Article:ポンティ分類法(+α)によるシナリオ構築

     ポンティというフランス人が、ストーリーの根幹をなすパターンを36に分類したものを「シチュエーション36の分類」として著しています。これは劇作家のために作られたのですが、桐生茂氏の「シナリオメイキングガイド/新紀元社」や、野田高梧氏の「シナリオ構築論/宝文社」でも引用されているように、一般のストーリーにも充分に通用する分類法です。
     AVGやRPGは基本的にドラマチックな展開を持つため、鷹月はこれを引用して、ゲームシナリオという面から再構成し直してみました。

Article Written: 98/3/19
Article Modified: 99/3/4



【分類一覧】
     ポンティの分類した36ワードは以下の通りです。
01、哀願・嘆願
02、救助・救済
03、復讐
04、近親者同士の復讐
05、追走と追跡
06、苦難・災難
07、残酷な不幸の渦に巻き込まれる
08、反抗・謀反
09、戦い
10、誘拐
11、不審な人物、あるいは謎
12、目標への努力
13、近親者間の憎悪
14、近親者間の争い
15、姦通から生じた残劇
16、精神錯乱
17、運命的な手抜かり・浅い配慮
18、つい犯してしまった愛欲の罪
19、知らずに犯す近親者の殺傷
20、理想のための自己犠牲
21、近親者のための自己犠牲
22、情熱のための犠牲
23、愛するものを犠牲にしてしまう
24、三角関係
25、姦通
26、不倫な恋愛関係
27、愛するものの不名誉の発見
28、愛人との間に横たわる障害
29、敵を愛する場合
30、大望・野心
31、神に背く戦い
32、誤った嫉妬
33、誤った判断
34、悔恨
35、失われたものの探索と発見
36、愛するものの喪失
     また、これに加えて、ゲームのストーリーでドラマチックなシチュエーションになりそうなものを鷹月が8つほどあげてみました。

37、破滅を刻む時間
38、危機からの脱出
39、団結と協力
40、周囲環境の消滅
41、解放
42、洗脳および人格消失
43、時代経過
44、約束・試練からの挫折
     ある程度ストーリーを作るのに慣れている人は、このキーワードを眺めているだけで思い浮かぶ事もあるでしょう。ともかく以下より、具体的にこれら44項目の紹介を具体的にしていこうと思います。

1、哀願・嘆願
     「依頼」の強烈な形として、冒険の導入によく用いられます。
     適当な依頼だとプレイヤーが興味を持ってはくれないのですが、この手の哀願は、プレイヤーが同情もしくは感情移入して、ゲームへの興味を強く持たせるという効果があります。
     パターンとしては、「街の少女を主人公に接触させる」→「ここでその少女に好印象を持ってもらえるように仕向ける(笑)」→「その少女が高熱にうなされる」→「親の嘆願により、病気を治す薬を探しに行く」というものですね。ただし、この「同情・感情移入」を与えなかった場合は、ただの強制導入として、逆につまらなくさせてしまうことがあります。
     この手の導入が使われているゲームは色々ありますが、総じて主人公がある種の独特な職業に就いている場合が多いですね。弱めな所としては、「わくわく麻雀パニック式神伝承/フォアナイン」もこれに入れていいかもしれません。

2、救助・救済
     捕まった人、何らかの理由で閉じ込められた人を助けに行くケースです。基本的には救済する側はプレイヤー側ですが、たまには捕まったプレイヤーが絶体絶命のピンチの時にNPCが助けに来る、というのもあるでしょう。但しこれをやりすぎると「ご都合的」と思われますので、多用しないほうが無難です。
     「幻影都市/マイクロキャビン」の導入がこのパターンですね。ある姉妹が逃亡、姉は捕まって妹だけ逃げてきた……という導入なんですが、1の「哀願」も含んでいるので、非常に理想的といえます。

3、復讐
     プレイヤーからの復讐、プレイヤー側に恨みを持つキャラからの復讐、NPCの復讐の手助けなどがあります。もちろんですが、話的には暗く、また重くなります。
     「デッドフォース/風雅システム」などが割と、復讐が行動理念になっていると思われます。「主人公は一国の王子だった」→「侵攻に遭い、両親は殺され、国は滅ぼされ、主人公は監獄にぶちこまれる」→「脱走、そして志願を募り、旗揚げする」ですね。

4、近親者同士の復讐
     先の3をさらに強調する効果がありますが、血みどろのストーリーになる可能性が大ですね。ある親が自分の子を王にしたいがために、他の継承者になんらかの罪を被せて追放、もしくは暗殺した。そして時は流れて、追放された元・継承者や、暗殺された人物の身内が復讐に乗り出す……などなど。導入ではありませんが、これを利用したストーリー展開をしていたのが「ロマンスは剣の輝き/フェアリーテール」ですね。

5、追走と追跡
     ストーリーの後半によく使われるシチュエーションで、「チェイスもの」は活劇の定番となっています。事件の謎を握る人物を発見、しかし逃げられて、それを追う……というパターンがよく使われます。ただし、簡単には捕まる事はなく、邪魔が次々と入ったり、直前でそのキーキャラが殺されたりします。
     また、主人公側が企業・組織から重要なものを奪って、逃走する場合には「追跡される」側となります。
    「PHOBOS/姫屋ソフト」の中盤や、「FF7/スクウェア」のチェイスシーンなどがそうですね。

6、苦難・災難
     これがないと、ストーリーに緩急が付けられないというほどの基本シチュエーションで、「試練モノ」の導入になります。基本的には巻き込まれるものばかりですが、プレイヤー側から敢えて苦難を選ぶ事もあります。勝手に異世界に引きずり込まれる導入の「マージナルポイント/ルナーソフト」「グランシード/EXIT」「イリウム/オレンジハウス」「コズミック・サイコ/カクテルソフト」も災難型と言っていいでしょう。

7、残酷な不幸の渦に巻き込まれる
     救いようのないほどのストーリー展開に感情移入をしたキャラ(主人公含めて)が巻き込まれる、というやつで、導入やサビで大変良く用いられています。ゲーム全般としてこれだけで構成されるような作品は「悪夢/スタジオメビウス」や「脅迫/アイル」などがありますが、普通のゲームではアクセント程度でのみの使用になります。
     「デッドフォース」や、「ヴェインドリーム/グローディア」の導入はもちろんこれですね。残酷であればあるほど、展開は壮大になっていきますが、やりすぎるとプレイヤーがその作品から「引いて」しまうので、気を付けたほうがいいようです。

8、反抗・謀反
     ストーリーに急転直下を起こす事ができる、ドラマの基本手法です。自らの謀反、仲間の裏切り、もしくは敵の寝返りなど、いろいろなケースが考えられます。いずれも人間関係、社会秩序に亀裂を与えるものですから、ストーリーは重くなります。
     また、なにも悪からの脱却を図って起こすとも限りません。「陰謀」「計略」の類のように、善良なキャラ、もしくは組織を陥れようとするものもあります。
     「英雄伝説/日本ファルコム」が「謀反で陥れられる」→「反抗」、「英雄伝説2/日本ファルコム」が「支配される」→「レジスタンスに参加して反抗する」という、この典型的なパターンにより展開していました。
     「裏切り」に関しては、二重スパイにしたりと、これまた色々な発展ができます。

9、戦い
     全編が戦いであるようなRPG、SLGでは言わずもがなですね(笑)。そもそもヒロイック・ファンタジーはこれを通してプレイヤーを楽しませるわけですからね。
     これに関しては下手な説明はいらないでしょう(ゲームの紹介も含めて)。ただ、最初が劣勢であればあるほど、それをひっくり返していくということで、劇的なシチュエーションが生まれていきます。
     なお、ただ戦うことが目的なのではなく、何か別な目的のために戦うわけで、プレイヤーに戦うことへの正当性を与えてあげる必要があります。

10、誘拐
     誘拐されたキャラクターは命の危険にさらされるわけで、嫌がおうでもストーリーが緊迫してきますね。それが重要人物だったり、犯人側の目的が分からないと更にシチュエーションは強くなります。もちろん、この手のイベントは、救出系にもつれ込むのが普通です。ピカレスク系はそうではありませんが……。
     ゲームでは、「RE−NO/ぱせり」から、「悪夢/スタジオメビウス」まで、いろいろあります。ストーリーの「転」としてはもってこいですね。

11、不審な人物、あるいは謎
     ゲームでは(特にAVG)伏線をからめていって、少しずつ解き明かしながら進めていくというのが、プレイヤーを引き込んでいく基本ですから、「不審な人物」や「謎」はもう当然の要素と言えるでしょう。「PHOBOS/姫屋ソフト」のように、敵とも味方ともはっきりしない不審人物が繰り返し登場するというのは非常に効果的ですね。
     言うまでもありませんが、謎を残したままゲームを終わらせるというのは、それに納得しない限りユーザは消化不良を起こしますので、ちゃんと解決させてあげましょう。続編を作るなら「引き」という形で残してもいいんですが、設定逃げはきびしく批判されるのがオチです。

12、目標への努力
     この場合の目標というのはゲーム全体というよりは、小目的のほうです。途中に出てきた強い敵を倒すために色々な特訓をするとか、様々な手段を用いて、敵の秘密基地に潜入するなどです。ここで重要なのは、努力しているという事をユーザに伝え、できればそれをユーザにも体験させてあげることです。「彼らの努力もあって、ようやく発見できた」などとすっ飛ばしてしまうなんて言語道断です(アルナムの牙PS版!あんただあんたっ)。
     こういった小目的を少しずつ突破していくことで、ゲームを壮大にすることができるというわけです。

13、近親者間の憎悪
     資産・地位を巡る兄弟同士の反目、一方からの強い恨み、第3者を介したもつれ合い(恋愛とかね)が基本パターンでしょうか。やはり他人とは違って、身内との敵対関係はストーリーに「張り」を与えてくれます。但し、結末の付け方がやや難しいですね。一生恨みつづけるという、解決がないまま終わることもあるでしょう。
     「間違いで恨まれていた」や、「憎悪する理由がなくなった」という消失系で解決させると楽といえば楽です。「痕/リーフ」の耕一が父に抱いていた恨み、がいい例ですね。うまくいけば、キャラクターの成長へと繋げることもできます。

14、近親者間の争い
     13がエスカレートするとこのような結果になります。人生を狂わせるまでの深刻さを持つと、「相手を殺す」という発想になっていくようです。ただし殺意というのは、プレイヤー側が持つと「引き」を与えてしまうことがありますので、プレイヤー側は「狙われる側」にしたほうが無難です。
     血みどろの争いになってきますと、一方が死亡するまで続けられる事になってしまいますが、お互いの敵にあたる第3者を登場させ、「実は仕組まれていた」や、「もっと恨むべき対象が発生した」ということで、解決させてしまう方法もあります。

15、姦通から生じた惨劇
     シチュエーションとして生々しくさせることができます。犯された物が直接恨みを果たす、というよりは、犯されたほうが死んでしまい、その兄や弟が復讐を果たす、といったパターンの方が多いようですね。
     「領土を奪われたから殺す」では納得のいかないプレイヤーも、「犯されたから殺す」とされてしまうと、納得させられてしまうのが「まいった」所ですね。但し作り手側は、注意してストーリーを構築しなければいけません。
     これをストーリー全体の発端とするゲームも最近多いですね。「サークルメイト/ボンびいボンボン」や「MOON.」がその例でしょうか。

16、精神錯乱
     ゲームの中盤で、今までのキャラクターの性格・気質がショックなどにより変わってしまうと、プレイヤーには強い衝撃を与えます。それが感情移入していたキャラクターならなおさらです。
     また、一時的なのか、恒久的なのかで色々と展開することができます。いずれも展開がひどく重くなってしまうので、ストーリー作りに慣れていない人は手を出さない方が無難でしょう。
     15番の姦通とかけて、心を閉ざしてしまうような結末にもつれこむ「私/パールソフト」というパターンもあります。

17、運命的な手抜かり・浅い配慮
     いわゆる「ミス」で大問題(事件)を引き起こしてしまうというパターンで、最終的には誰も悪人じゃなかった、というオチにするときによく使われたりします。ファンタジーでは「あやまって、邪神の封印を解いてしまい、体を乗っ取られる」というのもこのケースに入れていいでしょう。また、ゲームの終盤にこの「手抜かり」を発見して、それを利用して事件を解決に向かわせていく、というパターンもあります。
     この「運命的な」というのは、昔から神話でよく使われていて、無敵、不死身と言われたジークフリートやアキレウスが死ぬのは、ほんのちょっとの「手抜かり」によるものだったのです。

18、つい犯してしまった愛欲の罪
    一般ゲームとしてはまず扱えないテーマの一つでしょう。いわゆる兄弟、親子間の近親相姦(インセスト)や、結ばれるはずのないような身分差での性交が「愛欲の罪」の基本で、大抵はその後に悲惨な結果が待っています。ゲームじゃありませんが、大槻ケンヂ氏の「キラキラと輝くもの(「くるぐる使い」に収録)」当たりがキてました。漫画ですが「外道学園/西安」あたりはうまくハッピー系になってるんですが……。
     ゲームとしては、「雫/リーフ」がこれに当たるでしょうか。

19、知らずに犯す、近親者の殺傷
     この手のシチュエーションは要素というよりは、クライマックスに真相が解決される類のもので、「しかし時既に遅し」というダークエンドになることが多いです。このパターンで構成した作品が、あの「痕/リーフ」の千鶴シナリオでしょう。また、近親者同士の殺傷ではなく、近親者が他人を殺す、というパターンもあります。テーマは描き切れていませんでしたが、「JOKER/バーディー」のヒルデガードとブランカが14番の要素ともかけて、これに入れていいでしょうか。

20、理想のための自己犠牲
     自らが望むもののために、その自分を犠牲にする……というのは、悲劇→平和、という劇的な展開を起こしてくれます 但し、本当に犠牲にならなければいけないのか、という問題をきちんと消化しておかないと、「無駄死に」として、読み手を憤慨させる原因になります(「ロマンスは剣の輝き/フェアリーテール」など)。
     でも泣けるシチュエーションですよね。「ナイキ/カクテルソフト」の美歩鈴の自己犠牲の後の、さらにSDCの自己犠牲的な行動により美歩鈴を救うところ、あれを劇的と言わずしてなんと言いましょうか。
     ちなみに24の「三角関係」と混ぜることもできます。ちょっといたたまれない展開ですが、「コズミックサイコ/カクテルソフト」では、次のようになっていました。

    1、AとBの姉妹がいました。青年Cはそれぞれを好きになってしまいました。
    2、AはCの事が好きになりました。しかし、BはCも好きですが、それ以上にAが好きでした(オイ)。
    3、しかしBはAと一緒になるためには、Cは邪魔でした。
    4、とはいえ、消すとか仲たがいさせるとか、そういう発想ができるわけもありません。
    5、そしてある日、Cは無謀にも敵の基地に飛び込んでいって、殺されました。

     ……ようは、自分がいなくなることで、三角関係のもつれから離れて、AやCにとっての理想が実現される、という「自分のためにはならない、理想のための自己犠牲」パターンです。「ナイキ/カクテルソフト」の終盤も同様でしたね。いや、きついっす。


21、近親者のための自己犠牲
    母親がわが子を、もしくは兄が妹をかばって死んでしまう(必ずしも犠牲=死ぬ、というわけではないのですが)……といったパターンです。
     実際はこの「近親者」というのは、血が繋がっているということではなくて、ごく身近な存在ということを意味し、友人などの自己犠牲もこのケースに入れていいでしょう。有名すぎるところでは「走れメロス」でしょうか。
     このシーンを見ると、ほんと切なくなると同時に、感動することができます。わざとらしいのは言うまでもなく却下ですけど。ちなみにこれをモチーフに作った鷹月の同人ソフトが「夢のなかの少女」です。

22、情熱のための犠牲
     20のバリエーションです。この場合は、「一つの事をやるために、それ以外の事をすべて諦める、かなぐり捨てる」という意味になります。情熱の部分を読み手に伝え、またそれによる展開をしっかりと作っておけば、劇的なシチュエーションにすることができます。なお、この「情熱」というのはあくまでも自分の目的であって、他人の為に、というものはまったく含まれていません。

23、愛するものを犠牲にしてしまう
     悲劇、もしくは悲劇→悲劇からの脱却、というパターンとしてよく使われるもので、有名な所といえば「ミノタウロスの処女要求」系でしょうか。TRPGをはじめ、「ドラクエ4/エニックス」などで使われています。
     また、この愛するもの、というのは何も人間だけに留まらず、地位や、愛用している品でも構いません。それをする価値があると認められた時点で、ストーリーはドラマチックになるのです。典型的な例を一つ。

    「さあ。これを売れば少しは金になる。使ってくれ」
    「……それは貴方が大事にしていた、妹の形見じゃ……そんなの受け取れません」
    「形見を持っていても、妹は帰っては来ないよ……さあ、あんたの娘の病気をそれで治してやってくれ」

     う〜ん、べたべた(笑)。
     これらはストーリー、キャラクターに実感を持たせるための一つのスパイスとして、多いに有効です。


24、三角関係
     「あちらを立てればこちらが立たぬ」と、協調と対立が入り交じった状態は、いわゆる「二極対立」よりもずっと深い対立関係を引き起こす事ができます。これを解決させるのはかなり難しく、いつまでもエンドレス、という終わりにしてしまうものもありますが、これは決着を付けたほうがストーリーはドラマチックになります。
     また、敵対、という部分を除いた、いわゆる2者からのアプローチとも呼ばれる「恋愛の三角関係」も解決が大変です。ゲームとしては、「ToHeart/リーフ」のあかりちゃん、志保、そして浩之がそれになるでしょうか。このゲームの場合は、志保は結局割り込めなかったわけですけど。

25、姦通
     姦通そのものも、ストレートですが、確かにドラマチックではあります。いろいろ苦労しながらも一緒に進んできた男女が、苦労の果てに「ストーリーの最後」もしくは「その直前」でエッチをするというのはある種の常套手段です。
     ストーリーの最後にエッチをして大団円……のパターンは「リィナ☆クリスタル/コロッサス」、
     直前でエッチをして、最後の戦いへ……のパターンは、「XIX/カクテルソフト」、
     直前でエッチをして、男の主人公が最後で死んでしまい、女性の方が子を宿したまま終わる……という、大局的な展開を持つ例は「エンジェルハイロウ/アクティブ」や、ゲーム途中のものですが「アマランス2/風雅システム」などがあります。
     ちなみに、必ずしも姦通がドラマチックになるというわけでもないです。下手にゲーム終了後も「子がいる」ということでストーリーを与えてしまうと感動できなくなるものもあるからです。「コズミック・サイコ」や「きゃんバニエクストラ/カクテルソフト」にそういったアンチテーゼが噛まされているようです。

26、不倫な恋愛関係
     「失楽園」でメジャーになってしまった(苦笑)ケースですね。これはシチュエーションそのものではなく、その結果どうなるかが「ドラマチック」になるわけです。なお、この不倫というのは「倫理的に」とは限らず、「規範・規則として」という意味も含みます。つまり、一介の戦士と王女との恋仲は立派な不倫関係に属するわけです。「ナイキ/カクテルソフト」が模範的な例ですね。
     で、夜逃げか、それとも正直に告白した結果、王から難題が出されるか、それとも間が引き裂かれるか。いずれにしても、そこにドラマが生まれます。ちなみに「YU−NO/エルフ」もこのケースに入れてもいいんですけど、あれは一括りにはできないなぁ……。

27、愛するものの不名誉の発見
     愛するものは信じ切っているという状態で、その相手の徳に反した行動(犯罪、致命的な失敗……)を見つけてしまう、というやつです。これは、その後発見した側がどういう行動を取るか、という部分にドラマが存在しています。自分も片棒をかつぐか、それとも突き放すか……ちょっと解決が難しいテーマではありますが、非常に効果的ですね。
     また、愛するものは「尊敬している者」でも構いません。たとえば父親が悪徳を行なっている事を知ってしまう、など。いずれにしても、ストーリーの大きな転機になるのは間違いありません。

28、愛人(恋人)との間に横たわる障害
     「愛には障害がつきもので、それを乗り越えていくことで愛は深まっていくんだ」とかいう臭い言葉をどこかしこで知っているとは思いますが、恋愛ストーリーは実際に障害をくぐって、ゴールインという、ドラマチックストーリーの形成をしています。ファンタジーの場合は加えて縦のストーリーが壮大であればあるほど、劇的になっていきます。
     なお、普通は「障害」は外部から与えられるものばかりですが、例外もあります。
     主人公自身に障害(心の障壁)があり、それを外部の影響を受けて乗り越えていく……という逆転的発想でドラマチックストーリーを作り上げた「ToHeart/リーフ」のあかりシナリオがその例外の一つです。

29、敵を愛する場合
     二者に「立場」という要素の加わった「三角関係」とも言い換えることができます。この手の「出会い」は必ず突発的、偶然的なものが多く、既に最初からドラマチック街道を走っているわけですね。ただ、マトモに考えると、その間の障害は只ならぬもので、基本的に「駆け落ちして逃亡」とか、「心中」とか、割とネガティブな結末になりがちです。まぁその辺は作り手の慣性に任せますが、「敵を愛する」というプロセスによって、敵側にも感情移入できるようになり、世界観全体が広がって見えるようになるので、結構プラス面が多いと思います。但しもちろんですが、敵側を「絶対悪」としてゲームを作っていると、こういう展開は作れません。
     味方のキャラに敵が恋をした、というパターンもよくみかけますね。「幻影都市/マイクロキャビン」、「ランス3/アリスソフト」「鬼畜王ランス/アリスソフト」などで登場してきます。

30、大望・野心
     大それたことには障害がつきもので、それをどう解決させていくかというプロセス、および結果にドラマが存在しています。ただし、動機がエゴイズムによるものだと(特に偽善が混じっていると)、読み手はそのキャラを見放してしまう可能性があります。これで感動させたいのでしたら、うまくそのキャラに感情移入をさせてあげる必要があるわけです。

31、神に背く戦い
     絶対的な力・権威・規則への反抗といったところでしょうか。ゲーム世界ではかなりの割合で、神という存在が認められていますから、信者のみならず、神そのものからも迫撃を受けます。基本的に一般大衆には味方してもらえず、ごく少数の仲間だけが心の拠り所、という事で、その辺の孤独感とあいまってドラマチックな(あくまでプレイヤーから見た)展開ができるようです。「幻影都市」がまぁ、このパターンと言っていいんでしょうね。
     但し、主人公が悪として神に背いたケース(ピカレスク)は全く違った展開になるますのでご注意を。

32、誤った嫉妬
     夜の恋愛ドラマで使われているありがちなパターンですね。「思い込み」から、人間関係を決裂させていくケースが多いようです。
    「恋人が、誰か他の女性と一緒にホテルから出てきたのを目撃してしまった」
    (真実:その女性が道端で倒れていて、近くの建物で介抱していた、など)
     こういった人間関係はわりと実感を与えてはくれますが、ドロドロしたものは見てていやな気分になる事もありますのでご注意ください。感情以外にも、わざとらしすぎて辟易する、ということもあります。

33、誤った判断
     これも、「結局悪い人はいない」というオチに持っていく時などに使われるパターンです。重要なのは、この誤った判断の結果、何が起こったか、ということです。他のパターンとも併用され、「悲劇の渦に巻き込まれる」を混ぜた例が「コズミックサイコ」のボスでしょうか。
     また、善悪というものなしに、いわゆる主人公の「一つの選択」として失敗してしまった場合もあります。ゲームとして考えると「再ロード」→「やり直し」という行動にでることでしょうけど。
     ストーリー終盤にこれを利用すると、ダーク・アンハッピーエンドに持っていく事ができます。水中で鬼化してちゃ千鶴さんが死んでしまうわけですな(「痕」)。

34、悔恨
     悔恨のシーンは、感情移入していたキャラであったら、常に読み手の心を揺さぶります。何故悔恨しているのか、何に悔恨しているのか、を考えてみましょう。「痕」のトゥルーエンドの千鶴さんのセリフも悔恨と言っていいですね。あれで胸が熱くなった人は沢山いることでしょう。

35、失われたものの探索と発見
     ゲームでは主人公の動機づけによく使われ、一連のストーリーがドラマチック、かつロマンになります。誰も知らなかった歴史の変遷、世界の仕組みを見つけて行くような「ワイルドフォース/フォアナイン」もこの要素があると思われます。もっと正統派でいくなら、「一振りの伝説の剣を探して……」と言ったシナリオになるでしょうけど、結構使い古されたパターンになりがちなので気を付けましょう。

36、愛するものを失った時の喪失
     34の「慟哭」の極限の例ですね。この喪失の主体者は主人公たち世界のキャラではなく、読み手である場合があります。「猟奇の檻2/日本プランテック」のたまみちゃんや、「雫」のさおりんが鋏で自殺するシーンなんかはキました(泣)。

37、破滅を刻む時間
     期限内に主人公などがある行動を達成しないと、悲劇が待っている……というシチュエーションです。それを盛り上げていくような演出があると劇的になります。「Only You/アリスソフト」のカウントダウン(ゲーム的な時間制限)や、「イース2/日本ファルコム」の鐘突き堂(展開としての時間制限。実はどうしようもない)などなど。ゲームであるという特性を活かして、達成した場合としなかった場合との2タイプ(以上)を作る事ができるので、かなりの実感が与えられます。

38、危機からの脱出
     37の類似型であり、おもにに主人公がその危機に巻き込まれたケースです。ゲーム的に時間制限を付けるかどうか(FFの脱出イベントなど)はコンセプトによりますが、命がけで動くことにドラマが存在します。もちろん最終的には脱出させるわけですが、精一杯じらしてあげるのが作り手としての義務でもあるわけですな(笑)。

39、団結と協力
     主人公と意志、思いを共にする者がいると、遊び手としても安心できますし、彼らが一致団結して何かに向かっていく様は、いやがおうでもドラマチックになります。だんだん仲間が増えていくようなRPGやSLGがウケる一つに、こういった根底があるようです。

40、周囲環境の消滅
    これは、プレイヤーに喪失・孤独感を与えていく事を目的としたシチュエーションです。「周囲の人が次々いなくなっていく」「自分だけが別な場所に行ってしまう」など。「ELLE/エルフ」「猟奇の檻2」「コズミックサイコ」などがこの例です。

41、解放
     これは40の「環境」を「障害」と置き換え、それを一つ一つ解放していくパターンで、時間の流れも含めて強いドラマ性を与える事ができます。「夢幻夜想曲/アプリコット」(思想系の障害)や「幻影都市」(物理的な障害)など、少しずつ山積みされていたものがなくなり、全部無くなった時点でゲーム終了となるパターンです。
     既に終了したイベント地点に行けるケースが多く、何もないながらも、自分(ユーザ)のこれまでやってきた事を振り返り、満足感を覚えたりもします。この辺(振り返られるところ)がゲームの楽しみの一つでもあると思うんですがどうでしょうか。

42、洗脳および人格消失
     突如ないし少しずつ、感情移入していたキャラクターの性格が変わってしまうというシチュエーションです。感情移入は元のキャラに対して抱いていたものであり、性格が変えられてしまい、元の人格がなくなってしまった場合、遊び手に只ならぬショックを与える事ができます。「私/パールソフト」の静穂や「雫」が典型的な例でしょうか。エヴァも言うならばこのタイプですね。
     逆に、洗脳(=調教)を行なう権限が遊び手に与えられている場合は、背徳感も相い成り、ダークなドラマを展開させることができます。「虜/ディーオー」「無垢/にくきゅう」「Natural/フェアリーテール」などで、これは思想的に危険なものを含むので(善悪の判断を誤らせる可能性)、エゴ(歪んだ愛の形を含め)以外による理由を見つけ、それで迂回ないし否定させておくのが正しい展開だと思っています。うまくそれを行ない、ドラマチックに仕立て上げたゲームとして、「迷走都市/ティアラ」を挙げておきます。

43、時代経過
     「時は流れて……」のパターンです。少年期→青年期などと一気にジャンプさせることによって、ストーリーを大河的に追い続けていく事ができます。「DQ4」のアッテムト鉱山や、「DQ5」の主人公などがインパクトが強いですね。「ロマンシング・サガ2/スクウェア」のようにゲーム的に時代経過をさせる手法もありますが、あれは思ったほどドラマチックになりませんでしたね(苦笑)。
     時代経過は言ってみれば高さ軸であり、主人公の場所で起こるイベントを横軸と考え、さらに主人公が移動する事を縦軸とすると、立体的な世界観を構築する事ができます。そういうのを目指したのが「英雄伝説3/日本ファルコム」なんだろうなぁ。

44、約束・試練からの挫折
     「心半ばにして倒れる」というシチュエーションです。主人公よりも、その仲間が挫折するというケースがよく使われています。主人公がその代わりを務めたり、もしくは立ち直らせたり。すべて「障害に打ち勝つ」物語より、ずっと実感があり、ドラマチックになることでしょう。
     死ぬために挫折、というケースでなければ、大概は「悔恨」のシチュエーションも含んできます。
     たまに主人公にこれを求める場合があり、了承すると大抵はバッドエンドになります(笑)。


 これらのキーワードに別々の発想を思い浮かべる方もいると思いますが、とりあえずは自分なりに紹介してみました。いかがだったでしょうか。たぶん創作関連の記事の中で最も有用なものの一つではないかと思います。ただ、引用した作品は意図的ではあるものの、コンピューターゲーム、さしては美少女ソフトばかりで、分からない人にはちょっと申し訳ないです。記事を書いたのは一年近く前ですが、その間に鷹月は、世界の古代神話、民話の類を一通り読んだりしていました。改めてこの分類を見ると、ぴたりと当てはまり、またこの説明記事をそれに基づき改変したいなという気持ちも出てきています。要望があれば、そういった視点から改めて説明しなおしていこうとも思います。この記事への感想などお待ちしています。

- 鷹月ぐみな



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