別の良さもありますが、ギリシア神話や北欧、聖書等も良いとしても、ともあれファンタジー書きはまず日本の古典を押さえておくのも大事なことでしょう。

は行の参考書籍

 幻  ファウスト(上・下)/ゲーテ/岩波文庫/1958年

 人間の永遠なる欲求は満たされうるか、その果てを真剣に追いつづけていった結果、どこに行き付くか…という主題で繰り広げられる大劇作。カテゴリとしてはファンタジーなんですが、いわゆる私達の言う所のファンタジーを軽く超越しています。文学的価値は言うまでも無いですが、また、全編を通してとにかく詩が美しいのです。何度か読み、幻想空間を表現する語彙について、色々と頭にインプットするのも良いかと思います。ともあれ読んでおきましょう。

 資  ファンタジーメイキングガイド/朱鷺田佑介/新紀元社/1990年/\1650

 当時のTRPGユーザ向けにファンタジーとは何か、という事についての概観を解説した本。ターゲットの関係もあって、正直ファンタジーの守備範囲が狭すぎる感はありますが、まずまずまとまった本だと思います。脚注部分に、この本で引用しているファンタジー作品の紹介がありますが、何気にこれらが役に立つような気がします。「メシタス=ランタン」朱鷺田さんの読みこなしの両に感服させられます。

 歴  プルタルコス英雄伝(上・中・下)/プルタルコス/岩波文庫/1987年

 ギリシア・ローマの偉人たちの列伝。ただの伝記に留まらず、偉人たちの行為に比較評価もしています。比較基準にはプルタルコスの考え方が出すぎていて必ずしもフェアでは無いのですが、それはともかく資料的価値としても、また心を豊かにする文学読物としても、そしてファンタジー読物としても一流で、とりあえず読め、と書いておきます。なお、ローマの偉人たちについては、塩野七生「ローマ人の物語」も合わせて読んでいただく事をお勧めします。

 小  ホワイトアウト/神保裕一/新潮社/1999年

 たまには日本の小説も紹介しておきましょうと言う事でこの一冊。映画化されたりで知名度はあると思います。雪山の中でのテロリストたちとの戦いを描いたサスペンス系冒険小説で、舞台設定とその消化の仕方、テクニカルタームの活用は参考になります。ヒロインの役割が希薄とか、動機付けが不充分とか、黒幕がどんどん貧相になっていく所に不満はありますが、ここ数年のこの種の小説としてはそれでも非常によい出来だなあと思います。読みやすさもまずまず。

ま行の参考書籍

 析  魔法昔話の起源/ウラジーミル・プロップ/せりか書房/1983年

 このCreationCollegeにて何度も紹介・引用している、魔法昔話の構造とその関係について徹底的に解析、考察を行った名著。J・G・フレイザー「金枝篇」を批判的に研究し、形態学的な回答を与えています。鷹月のファンタジー研究の基底としている書籍でもあり、400ページの中に綴られる内容の密度は類似書籍に追随をまったく許しません。第1級にお奨めの本ですが、売っていない可能性が極めて高いです。あとお値段も張りますが、私にとっては非常に安すぎるものでした。(=数倍の価値を認めた)

 資  幻の戦士たち/市川定春/新紀元社/1988年

 古代から中世にいたる、戦士達の武装・武器について解説した本。図解入りの詳細な説明は、王道ファンタジー好きな人には必携の資料です。1色刷りであるため色のディテールが分からないのが残念なところですが、これは「ビジュアル博物館」の該当巻を参考にすれば良いでしょう。新紀元社「Truth in Fantasy」シリーズの中ではもっとも創作の役に立つ資料であろうと思います。
 戦術についての記載もあり、これは買いです。

 析  昔話の形態学/ウラジーミル・プロップ

 魔法昔話の機能を形態的に分解し、その構造を明らかにした記号学的な研究書。Creation College内の記事でもだいぶお世話になっています。構造が分かってしまえば、それを元に魔法昔話の筋が楽に作れてしまうわけで、ファンタジー書きにとってはまさに「魔法の虎の書」だと思います。そこらへんで売っている本ではないので、図書館で取り寄せるなり、在庫のある所から注文するなりどうぞ。私のシナリオ構築のベースにもなっています。

 析  昔話の本質と解釈/M・リューティ/福音館書店/1996年/\2400

 前半はいくつかの(それなりに知られている)昔話をとりあげ、本質はどこにあるのかを考察し、後半はそれらの類話も含めての話型解釈を行っています。考察の度合いに若干の不足を感じるものの、一通りの要素、類型について幅広い見地から述べており、参考になります。また、奇蹟についての解説は短いながらも非常によくまとまっており、これは必見です。

 析  迷宮学入門/和泉雅人/講談社現代新書/2000年/\680

 伝説で、壁画で伝えられる「迷宮」とは実在したのでしょうか。ちなみに私達が普段思い描く迷宮とは、殆どの場合「迷路」と混同しています。迷宮とは、ある決められた規則によって、1本路の螺旋をなす通路構造であり、そこには袋小路も分れ道もありません。この書では実在の迷宮についての言及のほか、観念としての迷宮、要素としての迷宮についても分析、考察を行っています。実はダンジョン製作の役には実質的に役に立たない本ですが、ファンタジー系物書きなら一度読んでみても損はない本です。

 析  メルヘンの深層/森義信/講談社現代新書/1995年/\640

 グリムとペローのメルヘンをテクストとした解析書。著者はメルヘンの研究家ではなく中世ヨーロッパの社会研究家です。メルヘンの中に、それらの時代の社会制度などが内包されている、と指摘します。そういった視点からの解析になるほど、とは思うもののモチーフの解析は正直浅く感じます。要するに著者は魔法昔話の読みこなしが足りないのでしょう。だいぶ疑問を提示することが可能です。とはいえ、先述の通り中世の社会制度の影響を受けて変容した面は確かにあると思うので、そうした側面による昔話の解析資料とはなるでしょう。(あまりお薦めではないらしい…)
 勿論この本を読む前には、グリム童話を先に読んでおきましょう。

 小  モンテ・クリスト伯(全七巻)/デュマ/岩波文庫/1956年/\600

 「岩窟王」として子供の頃に読んだことがある人も居るであろう小説の原作。カテゴリとしては復讐小説ではありますが、人間の内面と文化、思想…あらゆるものを詰め込んだ文学作品の傑作です。1・2巻は特にファンタジーの参考になることでしょう。その後もそれなりに興味深いのですが、ファンタジーの観点からいくと退屈かもしれません。
 なお、必須ではないとしても、クリスト伯の得た遺産の元となった契機の人物……セザール=ボルジアについて、例えば塩野七生の「チェーザレ=ボルジア、あるいは優雅なる冷酷」あたりを読んでおくと、物語に深みが出てくることかと思います。

や行の参考書籍

 小  夜間飛行/サン・テグジュペリ/新潮文庫

 「星の王子さま」であまりに有名なサン・テグジュペリのもうひとつの代表作。重く深い短編で、自ら飛行機乗りであった作者にしか書けない作品とはこういうものか、と思わせてくれます。テクニカルタームを勉強しただけの人の作品は、テクニカルタームを既に持つものの作品には到底かないっこない、自分は自分に書ける物語を素直に書けば良いのだ、と思わせてくれる作品です。

 資  妖精事典/井村君江他/冨山房/1992年/\7000

 ケルトを中心とする妖精たちについての事典です。統一的な説明を避け、各伝承の網羅、各文献の列挙という形で記述しています。文献については切りぬきなので物語としては読めず、全体として面白みには欠ける本なのですが、勝手な解釈を加えないために(二次)文献としての価値は高いと思われます。値段はちょっと簡単に手の出るものではありませんし、古書店にもまず出まわらない書籍ですが、事典の類は図書館で借りるべき類のものではないので、興味を持たれた方は購入を検討してみても良いでしょう。
 もっとも、妖精についての事典らしきものは文庫からもう少し安い本まで色々ありますが、原始的資料において群を抜くのが本書、ということになります。(なにより井村君江氏と言えば、日本におけるケルト研究の第1人者ですし)

ら・わ行の参考書籍

 小  レ・ミゼラブル(1〜5)/ユゴー/新潮文庫/1967

 哲人ユゴーによる、「面白すぎる」文学小説の傑作。ここまで魂を揺さぶられた小説は生まれていくつも出会っていません。文学的・思想的価値は誰しも認める所として、私達のような種の物書きとして参考になる所といえば、人物の行動・描写、舞台設定(と展開)、そして悲劇の書き方でしょう。おおよそ多くの悲劇が作者のご都合的恣意によって作られたものであるわけですが、レ・ミゼラブルにおける悲劇の演出家の名は「社会」であり「必然」です。買うべし読むべし。

 小  ロビンソン・クルーソー(上・下)/デフォー/岩波文庫/1967年/\720

 言わずと知れた無人島サバイバル物語。述懐という叙述形態なので最後は生還することは容易に想像付くため、「十五少年」に比べてハラハラしない……という考え方はもちろん間違いで、これは純粋冒険小説ではないのです。主人公が孤独の中で生の意味を模索しつづけ、真の人間性を獲得するというプロセスの、見事な文学作品です。まあ、啓蒙思想が前面に出すぎていますが、これは時代的な問題なのでしょうがないですね。とはいえサバイバルについてのディテールは非常に豊かで、ファンタジー書きにとっては良い参考資料となるでしょう。

 歴  ローマ人の物語(1〜9)/塩野七生/新潮社/1990年〜/\2000〜

 地中海の歴史小説を書かせたら右に出るもの無しの小説家、塩野さんのベストセラーシリーズ。古代ローマ人の群像とその生活を描いた長編で、面白さ・読み応えは鷹月が保証します。中でも2巻(ハンニバル戦記)、4〜5巻(ユリウス・カエサル)については、ファンタジー書き必携の書だと思います。値段は少しばかり張りますが、内容は十二分にあります。

おわりに/その他の書籍

 皆さんが物書きやゲームデザインをする上で参考になるところ大となった書籍があったら、ぜひ鷹月ぐみなまで教えていただけないでしょうか。このページに追加したいと思いますので。


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Copyright- 鷹月ぐみな(gumina)たかつきCOMPANY 1997-2001.▲ C.College TOP