第4夜:伏線 | |
先がすべて読めてしまう、当たり前のストーリーは誰も評価しません。何らかの意外性(ストーリー展開、発言、行動、思想)があってはじめて、読み応えというものが生まれてきます。とはいえ、意外性のオンパレードにすれば秀作になるかというとそんな事はなく、ある種の「合理性」「因果性」がないと、ただの御都合主義になってしまいます。意外なものが浮かび上がって来た時に、「……なるほど、そういう事か」と納得もさせてしまう。これを伏線と思っています。Last Upload: 98/7/8
1、伏線の形あれこれ広く伏線と言っても、その張り方は多様にあります。それらを大まかに分類すると、次のような三つの形が浮かび上がってきます。
2、伏線の代表的な用途A、明示型伏線
”彼はその重箱を抱えてこの場から離れていった。あれは一体何だ……?”
というように、明らかに何らかの謎めいたものを、読み手に提示させる手法です。読み手に能動的に「考えさせる」ことで、ストーリーに深みを与えることができますが、この形の伏線は一連の物語の中で、原則としてすべて解決させなくてはいけません。もしも消化できなかった場合、「伏線倒れ」の名で嘲笑われることになります。
B、暗示型伏線
「……ちょっと待て、その写真を見せてくれ。……やはり。この人物は左利きだ。すると……犯人は……あいつだ!」
「なんで、分かったんだ?」
「あいつの家に、不思議と切れない鋏があっただろう。あれは切れないんじゃなくて、左利き用の鋏なんだ」
「えっ!」
「あいつは、この写真が残っている事を知って、さも右利きの人間であるかのように偽装していたわけだ」物語中の人物のみならず、読み手にとっても驚かせるものがあれば成功です。これは簡単にできそうに見えて、暗示的に張り、それを消化するのはかなり難しいです。推理小説、探偵小説などを読んで、こういう伏線(トリックに限らず)の張り方を学んでおくことをお勧めします。
C、偽証型伏線
伏線を張る際に、「これは伏線じゃないですよ」という提示をしておいて、実はやはり伏線だったというパターンにもつれこむ手法です。暗示型が作れないときはこれを使います。
「あれ、その指輪どうしたの?」
「これ? バーゲンセールで安かったの。綺麗でしょ。まだデパートで売っているかもよ」とか、
「あれ、地下に置いてあったチーズがなくなってるよ」
「なくなった? まぁ、大方ネズミにでも食べられたんだろう」このように、なんらかの伏線らしきものを出しながらも、「大した事じゃないんですよ」と回避させているわけです。前者はバーゲンセールという庶民的なキーワード、後者はネズミという犯人の提示がそれを納得させているわけです。ところが後になって、
「……ごめん。実は婚約を申し込まれちゃって……」
(登場人物の嘘発言による迂回)「変な男が現われて、店に安く宝石を売りつけたそうだけど、どうも呪いがかかっているらしい。誰も買ってなければいいが」
(一般性から特殊性への急転直下)「どこかの家に、ダークエルフの子供が忍び込んでいるって話だよ」
(以前の理由の打ち消し)このような台詞によって、「……やっぱり伏線だったのか~!」と思わせるわけです。暗示型に比べるとインパクトは薄いものの、それなりに効果はありますし、時にはこちらの方が読み手にとっては受け入れやすい事もあります。物語には「えっ、なるほど」(新鮮味)と「ああ、やっぱり」(同意)を適度に与えることが必要なのだ、というのが鷹月の持論だったりします(^^;
伏線はストーリーのアクセントとして色々な所で使われますが、中でも効果の高い場面・状況というのが存在します。ここではその一例だけ挙げてみます。
A、大逆転
サスペンス(不安)要素のあるストーリーは例外なく、主人公側が不利な状況に追い込まれます。そこでいきなり主人公が大魔法を唱えたり変身したりして、パワープレイで解決するという展開は愚の骨頂で、望ましいのは何らかの伏線をからめてそれを使い、立場を大逆転させる、というものです。
「ジョジョの奇妙な冒険」や「魔術士オーフェンはぐれ旅」、「スレイヤーズ」には、こういったチップスがいくつも登場してきます。B、時代経過による因果律
物語は大概、少しずつもしくはある時点でいっきに時間が過ぎていきます。すると、以前と立場、状況が変わっているものがあります。しかし「彼は独裁者になっていた」とか、「彼女は病気で死んでいた」などを理由の提示なく、もしくは後に理由を知らされた場合、なんだかシナリオライターの一人よがり的なものが見えてしまい、評価されなかったりします。
状況が変わる(結果)前に、そういった兆候(因子)を見せておくことが必要なのです。これも伏線の一つで、これを自然に進行させていければ(結果を納得できるだけの兆候を用意しておきます。とはいえたまに読み手に衝撃を与えるために提示しない場合もあります)そうとう深いストーリーができあがるものと思います。
……まぁ、伏線ネタは濃いので、そのうちもう一度詳しく説明しようと思います。