CreationCollege-TOP
C.College Top創作掲示板 情報局2号館

■ 構造分析的物語分類
 「続・昔話の機能分類」以来ひさしぶりの高クオリティな記事だと思っています。ただ、初稿ということもあり言葉の誤用が見られるかもしれません(例:カテゴリ、グループ、ジャンル、タイプの混同)が、そこらへんはなにとぞ容赦くださいな(^^;)。

構造分析的物語分類

 物語と呼ばれるものについて、いくつかの観点を用いて一通り分類することを試みたものです。各分類項目についても若干の解説を付けています。プロの方にとっても資料として活用できるように努めました。

Written: 2002/3/13 


はじめに

 世の中には色んなタイプ・カテゴリの物語が存在することはご存知の通りですが、具体的にどういう型・種類があるのかについては、物書きすらも全容を把握していない事がままあります。また、こうした一覧を解説した本を見るに、大雑把な解説に留まったり、全く抜けが存在していたり、ジャンルの混同が成されていたりと非常にあやふやなものです。ジャンルの混同というのは全く好ましいものではなく、間違った分類を拠り所にした研究を誤った結論に導くものです。
 今回、いくつかの資料を元にし、また、構造分析の手法を少し活用し(少しだけです^^;)、私が一通り物語群に対して細分化、分類することを試みました。細分化のレベルは、学術的に分類されている段階よりももう少し余計に行いました。学術的にはまったく無意味な分類も、私たちのような物書きにとっては非常に有用なものになりうるからです。ただしその為に、細分化されたジャンルの中に、相互包含するものが発生してしまう事にもなってしまいました。
 そして、この私の分類も勿論完全なものではありません。これらは仮の、予備的な分類にすぎず、研究や検討によって将来、もっと望ましい分類がなされる事でしょう。


物語の定義と起源

 さて、物語の種類について分析するまえに、まずは物語とは何かという事について、しっかり確認しておかなくてはいけません。それは感覚的には殆どの人が把握している通りなのですが、それを文章にすると意外に分かりにくくなりますが、おおよそ次のような感じでしょう。

 「言葉やそれ以外の表現手法を用い、多くの場合連続的に繋げる事で、ある感情を持った主体にとってのある期間のはじまりからある期間の終わりまでの動きを、通時的に表しているもの」

 感情を持った主体というのは無生物であっても構いません。また例外的に、主体そのものが感情を持たない場合でも、語り手が生物と同じような扱いをしている場合にも適応されます。

 そしてもう一つ、物語の起源は何か、ということについても簡単に見ておきましょう。太古において物語とは年長者から年少の者に語り継ぐ、一族の起源についての伝承でした。この物語る行為は非常に神聖で魔力を持つものとされ、みだりに人に語る事は禁忌とされていました。しかし社会の発展にともない伝承が俗化され、ここから神話や昔話、そして後期には民衆本という文芸的なジャンルが誕生しました。また、その中で独自にお話を自己創作するという行為も生まれ、こうして今に至る訳です。
 私たちが書く物語は、意識的にも無意識的にも昔話などの影響を受けているわけです。


分類の観点

 さて、物語というあまりに大きなグループ全体を分類するのに、一つの観点だけを用いるやり方では不足です。ここでは完全な分類というよりは、さしあたり全体を分類する事そのものが目的ですので、適宜以下に設定した観点の元に分類を試みることにしました。

[p1] 構造や様式における分類
[p2] 媒体における分類
[p3] 書き手の意図における分類
[p4] 舞台における分類
[p5] 補足/[p1]以外のジャンル物列挙


分類[p1] - 構造や様式における分類

A.ファンタジー
  A-1. 口承文芸ファンタジー
    A-1-a. 神話
      A-1-a-1. 由来神話
      A-1-a-2. 神人神話
    A-1-b. 昔話
      A-1-b-1. 魔法昔話(本格昔話)
      A-1-b-2. 動物昔話
        A-1-b-2-1. 鳥獣草木譚
      A-1-b-3. 累積昔話
      A-1-b-4. ノベェラ的昔話
        A-1-b-4-1. 現実昔話
        A-1-b-4-2. 世態昔話
          A-1-b-4-2-1. 笑話
        A-1-b-4-3. 派生的昔話
          A-1-b-4-3-1. 因縁話
    A-1-c. 伝説
      A-1-c-1. 宗教伝説(レゲンド)
    A-1-d. ブィリーチカ
    A-1-e. スカース
    A-1-f. 民衆本
    A-1-g. アネクドート(小噺)

  A-2. 創作文芸ファンタジー
    A-2-a. メルヘン的創作文芸
      A-2-a-1. ジュブナイル
    A-2-b. メタファー的物語
      A-2-b-1. アイロニー
    A-2-c. リトールド型ファンタジー
      A-2-c-1. カタルシスファンタジー
    A-2-d. 箱庭・娯楽ファンタジー
      A-2-d-1. ハードファンタジー
        A-2-d-1-1. アドベンチャー
        A-2-d-1-2. ハードSF
      A-2-d-2. ライトファンタジー
        A-2-d-2-1. リレーションド
        A-2-d-2-2. スペース・オペラ
        A-2-d-2-3. ライトSF
        A-2-d-2-4. エブリデイファンタジー
          A-2-d-2-4-a. 動物ファンタジー

B.歴史物語
  B-1. 考証歴史物語
  B-2. モチーフ歴史物語

C.実人間物語(ノベェラ)
  C-1. 日記
  C-2. 自伝
  C-3. 経験的私小説
  C-4. 伝記
    C-4-a. 偉人伝
    C-4-b. 伝記的虚構話
  C-5. 思想表現物語

D. その他
  D-1. 偽書型物語
  D-2. 寓話(教唆的物語)
  D-3. 枠物語


分類[p2] - 媒体における分類

M-1.口承(非ー文字)
  M-1-a.音楽(音)
  M-1-b.口承歌(言葉+抑揚+音)
  M-1-c.演劇(言葉+抑揚+動き)
  M-1-d.映画(言葉+動き+音)
    M-1-d-1.アニメ(言葉+動き+音)
M-2.小説(文字)
M-3.漫画(文字+絵)
M-4.絵画(絵)
M-5.コンピュータ(分岐/文字/絵/音/抑揚)


分類[p3] - 意図における分類

L-1.ファンタジーの場合
  L-1-a.心を描くファンタジー
  L-1-b.空想を楽しむファンタジー
  L-1-c.別の世界に生きるファンタジー
  L-1-d.別世界で冒険するためのファンタジー
  L-1-e.神話伝承を再び受け継ぐファンタジー
L-2.その他の意図


分類[p4] - 舞台における分類

G-1.時代という舞台から見た分類
  G-1-a.エンシャント
  G-1-b.ゴシック
    G-1-b-1.ゴシック風虚構話
  G-1-c.スチームパンク
  G-1-d.カレント
  G-1-e.サイバーパンク
  G-1-f.スペース・エイジ
G-2.空間での分類
  G-2-a.
    G-2-a-1.学校
  G-2-b.アネクメーネ
  G-2-c.エクメーネ
    G-2-c-1.未踏地
    G-2-c-2.無人島
  G-2-d.異世界


分類[p5] - 補足/[p1]以外のジャンル物列挙

E-1. 探偵物
  E-1-a. 殺人事件物
E-2. ホラー
  E-2-a. スプラッタ
  E-2-b. サイコ・ホラー
E-3. 青春物
  E-3-a. 恋愛物
  E-3-b. 癒し系
E-4. エロティシズム・ロマン


A. ファンタジー

 物語のルーツが神話や昔話というファンタジーにあることは前書きで示しました。それゆえ、物語区分において最初に紹介すべきは一般のノベルではなく、ファンタジーであることは私たちにしてみれば当然なのです。

[下位区分] - 口承文芸ファンタジー / 創作文芸ファンタジー

▲ インデックスへ


A-1. 口承文芸ファンタジー

 はじめは物語は文字ではなく、言葉で伝えられてきました。そうした伝統を受け継いでいる一連の物語をこう呼ぶことにし、私たちが普通に書いているファンタジー物語(創作文芸ファンタジー)と区別する事にします。
 私たちは昔話の採集家ではありませんから、当然ですが私たちがこのA-1以下のファンタジー作品を発表する事はありえません。それは常に読むべき対象として私たちの前に存在しています。但し、これらの作品から筋やモチーフを借りる事はできるでしょう。

[下位区分] - 神話 / 昔話 / 伝説 / ブィリーチカ / スカース / 民衆本 / アネクドート

▲ インデックスへ


A-1-a. 神話

 かつては儀礼の中で語られていた、呪力を持った(とされた)伝承が、社会制度の発達に従って俗化され、そうして生まれたのが神話です。神話と昔話は類縁関係というよりは、昔話は神話から生まれたものであるとウラジーミル・プロップは証明していますが、現代に伝わる神話のいくつかは後代の昔話によって逆に影響を受け変化したものもあります。どの神話がピュアで、どの神話がピュアでないかを一言で言うのは難しいものですが、ケルトや北欧は間違いなく創意が働いています。

[下位区分] - 由来神話 / 神人神話

▲ インデックスへ


A-1-a-1. 由来神話

 島産み神話をはじめとして、当時存在するある事象や要素の起源を語る神話群。未開民族においては鳥獣草木譚との区別が成されていません。

▲ インデックスへ


A-1-a-2. 神人神話

 ギリシア神話でお馴染みの、神とそれに関わる存在を描いた物語です。

▲ インデックスへ


A-1-b. 昔話

 昔話は、神話の時代には存在せず、神話の衰退と共に(神話から)生まれたものであるとプロップは論じています。昔話の形は沢山ありますが、それを内的構造から分析した結果、「魔法昔話」「動物昔話」「累積昔話」「ノベェラ的昔話」の4つに分類されました。この区分けは全世界的に受け入れられているものではありませんが、これを覆す強力な論文も未だ出ていません。

[下位区分] - 魔法昔話 / 動物昔話 / 累積昔話 / ノベェラ的昔話

▲ インデックスへ


A-1-b-1. 魔法昔話(本格昔話)

 魔法が登場するから魔法昔話というわけでは決してなく、独特の筋とルールを持った、常に1つの構造から成る物語群があり、これをプロップは魔法昔話と定義しました。日本の昔話研究における本格昔話が大体これに該当します。
 魔法昔話の形態についてはCカレでも詳しく論じていますので、まだの方はぜひどうぞ。

▲ インデックスへ


A-1-b-2. 動物昔話

 これも動物が出てくれば直ちに動物昔話というわけではないのですが、「主として行動する存在が動物であり、かつ飼いならされた動物でないものがメインの登場キャラである」昔話のグループが動物昔話と位置付けられています。魔法昔話とは違って構造は同一ではありませんが、内的機能としては確かに動物物語には、非動物昔話には見られない特有のものがあるのです。
 基本的に魔法昔話でない昔話のグループは、派生昔話(神話から一部のモチーフを取って構成されたもの)とされ、柳田国男によると「因縁話」「化物話」「笑話」「鳥獣草木譚」の4つに分けられるそうです。但しプロップは動物昔話が派生昔話であることについては認めておらず、それゆえ動物昔話と親和性の高い鳥獣草木譚も今回、私は派生昔話のグループには入れませんでした。

[下位区分] - 鳥獣草木譚

▲ インデックスへ


A-1-b-2-1. 鳥獣草木譚

 なぜ蕎麦の茎は赤いのかとか、猿の尻はああなのか、といった具合で、その原因を面白おかしく述べた昔話など(これは由来譚ですね)を含む、特別一つの存在にスポットを当てて語ったもの。

▲ インデックスへ


A-1-b-3. 累積昔話

  昔話の中でも累積物語と呼ばれる独特のグループを形成している物語がありまして、ある試行を何度も何度も、少しずつエスカレートしていくように繰り返し、ある所でぷつん、と終局が来るお話がこれにあたります。繰り返しの面白さ、突如やってきた終わりの滑稽さを楽しむことができ、またこの手の作品は寓話のモチーフにしばし利用されます。
 有名なロシア民話「大きなかぶ」がこれに当たります。

▲ インデックスへ


A-1-b-4. ノベェラ的昔話

 魔法昔話動物昔話とは異なった昔話グループで、一般的特徴としては、魔法昔話が常に2つの平面世界を描くのに大してこちらは常に1つの平面しか持たない事が挙げられます。そしてまた、超自然性が不在している事も挙げられます。但し、ノベェラ的昔話の構成は魔法昔話に類似している部分が確かにあり、その親和関係を調べたプロップは、魔法昔話から生まれたジャンルではないかと問題を立て、それを立証しました。ですからプロップによれば、笑話の類は神話から生まれたものではなく、魔法昔話の過渡的な発展であると見ているわけです。

[下位区分] - 現実昔話 / 世態昔話 / 派生的昔話

▲ インデックスへ


A-1-b-4-1. 現実昔話

 別にこれは現実にあった過去を昔話としたわけではなく、単に現実に存在した(とされている)人物が登場人物となっているからこう分類されているだけであって、物語の内容自体はリアリズムとはほど遠い、摩訶不思議なものばかりです。

▲ インデックスへ


A-1-b-4-2. 世態昔話

 世態昔話は昔話の中で比較的農民たちの世態習俗が色濃く反映されている物語群を指しますが、別にこれは習俗を描くことを目的としたお話群ではありません。その土地の社会制度の中で、元の昔話にディテールが付け加わったり登場人物が入れ替わったりという、芸術的変化を受けてできたものだと推測されます。

▲ インデックスへ


A-1-b-4-2-1. 笑話

 笑話は短くて面白おかしい物語です。柳田国男はこれを神話からの派生的物語であると分類しましたが、アネクドートとの関連を見るに、これはむしろ昔話から生まれたものであり、分類的には世態昔話の中に入るだろうと考えられます。ただし、笑話は動物昔話の中にも見られ、そもそも笑話とは何かということを構造的に検討すると、このジャンルを用意する必要があるのだろうかという疑問にも駆られますが、現在はこちらに分類しておきます。

▲ インデックスへ


A-1-b-4-3. 派生的昔話

 プロップは昔話には(神話からの)派生的昔話というジャンルを作ってはいませんが、次に紹介する因縁話を詳しく検討していないため(私もどこに入れるのが適当なのか判断がつかないため)、いちおうこのジャンルを残しておきました。もちろん徒に分類数を増やす事は良い事ではなく、これは後に詳しく調査しなくてはいけません。

[下位区分] - 因縁話

▲ インデックスへ


A-1-b-4-3-1. 因縁話

 因縁、因果という思想は特に仏教のもので、確かに日本や中国などを中心にこの類の話が多数流布しています。(決してヨーロッパ圏に見られないというわけではありません)
 因縁話は時にはおぞましく、また時には美しいものです。このジャンルは日本人に広く受け入れられることはどうやら間違いないようで、痕や月姫、久遠の絆、それこそAirに至るまでこの因縁話の要素を色濃く持ちます。

▲ インデックスへ


A-1-c. 伝説(スカザーニエ)

 伝説と昔話は時に混同されがちですが、構造、発展的にジャンルは別物であるとされます。さて、ここに分類した伝説というのは、ある程度現実におきた出来事や存在にまつわる物語、すなわち真実を一部含んだ物語を指します。そしてこれは昔話とは違い、多くの人々が真実であるとやはり固く信じているのです。

▲ インデックスへ


A-1-c-1. 宗教伝説(レゲンド)

 宗教にまつわる伝説的な話のグループです。こちらは真実かどうかはまた別物ですし、奇跡があちこち起こっている所から見て、にわかには信じられない部分がとても多いものです。自然発生してきたレゲンドもありますが、教会が教化的目的のために昔話から改作したものもあります。その違いは構成を調べれば容易に付くものです。
 ともあれレゲンドは主に一神教の国に広がるという発展的な特徴は確認されています。

▲ インデックスへ


A-1-d. ブィリーチカ

 ブィリーチカは主に超自然的存在(マロース・トレスクーンやレーシー)との係わり合いを描いた物語群です。

▲ インデックスへ


A-1-e. スカース

 学術用語。庶民が生活の中で見たり巻き込まれたりした事件や劇的な体験、あるいは特筆すべき人物との出会いについて語ったりした手記、あるいは語った事を誰かが書きとめた書物の事を指しますが、その内容が物語的におもしろく、芸術的であるものに限られます。ちなみにスカースは書き手自身は真実であると思っているわけですが、この内容が実際に真実の出来事、事象を書いているかというとそういうわけではないようです。

▲ インデックスへ


A-1-f. 民衆本

 口承文芸(フォークロア)に起源を持ち、それに手を加えられて小説の形として印刷された物語です。昔話と類似しているとはいえ、内的特徴、流通形態、歴史的運命が異なるわけで同一視する事はできません。それでもなお、双方は密接に関係していると言えます。
 「フォルトゥナートゥス」や「黄金の鍵のピョートル」などがこれにあたります。

▲ インデックスへ


A-1-g. アネクドート(小噺)

 アネクドートは基本的に短い話であり、思いがけない、既知に富んだ結末(短く言うなら諧謔)を持つ話を指しますが、そうでないものもアネクドートと呼ばれていることがあります。プロップの分類によれば上記定義のアネクドートは世態昔話に属するものと結論付けていて、その根拠もあるのですが、アネクドートの研究者の中にはこれに反対している者もあります。
 一応今回は昔話の外に置いておきましたが、いまのところ私個人は昔話の範疇に入れて良いものと考えています。
 なお、笑話とアネクドートは極めて近い関係にあると考えられます。

▲ インデックスへ


A-2. 創作文芸ファンタジー

 実際に私たちがファンタジー作品を書く場合、それはこの下位分類のいずれかに属するものになることでしょう。

[下位区分] - メルヘン的創作文芸 / メタファー的物語 / リトールド・ファンタジー / 箱庭・娯楽ファンタジー

▲ インデックスへ


A-2-a. メルヘン的創作文芸

 いわゆる近代、現代童話のジャンルですが、メルヘン的としたのは別に主人公が少年少女に限らず、かつ読み手も子供に限定していない物語群を含めるためです。とはいえ、心を描く類のファンタジーの多くは日本では子供向けとしてしか殆ど読まれませんが…。

▲ インデックスへ


A-2-a-1. ジュブナイル

 ジュブナイル小説とは一般に、少年少女の心の成長を描く物語です。舞台は実世界である事が多いのですが、なにがしか閉鎖的な空間があり、その中でほぼ確実に不思議な(幻想的な)事が起きます。これらは基本的に少年少女の心の反映をイメージ化したものです。
 成長物語である事から必然的に、ある一定期間の中での物語となります(1日とか2日だけという事は通例無い)。多くの場合、そして自己の存在と他者の存在、それらを通時的に認識するプロセスが含まれます。
 関連するカテゴリとしてタイムファンタジーがあります。なぜなら少年少女が主人公となるタイムファンタジーの多くは、上述した要素を殆ど持っているからです。
 バーネットの「秘密の花園」、ピアスの「トムは真夜中の庭で」、カニグスバーグ「エリコの丘から」などなどが一例ですが、これらは児童向けメルヘンと呼ばれていますね。

▲ インデックスへ


A-2-b. メタファー物語

 メタファーとは「比喩」の事で、現実社会の何らかの縮図をキャラクターとシナリオの中に詰め込ませ、全体として幻想的な作品に仕立てあげたものです。これ以外のカテゴリでも、メタファーの手法を持ち込んだ創作文芸ファンタジーは色々ありますが、その中で幻想性およびメッセージ性の高いものがここに属します。
 「銀河鉄道の夜」を始めとする宮沢賢治作品のだいぶ多くはここに分類されます。村上春樹作品も私は基本的にこの中に入れています。

▲ インデックスへ


A-2-b-1. アイロニー

 メタファー系に属しますが、そのメタファーの手法をもっと強烈に押し進め、社会を皮肉ったり、社会の不条理について浮き彫りにしている作品群です。
 宮沢賢治の「注文の多い料理店」は、メタファーというよりはアイロニーに属するものと言えましょう。また、「ガリバー旅行記」や「不思議の国のアリス」もここに属します。
 メッセージ性については強いものもありますが、逆にぼかしているものも存在します。カフカの作品群がそれに当たります。

▲ インデックスへ


A-2-c. リトールド型ファンタジー

 リトールドとは「再話」の意で、神話や伝説を自分の言葉で、自分の意図を含ませながら再構成している物語群です。多くの場合、何らかのメッセージ性を入れるための手法として用いているか、あるいは宗教的な真理の追究を図っています。メタファーも多くの場合含まれます。
 ダンテの「神曲」、ミルトンの「失楽園」がこれらに属します。
 なお、神話や伝説のモチーフや形象を好き勝手取って再構成したものはリトールドに当たりません。それらは多くの場合、ライトファンタジーの方に分類されるでしょう。

▲ インデックスへ


A-2-c-1. カタルシスファンタジー

 主人公が人間であり、リトールドによって提示される世界の中で幻想的な体験をし、現世を超然と認知し、最終的に一つの悟りを得る、という物語グループ(カタルシス=浄化)。しかしジャンルを立てたはいいものの、真の意味での浄化を描ききった作品は世界でも数えるほどしかないものと思われます。ゲーテの「ファウスト」など。

▲ インデックスへ


A-2-d. 箱庭・娯楽ファンタジー

 別の世界を作って、そこでの冒険などを書き読み手を楽しませたり、日常に非現実的なものを多数取り入れ、わくわくさせる物語に仕立て上げたり……通例私たちがファンタジーと呼んでいるものは、ここの下位区分に属します。ハリーポッターも指輪物語も、ロードス島戦記も、ワンピースもバスタードも、云々。

[下位区分] - ハードファンタジー/ ライトファンタジー

▲ インデックスへ


A-2-d-1. ハードファンタジー

 箱庭ファンタジーの中で、厳密に世界を構築し、厳密な(論理的な)世界ルールの元で、ある物語を進行させようとするもの。或いは、個人一人一人というより、彼ら全体で世界の存亡をかけて冒険をしたり闘う物語(叙事詩的なもの)、このどちらかがここに属します。世界全体が主軸となっている事がポイントであり、結局人間ドラマを描く物語群というのは基本的にはハードファンタジーには入れず、ライトファンタジーに私は含めています。ただし、ハードとライトの区分は明確でなく、物語の中には両面持っているものもあります。ドラゴンランス戦記は基本的にはハードファンタジーですが、人間ドラマも欠くことはできません。  私はそこで、人間ドラマがあるなしの判断だけでなく、「ある超越した存在に登場人物が従って行動しているか」どうかで判断しています。超越者の意思が強く働いていないものや、それに逆らうような物語はライトファンタジーの群に入れています。

▲ インデックスへ


A-2-d-1-1. アドベンチャー

 シビアな世界観の中での冒険や探索を描く物語。大自然の中における人間たちのサバイバルなど。一般には「秘境冒険物」と呼ばれたりすることが多いです。

▲ インデックスへ


A-2-d-1-2. ハードSF

 SF(サイエンス・フィクション)とは何か、の定義は非常に難しく、またライトSFとハードSFの区分けも実のところ明確ではありません。ピーター・ニコルズによれば、ハードSFとは「いわゆるSFの黄金時代に書かれたジャンルSFのテーマと、多くの場合そのスタイルを、反復しているような種類のSF」いわゆる伝統的SFを指す場合と、「いわゆる〃ハード〃サイエンスを扱っているSF」の2種類があると指摘しています。もっともSFに詳しくない人は「数多くあるSFの中でとりわけ科学性の強いものをハードSFと呼ぶ、で十分である」(大野万紀氏)という認識で良いと思いますが。
 ともあれ、どちらの解釈を見ても、私の考えるハードファンタジーの中に基本的には包含できるものと考えています(論理的=科学的)。SF⊂ファンタジーという包含はSFファンには嫌われますが、私の分類からはそういう事になってしまいます。

▲ インデックスへ


A-2-d-2. ライトファンタジー

 箱庭ファンタジーの中で「ハードファンタジー」でないもの全てをこちらに含めます。要するには、異世界の中での人間ドラマを描いたり、世界そのものを楽しませたり。楽しませるために必要な世界しか描写しないために、全体が重くなく、それゆえのライトなのです。

▲ インデックスへ


A-2-d-2-1. リレーションド・ファンタジー

 異世界と現実世界が関連するか、あるいは現実世界の中に不可思議なファンタジーが突如混じりこんできてドラマを形成する物語です。近未来物のライトSFもこの分野と類縁関係にあると言ってよいでしょう。特撮モノもここに属します。
 現実との関わりを持つ分、それが作り話と分かってはいてもやはり現実感があり、近年ずっと人気のジャンルとなっています。
 なお、このジャンルはさらに下位区分が可能で、異世界の人間が現実世界にやってくるタイプ、現実世界の人間が異世界に呼ばれたりするタイプ(レイアース、ヴィルガストなど)、行ったり来たり、或いは相互にずっと関連しうるタイプがあります。

▲ インデックスへ


A-2-d-2-2. スペース・オペラ

 宇宙を舞台とした叙事詩的物語、あるいはスペクタクル物語は、ファンタジーとSFとの合いの子です。銀河英雄伝説やガンダムなどがこのジャンルの例です。このジャンルに戦闘は欠かせないものであり、構造的には歴史軍記物のファンタジー化されたものと見ることができます。

▲ インデックスへ


A-2-d-2-3. ライトSF

 SFの中で、ハードSFでないものがライトSFとなります。簡単に言ってしまうなら、サイエンスを源流としながらも厳密な科学性・法則は持たせずに物語としているものや、SFの中でも人間ドラマの方に主眼を移しているものなどが該当します。星界の紋章はこちらですね。
 スペースオペラはライトSFの一分野と見ることもできるのですが、舞台が単に宇宙であるだけで、ここから外されて考えられる事もあります。

▲ インデックスへ


A-2-d-2-4. エブリデイファンタジー

 ちょっと不思議な世界の中での日常の出来事を描いた物語。英雄の活劇とか陰謀とか人間群像ドラマなどは存在しません。

▲ インデックスへ


A-2-d-2-4-1. 動物ファンタジー

 エブリデイファンタジーの一種。登場人物の多くが動物である事が特徴で、動物とは言っても言葉を話せば他の動物とも交流するのが当たり前という、人間を動物に置き換えただけという感があります。ムーミンやダンボ、トムとジェリーなどのお話はこのカテゴリに属します。
 動物ファンタジーの源は動物昔話にあることは明白ですが、作り手は意識して動物昔話から筋を取っているわけではなく、人間がキャラクターだとやりにくい類の物語を作る際の手法として取り入れている事が殆どです。短いものは寓話になりやすいジャンルでもあります。

▲ インデックスへ


B. 歴史物語

 ここからファンタジー外の物語に入りますが、決してこれはファンタジー性が無い事を意味するものではありません。さて、歴史物語は文字通り、過去の歴史を元にしたお話のグループです。お話の形になっている時点で多少なり娯楽的要素があり、それはすなわち100%事実でなくても良く、事実を元にしてあとは読み物として好きなように作者が構成しているものです。

▲ インデックスへ


B-1. 考証歴史物語

 多くの歴史のテクストを集め、可能な限り作者の勝手な想像を含まずに構成したもの。司馬遼太郎の作品すべてとは言いませんが、氏の作品は非常に考証ができており信頼できる面が強いです。

▲ インデックスへ


B-2. モチーフ歴史物語

 ある歴史上の一つの事件などについて、それなりの想像を追加してドラマチックに仕立て上げたもの。
 過去の歴史の存在については、言うまでも無く作者はそれを直接に見聞きしたわけではなく、100%真実のみを書くことはできず、必ず合理化的な創作が入ります。その度合いもバラバラであり、[B-1]と[B-2]は明確に区別できるものではなく、敢えて言うなら的に分類できるに過ぎません。
 サトクリフの「第十軍団のワシ」はモチーフ歴史物語であり、プルタルコスの「英雄伝」は(一応)考証歴史物語に入りますが、塩野七生の歴史小説は先述したような微妙な位置に属します。確かに多くの資料を参考にしていますが、登場人物の心理を勝手に作り、必要だったらキャラクターをこさえて歴史を表現しているため、どちらにも所属できます。しかし敢えて分類するのを許されるならば、ローマ人の物語は考証歴史物語に入れさせてください。創作が強い「三つの都の物語」はモチーフ歴史物語でしょうけれど、これとてテクストは相当数集めており、実際の歴史を基にしているために、これを考証歴史物語の中に入れるべきと主張する人が居てもなんら不思議ではないでしょう。

▲ インデックスへ


C. 実人間物語(ノベェラ)

 これは、作者が自分の現代について書いたものか、あるいは過去を書いたもので、歴史というよりは個人にスポットを当てて書いたお話が属します。また、現代が舞台としても、架空のキャラクターを作り、そこに自分の経験的なものもこめる作品などを含みます。
 実人間物語なんて呼称は私が勝手に定義したものですので、ファンタジー分野でないノベル一般、と捉えて構いません。

▲ インデックスへ


C-1. 日記

 あまりに有名な「アンネの日記」など。もちろん人に読ませるように書かれていない日記や、全体として物語性を含まないものはここに含みません。
 プラムストーカーの「ドラキュラ伯爵」や、デフォー「ロビンソン・クルーソー」は、これはファンタジーの分野であり、虚構を扱った物語ではありますが、手法として日記形式を用いているということで付記しておきます。

▲ インデックスへ


C-2. 自伝

 自分の半生あるいは一生、時にはある特定の期間について物語風に記したもの。単に書くだけのものは他人から見て面白くも何ともないわけで、世に出て評価される自伝というのは要するに、有名人とか社会に貢献した人、あるいは激動の事件を体験した人のそれになります。自伝は脚色や自己弁解が含まれることもあり、自伝は常に真実ではないことは周知の通りですね。

▲ インデックスへ


C-3. 経験的私小説

 自分の今までの経験や体験に想像を交えて、それをノベルの形にしたもの。原則的に一人称を用います。私小説は(主人公の関わる)ある事件を描くもので、その多くは心理的葛藤を主題としています。一人称小説はその特徴柄、心理描写が増えるわけですが、この主人公たる「私」とは作者の分身に他ならず、多くの場合は作者の代理であり代弁です。要するに作者の自己主張が強く出てしまう形態でもあり、書きやすい反面、そりが合わない読者が多く出るジャンルでもあります。

▲ インデックスへ


C-4. 伝記

 過去、但しそれほど大昔ではない時代…の人物の半生あるいは一生について紹介した物語です。縁のあった故人への追悼として書かれたりします。

▲ インデックスへ


C-4-a. 偉人伝

 伝記の中でも、社会に貢献した人物の一生について触れた物語です。こういう物語は非常にドラマチックに仕立てあがりますが、偉人伝は大抵誰かが書いてしまう分野でもあり、普通の人は発表レベルで書く機会はあまり無いことでしょう。

▲ インデックスへ


C-4-b. 伝記風虚構話

 現代あるいはちょっと昔の時代の自分の国を舞台として、創作的に人物を作り出し、いかにも本当にあったかのような話として(別に騙すわけではないのですが)書く小説形態です。私小説との違いは主に3人称であることと(伝記は当たり前ですが3人称です)、非常にテーマが広くなることです。通常フィクションと言うとこれを指すことが多いですね。

▲ インデックスへ


C-5. 思想表現物語

 ある政治的理念や思想を伝える手段として作者が物語の形態を使ったものです。アイロニーでありメタファーでもありますが、もっと痛烈であり直接的に理念を述べたものである事は読んでみればすぐに分かる、それが特徴です。

▲ インデックスへ


D-1. 偽書型物語

 偽書というのは、でたらめな事(あるいは嘘)をさも本当にあったかのように書き記し、それを信じ込ませる事で作者の目的を達成するようにした書物、書状ですが、これが物語の形態を取っているもの。「ピリチスの歌」がこの中に属します。

▲ インデックスへ


D-2. 寓話

 教訓・処世訓を与える目的で意図して作られた物語。動物や他の事柄にそれらをメタファー化して託すことが通例です。「チーズはどこへ消えた?」が最近流行った寓話でしたね。
 動物昔話の多くは確かに寓話的なものがありますが、但し作者が教訓を与える目的で作り上げたわけではないものは私は寓話とは見ていません。また、グリムや、特にペローの昔話集は教訓的意義合いも持っていますが、昔話の中に寓話的要素が含まれるだけで、基本的に昔話は寓話ではないことに注意してください。

▲ インデックスへ


D-3. 枠物語

 物語の中で物語を語るもの。ファンタジーを語る場合の形式としてしばし用いられています。「変身物語」や「千一夜物語」などがこの枠物語に属します。基本的には中の物語になればなるほど現実から不思議なものへと移行していきますが、エリナ・ファージョンの「リンゴ畑のマーティン・ピピン」のように、中に入るほど現実的になっていくという変種も存在します。

▲ インデックスへ


M-1. 口承(非−文字)

 ここからは、物語の伝達媒体による分類です。大きく、声や音を主体として事象を伝えるグループと、その他、文字などの記号などを用いて事象を伝えるグループに分けられます。

▲ インデックスへ


M-1-a. 音楽(音)

 ここでは声は入らず、単なる楽器の音のみで構成される音楽を挙げておきます。音楽は具体的な言葉に類するものを何一つ持ちませんが、私たちの心に直接抽象的な感情を伝える事ができます。受け手の感覚によってもある程度左右されるところがあり、これを物語と言えるかは難しい所ですが、音楽からは確かに、物語(性)を感じられるものがいくつも存在します。私の物語定義にも合致するため、音楽も物語の1媒体として位置付けます。

▲ インデックスへ


M-1-b. 口承歌(言葉+抑揚+音)

 いわゆるフォークロアですが、ここでは広義に、私たちが一般に呼んでいる「歌」すべてを含めます。文字による物語文芸はすべてこのジャンルから生まれたものです。歌に重要なのは歌詞と音であることは当然ですが、抑揚(韻を含む)も決して無視できない要素です。
 かつては儀礼歌として先祖の伝説を伝えたジャンルは、あらゆる物語を表現する手段として拡張しました。しかして今は(多くは)恋を歌うための手段、(残りは)子供のための歌と、ずいぶん凋落してしまったような気がします。

▲ インデックスへ


M-1-c. 演劇(言葉+抑揚+動き)

 かつて儀礼では、歌を歌い、そして踊りました。現代でも祭りにはその形態が生き残ってはいますが、原初では歌にも踊りにもとても意味があったものです。演劇のルーツも実を言うと儀礼にあります。独自に発展してきたジャンルであると異を唱える方も居るかもしれませんが、「誰かに扮して役割を演ずる」という本質において演劇と儀礼における仮装&踊りはまったく同一のものです。前者は物語の表現手段として、後者は神聖な行為として行う、という違いはありますが。
 何はともあれ、演劇物語は見る人に独特の雰囲気を与えます。ところでゲーム製作者にとって演劇は実際関係ないものでしょうか?そんなことはありません。文字だけではうまく表現できないものを表現する最良の手段が演劇であり、ここから学ぶべき事、活用できることはいくらでもあるはずです。

▲ インデックスへ


M-1-d. 映画(言葉+動き+音)

 近代が生み出した物語芸術の一つが映画です。私たちは作中の人物に容易に没入し、追体験をすることができます。それはリアリティに富む、現実的な非日常的物語への強烈な誘いです。映画はまた娯楽性の極めて高いメディアでもあり、映画の演出手法はゲーム製作に役立ちます。

▲ インデックスへ


M-1-d-1. アニメ(言葉+動き+音)

 漫画から生まれた、映画的な表現手法を持った媒体がアニメです。古くはアニメ映画と呼ばれましたね。ジャンルとしての特質は映画と同じですが、実際の人間、実際の舞台を使わなくて良い分、好きな事ができるわけでファンタジー物語の表現には格好です。(映画でこれをやろうとすると、とてつもないコストがかかります)
 アニメを見ていて思うのは、キャラが動くことはやはり魅力的だなあという事に尽きるということです。

▲ インデックスへ


M-2. 小説(文字)

 フォークロアからめぐりめぐって形成されたジャンルが文字による物語、ようするに小説の類です。場面、動き、展開……すべてを文字によって説明し、進行させていかなくてはいけません。読み手はそれをイメージに変換しながら追体験していきます。映画や漫画に比べるとこの作業はまどろっこしさは否めませんが、その分想像力を自由に膨らませる事ができます。
 小説(に限らず文章全てですが)を読み、また書くことは、人間が古代から培ってきた知識、文化を継承することだと私は考えています。

▲ インデックスへ


M-3. 漫画(文字+絵)

 キャラの絵(動き、姿勢)を描き、そこにフキダシという形で言葉を文字で表現した「マス」を連続して描く事で物語の形態を作り上げた、近代に登場した極めて独特なジャンルです。とはいっても私たちにとっては独特どころか非常に身近なものなのですが。
 漫画は描くのに技術は必要とはいえコストはかからず、読むほうはひたすらに楽で、物語の表現として、特に娯楽物語の提供としては優れた媒体です。心の機微や細かい動きを表現するのがとても苦手ですが、文字では表現しにくい「間」という概念をいともたやすく表現できるわけで、双方に表現の得意分野があると解すべきでしょう。
 漫画は世間的には「遊び」の1ジャンルとされ、低く見られています。でも確かに、深い思想を内包した漫画が非常に少ないのに対して、娯楽的作品(世界を楽しむための物語)が多いのは事実なのですから、こうした評価は仕方がないのでしょう。漫画文化の果たしてきた価値は厳然と存在するのですが、残念ながらメインが娯楽である以上、社会的価値を認知させるのは宿命的に難しいのです。

▲ インデックスへ


M-4. 絵画(絵)

 一見、絵画というものはある瞬間を描いたものであり、それは通時的でないように見えます。実際そういうものはいくらでもあり、それは私から見て物語とは思いません。ようするにここでは、通時的なものを有した絵……1枚の絵の中に、ある始まりと終わり(反応)が共存している絵のことを指します。あるいは、物語や出来事をイメージ化した絵もこれに含まれます。「受胎告知」などがその例ですね。

▲ インデックスへ


M-5. コンピュータ(分岐/文字/音/絵/抑揚)

 現代、あたらしく生まれた物語の表現ジャンルで、今までの各媒体の要素をほとんど全て取り込むことができます。(生きた人間を取り込むことはできるわけがありませんので、生演劇の本質だけは真似できませんが…)
 各要素のそうした複合において物語を提供できるわけですが、さらにコンピュータを用いた物語は、読み手の選択によって物語を変化させたり、時にはランダムで違う物語を提示したりする新要素を提供します。これは、透徹した物語性を損ねる可能性が高いものではあるのですが、まったく逆に、物語性を今までに無いほど高める事もできます。なんであれ私たちは、非常に表現能力が高く、幅の広い媒体を有しているというわけです。

▲ インデックスへ


L-1. ファンタジーの書き手の意図分類

 次の分類は様式ではなく、書き手の意図という内的な要因で分類したものです。ことファンタジーに関しては、朱鷺田祐介氏が「ファンタジー・メイキング・ガイド」の中で論じていますので、殆どこれを要約紹介させてもらうことにします。

▲ インデックスへ


L-1-a. 心を描くファンタジー

 登場人物たちの行為を通して、人と人との関わりや繋がり、心の成長について描くファンタジー物語で、[p1]におけるメタファー物語の多くはここに属します。ここで言うファンタジーにおいては異世界や怪物などという存在は必ずしも必要ではありません。心について語る、あるいは訴える手段は、いまやファンタジーと歌(詩)にしか無いと言っても過言ではありません。

▲ インデックスへ


L-1-b. 空想を楽しむファンタジー

 作者が空想した様々な存在、世界を描く事を目的としたファンタジーで、基本的に空想を「楽しむ」ための物語、ようするに娯楽的要素の高い物語と言えましょう。

▲ インデックスへ


L-1-c. 別の世界に生きるファンタジー

 空想をもっと推し進めて、現実の世界とまったく別個の箱庭世界を生み出す事を目的としたファンタジーがあります。基本的には読み手に、箱庭世界のあらゆる物語を楽しんでもらおうと言う意図があるわけですが、その中で作者はまた、色々な事を伝えようとするわけです。

▲ インデックスへ


L-1-d. 別世界で冒険するためのファンタジー

 L-1-cと非常に似ているようですが非なるもので、こちらは確固たる別世界を作ることを目的とはしておらず、冒険やロマンといったドラマチック・ストーリーを演出するためのファンタジーであり、世界もそれに足るだけの設定しかしていないものです。現在の多くの(ゲーム)ファンタジー物語はここに該当します。世界が崩壊するとかいった、非常に恣意的な展開はまさにこういうファンタジーのやり方です。言ってみれば読み手を遊ばせるための物語であり、河合隼雄が「商品価値の高い作り話ではあるが、筆者には興味が無い分野である」と言ったのもこのジャンルです。私たちはこうしたファンタジーからも色々な事を得ることがありますが、確かにそれは、メインテーマというよりは二次的な部分で物事について得ているだけで、私たちがこの類の物語を読むときの基本態度は確かに「遊び」なのです。

▲ インデックスへ


L-1-e. 神話伝承を再び受け継ぐファンタジー

 [A-2-c] : リトールドファンタジーの項で述べたものと同一ですので省略します。

▲ インデックスへ


L-2. その他の意図

 ファンタジー物語における意図や主眼について紹介してきましたが、話を物語全体という風に膨らせた場合、「作者は何のために物語を書いているのか」となると、実に多種多様な回答が出てきます。誰か特定の人物に渡すため、お金を得るため、有名になるため、自己の存在を確認するため、何となく書いてるだけ、プロになるため、ある人物についての記憶を忘れないようにするため、今の社会について批判をするため云々。死と言う存在に怯えて書いていると言い切った映画脚本家も居ます。ここではそれらの衝動心理を分類することはしません。いろんな理由によって物語が書かれて然るべきです。

▲ インデックスへ


G-1. 時代という舞台から見た分類

 舞台というと私は二つの観点…「生活空間(Where)」と「時代空間(When)」にまず分けて考えなければいけないと思います。ところで物語をその時代によって分類した場合、一般のノベルは当然その殆どが現代かやや過去となり、歴史物だけが過去を扱います。しかしファンタジーを時代で分類していくと、さらに多くのサブカテゴリが得られます。

▲ インデックスへ


G-1-a. エンシャント

 文字通り古代を舞台とした物語です。単に昔という以上に大昔、それは歴史書によってディテールを明らかにしにくい領域であり、本当の過去をモチーフにしたものであっても、自動的にファンタジーの要素が付加されます。

▲ インデックスへ


G-1-b. ゴシック

 ゴシックというのは中世の様式を指しますが、ここでは中世というよりは科学主義の入る前の時代世界を意味します。ファンタジーでは比較的スタンダードな世界がここに当たる事でしょう。また歴史小説の場合でも、三国志から十字軍、日本の戦国時代まで、人気のある歴史活劇物語が展開される時代があり(具体的な年代は国によって違うわけですが)、私はそれらを称してゴシックファンタジーというグループに含めます。朱鷺田氏の「ゴシック・ロマン」という区分とは違いますので注意してください。

▲ インデックスへ


G-1-b-1. ゴシック風虚構話

 現実のゴシックの世界観を元にし、それらを好き勝手つなげたり、新しい要素を入れて作り上げたファンタジー物語があり、時代区分的には「ゴシック風虚構話」と呼ぶことにします。「Lord of the five rings」などのファンタジーがここに該当するでしょうか。「水滸伝」もそうですね。

▲ インデックスへ


G-1-c. スチームパンク

 産業革命が起き、科学主義が取り入れられ、当時における最初の高度成長期の真っ最中、という時代の物語群。その象徴は蒸気機関車であり、銃の整備が本格的に行われてしまう前までの話を扱います。アンティーク感が漂うファンタジーになりやすいものの、ちょっとデザインを間違えるとその世界観はたちどころに崩れてしまう、極めて慎重に扱わなくてはいけない区分です。
 佐々木隼人氏の「蒸気爆発野郎!」(TRPG)は、同人ながらもスチームパンクのオリジナル・シェアード・ユニバース世界を構築しえた(そして今に至るまで続いている)例として記しておきましょう。

▲ インデックスへ


G-1-d. カレント/ちょっと昔〜現在

 スチームパンクの終わりから現代、あるいはほんの少し未来を舞台にした物語群。ここはファンタジー物かそうでないかで大きく区分し、さらに細かく「大戦前」だとか「大戦後」だとかで詳細区分を提示することもできますが、今はその必要性がないのですべて一括りに「カレント」と総称するのみにして終わりとします。

▲ インデックスへ


G-1-e. サイバーパンク

 近未来を舞台とした物語群。分かりやすく言ってしまえばドラえもんの「22世紀の未来の世界」ですか。主に「世界崩壊の後に発生した(或いは何らかの理由によって衰退した)、荒廃した」もの(一部スチームパンクに逆行している部分がある)と、「世界崩壊はなく、そのまま発展しえた」ものと、「純粋に自己想像の」ものと、3つに分けられます。
 サイバーパンクの時代定義も難しい所ですが、宇宙に本格的に移民するようになるまでの時期だ、と簡単にまとめることにしておきます。

▲ インデックスへ


G-1-f. スペース・エイジ

 (スペースオペラの項である程度説明はしているので)人間が宇宙に本格進出して以後の物語群、とここでは軽く述べるのみに留めておきます。

▲ インデックスへ


G-2. 空間での舞台分類

 主人公たちの生活あるいは行動する実際的な空間によっても物語は強く規定されてきます。このサブカテゴリは色々な区分けが可能なのですが、いまは舞台そのものについての紹介をする事が目的ではないので、ごく簡潔に4種類だけのサブ区分「館内」「居住地帯」「非居住地帯」「異世界」に分けました。

[下位区分] - / アネクメーネ / エクメーネ / 異世界

▲ インデックスへ


G-2-a. 館モノ

 ある特定の建物内でその主要なストーリーが展開するグループがありますが、その中でとりわけ特異な地位を占めるのが「洋館物」と呼ばれる物語です。主人公が閉じ込められるケースが多いのですが、主人公が自ら一定期間希望して留まる場合もあります。いずれにしろそこで不思議な体験をすることになります。館物はそれを繋ぎとめる強力な謎があり、これが解けたとき、自然と出口は開かれることになっています。たとえそれが館が炎上することになり、脱出するという形をとっても。

▲ インデックスへ


G-2-a-1. 学校

 建物のカテゴリの中でも学校を舞台としたものは、館モノとは全く展開を異にし、その多くはホラーやサスペンスの舞台ではなくて、青春物恋愛物の舞台として用いられます。とはいうものの、その限られた空間の中に出入りする人物は固定されていること、建物内には特別な規則、特別な生活習慣があるという事で、構造的に類似性を持ちます。また、話によっては容易にこの学校という空間は洋館物と同じ世界に変貌しえます。

▲ インデックスへ


G-2-b. アネクメーネ

 アネクメーネとは人間が居住することのできない地帯を意味します。ということはアネクメーネを舞台とする物語は、そこに迷い込むなりして脱出するものか、あるいは一定期間その世界で暮らさなければいけない、という内容になります。例として海中、氷河、雪中など。新保氏の「ホワイトアウト」などがこのアネクメーネ物になりますね。

▲ インデックスへ


G-2-c. エクメーネ

 アネクメーネに対して人間の居住できる地帯を意味し、殆どの物語はエクメーネを舞台としているはずなので、エクメーネ物というジャンルはありません。ただ、ここで強調しておきたいのは、エクメーネはすなわち人と人が接するところであり、すなわちどこでもドラマは成立しうる、という事です。
 また、サブカテゴリとして、人が暮らせる所だとしても殆ど人間が暮らしていない地帯を舞台とした物語群がいくつか存在しています。

▲ インデックスへ


G-2-c-1. 未踏地

 文明の手が全く及んでいない秘境への探査あるいは迷い込みの物語です。あくまで現在の文明が未踏であるだけで、そこには先住民が居る事もありますし、あるいは過去に文明が栄えていたものの何らかの理由で亡びてしまった閉鎖された秘境であるケースもあります。いずれにしろ身の危険を感じながら過ごしていく物語になることでしょう。

▲ インデックスへ


G-2-c-2. 無人島

 果実があり、動物が生息する無人島に迷い込んでしまう冒険物語の類です。結末は船で脱出するか、或いは他に人間が居る事が分かり、そこに定住することになるか、のどちらかになります。常として一人きりにおいて定住する結末を持つ事はありません。

▲ インデックスへ


G-2-d. 異世界

 殆どの場合ファンタジーのジャンルで用いられる舞台であり、物語の展開は多様に富みます。また、先ほどの区分にあったWhenについてもいい加減であり、異世界という定義ははやつくりものの感を呈します。

▲ インデックスへ


E-1. 探偵(刑事・推理)物

 主に探偵・刑事がある事件を調査、解決していく類の物語です。常にいくつかの謎が提示され、これを主人公が解いて行くものになるわけですが、人間ドラマを背景にしたものとあくまでトリック・パズルを解く楽しみを与えるために作った物語、その両方を持ったもの、とジャンルを細分化することも可能です。なお、殺人事件を核とした作品は殺人事件物というサブジャンルに分けました。

▲ インデックスへ


E-1-a. 殺人事件物

 探偵(刑事)物の中でも殺人事件、特に連続殺人事件を扱ったものがあります。人の死というのは常に衝撃的なものであり、その周辺にはドラマが発生します。読み手側としてはそうした非現実的な刺激を志向し、こうした物語を好んで読みます。しかし私にとっては何の興味も無いジャンルです。なお、ホラーと密接な関係を持っています。

▲ インデックスへ


E-2. ホラー

 読み手に恐怖を起こす物語群です。単にホラーと言った場合、不可思議な現象が起きたり(ゴシック・ホラー)、魑魅魍魎のような存在が人間を脅かす物語群を指します。ホラーの背景には自己の喪失への恐怖、あるいは虚無感という拠り所があります。

▲ インデックスへ


E-2-a. スプラッタ

 猟奇物、とも呼ばれ、グロの中でも視覚的なものに特化したジャンルです。映画の中で発展してきたジャンルですが、現在は頭打ちとなり、現在はおもに女性向けホラー漫画の中で延々と生き延びています。

▲ インデックスへ


E-2-b. サイコ・ホラー

 モダン・ホラーとも呼ばれますが、基本的に人間の狂気を扱ったホラー物を指します。私たちは正常でない精神を持つような人間に接すると、多少なりの忌避感を持ちますが、単に嫌がるのみならず、畏怖や、時にはある種の共感をも抱きます。グロの中でも精神的に特化したものですが、スプラッタ的なものが混じってくるケースも多々あります。

▲ インデックスへ


E-3. 青春物

 主に少年少女の14〜20歳あたりで体験する人間ドラマを指します。この物語の書き手は自分の過去へのノスタルジーを、経験あるいは追体験を元にして綴っています。青春時代を体験していない人が、書籍などから知りえた青春物を元に書く場合もありますが、多くの場合チープなものが出来上がるが、明らかに模倣的な作品が出来上がるだけです。ノスタルジーがない以上このジャンルを書くのは非常に難しいということは知っておかなくてはいけないでしょう。

▲ インデックスへ


E-3-a. 恋愛物

 文字通りなのでほとんど解説の必要はないでしょう。悲哀物も裏返しているだけで恋愛物に属します。恋愛物をドラマチックにするために、三角関係などのコンフリクト構造がしばし使われます。

▲ インデックスへ


E-3-b. 癒し系

 癒し系物語というのは主に、徹底的に登場人物(主人公かヒロイン)悲劇に陥れ、そこから回復するような物語をこう言う場合と、いわゆる「ちょっといい話」をこう言う場合の二通りあるようですが、私がここで規定するのは前者の方です。癒し系の本質は読み手を同化、没入させて、精神的に強い揺さぶりをかけ、最後に開放する事にあります。カイヨワの分類におけるイリンクスとミミクリの両要素を持ちます。ところでこの開放感は感動としばし混同されますが、同一視してはならないものだと考えています。

▲ インデックスへ


E-4. エロティシズム・ロマン

 いわゆるエロ系。エロチックは色々な物語の中にしばし混じるものですが、あくまでエロを主導とするものが現実に次々リリースされています。この分野もシチュエーションやその構造で細分化することが可能ですが、このCカレで語るべき事ではないので略します。一般的にエロチックは作品の売上に直接的に影響しやすく、表立ってのエロでないとしても活用する作家は、特に漫画家に沢山居ます(これは男性にとっての性の刺激が主に視覚的であることに起因します)。
 私個人はエロチックを排する人間では無いことは、サイトをよく見ている方には先刻承知の通りと思います。有害となる面は確かにあり、それは懸念されるべきでしょう、しかして性は実存に関わるものであるがゆえに積極的に排斥されることには異を唱えるものです。

▲ インデックスへ


終わりに

 一通り書くべき事は書きました。ぱっと見、壮観なインデックスになったような気がします。もちろん私は物語の本質の全てを知り尽くしたことでこの分類を行えた等と言うつもりは毛頭ありませんし、このインデックスが全てを網羅したとも考えていませんし、形式主義(フォルマリズム)に陥るつもりもありません。良い創作作品を作り出さんとする目的で書いた分類であり、分類することそのものが終着というわけではありません。
 ともあれ、創作をされる方に活用していただけるものであれば良いな、と思います。
 記事への感想、指摘などぜひお寄せください。

- 鷹月ぐみな 


参考書籍

 本分類にあたっては、以下の文献を活用させていただきました。

[1] 「日本昔話事典」/弘文堂
 プロップが省略した、様々な細かい区分について参考に。日本昔話の本ではありますが、世界全体の昔話研究についても鳥瞰的に網羅しており便利な本です。

[2] 「ロシア昔話」/ウラジーミル・プロップ/せりか書房
 昔話の基礎分類の参考に。私はプロップ寄りの学説を強く推しています。

[3] 「昔話の本質と解釈」/マックス・リューティ
 社会学的、心理学的に昔話を解析した本。リューティは伝説についての研究も豊富で参考になります。

[4] 「ファンタジーを読む」/河合隼雄
 心理的側面におけるファンタジーについて。ジュブナイルや幻想文学についての参考。

[5] 「ファンタジーメイキングガイド」/朱鷺田祐介/新紀元社
 ファンタジーの分類について。


もう一つ:

 「ファンタジー総論」で、私はファンタジーの分類はできないと書いてから半年以上が立ちました。その間、ずいぶんとファンタジーに関して勉強しまして、今も完全にできるという気はありませんが、ともあれ今回、この物語分類の中でファンタジーを一通り分類してみました。私は今後、この自分の立てたインデックスを活用し、様々な記事を書いていくつもりです。


Copyright- 鷹月ぐみな(gumina)たかつきCOMPANY 1997-2002.C.College Top