第一夜:記憶喪失 | |
主人公は最初「記憶喪失」となっていて……というのはどこでも見かける定番パターンです。ワンパターンという評価を受けながらも、多様なストーリー展開ができるため、数多くの物書きに愛用されています。そんな記憶喪失の特性について、軽く説明していきます。
なお、多重人格系の記憶喪失については、やや特性が特殊ですのでここでは触れないことにします。Last Upload: 98/7/5
1、読み手との同化特にゲームにおける主人公はプレイヤーの分身的存在である面が強いです。この時、主人公がその世界の事情を色々と知っていると、それを知らないプレイヤーとの間に「ねじれ」が生じてしまいます。
2、感情移入キャラの変身
もちろんスタート直後からいくつもの情報をプレイヤーに与えていけばいいのですが、これは自然に与えていかないと受け入れられないものになってしまいます。その点、記憶喪失という設定はお互いイチもしくはそれに近い状態から始められるため、都合がいいというわけです。人間には変身願望・成長願望というものがあります。それを利用して、感情移入させたキャラを変身させていく事によって、読み手に映し鏡的に満足させる……これはある意味、お話の基本構造とも言えます。
3、ドラマへの拡大
成長(少しずつ伸びていく)のほうはともかくとしても、変身(いきなり変わること)は現実にはなかなかできませんし、不可能な事があります。男が女に変身するのはもちろん荒唐無稽ですし、平民がいきなり貴族になるという展開も、よほどの極端な事象がない限り起こり得るはずがありません(童話では2,3ありましたが)。それぞれの地位というものは、世界に根づいてしまっているためです。これは現実の世界を照らし合わせれば分かるでしょう。貧乏人が一瞬にして裕福な資産家になるなんてことはありえません。
ところが、記憶喪失という設定は実に都合が良く、「実は貴族の息子で、皇位継承権を持っていた」という真相によって、何らかの理由で(例えば、皇位継承を狙っていた異母兄に殺されそうになる。逃亡したが崖まで追いつめられ、そこから落下、その際にすべての記憶を失った……など)記憶喪失となり、平民生活をしていた人間がいきなり変身することが合法的に行なえるわけです。主人公は自分が誰だか知らないのに命を狙われたり、敵が「お、おまえは……」等と言い始めると、もう過去に関わる伏線ができあがります。さらに記憶を取り戻したとき、自分が記憶喪失になった経緯と、これからなすべき事を思い出します。これはもう、一連のドラマチックストーリーそのものと言えます。
4、記憶喪失の原因と症状記憶喪失になる原因というのは基本的には三つ、「偶然性の物理的ショックによるもの」「恐怖からの逃避として自分を封じ込めたもの」「他人によって記憶操作を受けたもの」の3パターンがあります。現実世界ではさておき、物語ではこれら全て、他人が関与した事によって起きます。
さて、記憶喪失中の症状ですが、その原因に関する鍵となるものをどこかで聴いた(見た)場合、一瞬だけイメージが浮かびあがってきます。これを繰り返すことにより、少しずつ記憶を取り戻していくことがあります。そのさい、「何か思い出したの?」と聴くべき人間がいるといいらしいです。
逃避による記憶喪失の場合は、イメージが浮かぶかわりに、突然えもいわれぬ恐怖感に襲われる事があります。発狂して異常な行動にでる場合もあります。ただ、記憶喪失の主体が主人公である場合は、感情移入を阻害する要因となりえますので注意する必要があります。
……とまぁ、ストーリー構築としては、スパイス以上の効果があるわけですが、全体のストーリーがダーク傾向になるだけでなく、ストーリー量もかなり多くなります。初心者が手を出すと、書上げられないだけでなく、話自体が破綻するのがオチです。
記憶喪失ネタのお話を書くためには、その手のストーリーやゲームを味わってみるといいと思います。最後に適当に紹介しておきます。「ファミコン探偵倶楽部」 (任天堂)
「アマランス」(風雅システム)
「ディアボリカ」(アリスソフト)
「NOVA」(ぱんだはうす)
「闇の狩人」(池波正太郎)……咄嗟に考えたのがこれなので、もっとあるでしょうけど(^^;;