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∇ 脚注
※1:崖に向かって車を走らせ、途中でエンジンを止めます。あとは自然と止まるのを待ちます。もっとも崖っぷちで止まった車に載っていた人が勝ちとなります。無論、我慢しすぎると崖からまっ逆さまです。

※2:1レベル分強くなると、2ターンで戦闘が終わるようにバランス調整がされていたり。あるいはあらゆるアクションに対して効果音を実に上手く鳴らしていたり。ここにドラクエは相当気を使っています。


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クリエイターズボード(掲示板)

- Column: 戦術の基本はリスク・バランス

Update: 2000/5/11


駆け引きの基本

 対立する存在と戦う類のゲーム……これを戦闘系と呼ばせてもらいますが、この戦闘系のゲームを作ろうと思っている人で、プレイヤーを惹きつけるゲームシステムを組みたいと考えている人は、常に頭に入れておかなくてはいけない鉄則があります。それは、

「費やすリスクに応じたリターンが受けられる(要素a)」
「一方にとっての最良の選択とは、他方から受けるリスクと自分が費やすリスクを天秤にかけることで得られる(要素b)」

 この2つです。これは駆け引きのエッセンスであり、システムがこれを満たせば満たすほど、戦術性の高い、奥の深いものになり、評価されることになります。裏を返せば、この要素のない戦術系ゲームは見せかけだけの対したことのない作品になります。これだけだと分かりづらいので、以下例を交えながら説明していこうと思います。

スロットとRPG戦闘

 まず前者ですが、ルーレットとかスロットマシーンを考えると分かりやすいと思います。掛け金が多いほど配当が大きくなります。一度で還元せずに、ダブルアップすれば、累加式に比例していくことになります。しかし当然ですが、外した時点で、いくらお金をかけていようがゼロになってしまうわけです。びくびくしている人や、スロット台の様子を調べたい場合には、リターンは少ないけれども掛け金を最小にしておくことで、リスクを最小限に防ぐこともできます。
 競馬においては、強い馬はオッズが低く、弱い馬はオッズが高く設定されていて、確率的に見て勝てる率の低い馬を選び(ハイリスクを選ぶ)、もし勝ったなら膨大な金額をGETできます。チキンレース(※1)においてもこの構図は全く変わらず、もっともがけっぷちで止まった車(ハイリスク)が勝利を得ることができます。
 後者の例としては、同じ条件の相手と直接争う類のもの……たとえば麻雀などが該当します。どうしてもドラを切らなくちゃいけないけど、もしもこれで振り込まれたらどうなるか……もしくは、このハイを振られる確率はどれくらいか。即座にいろんな計算をして、総合的に良かれと思う選択をします。ブラックジャックや将棋なども同様です。なお、後者の要素を持つものは、同時に前者の要素も必ず持ちます。
 以上、賭け事系の遊びを中心に挙げてきました。それ以外のゲームを適当に連想し、この要素を持っているかどうか当てはめてみて下さい。該当するものの多くは、戦術・戦略的なゲームであるはずです。
 こういう視点から、戦闘系のコンピューターゲームを見ていきましょう。たとえばドラクエの戦闘部分はどうでしょうか。正直戦闘に入ってしまえばリスクなんてものは殆んど存在しません。単に一番強い攻撃方法で相手を攻撃していくだけです。上に示した要素がないために、戦術要素のない戦闘ゲームができあがっているのです。あえて適合させるとしたら、「水準のレベルより低いまま先へ進み敵と戦う。全滅する危険性(リスク)は高いが、倒したときのレベルアップ速度が早い(リターン)」という、戦闘の外周部に関する所くらいでしょうか。
 要素aやbの言葉を変えると「押しと引きのバランスを見極める」ということになります。押しを「攻撃」としたら、引きは恐らく「防御」にあたるでしょう。ところがドラクエで伝統的に存在する防御コマンドを常用した事はあるでしょうか?ドラクエ3の裏技とか、一部の弱いキャラを護らせる時ぐらいしか使われません。防御したってダメージは受けるわけで、自分にとって得になることがないのです。この「引き」に意味を持たせなければ、戦術的な戦闘は実現できないと思うのです(ゆえにドラクエの戦闘スタイルが悪いと言っているわけではありません。あのシステムは戦術ではなく、サクサク感(※2)やテンポ、力押しによる快感をプレイヤーに与える事を重視しているのです)

MTGの戦闘バランス

 この押しと引きのバランスが絶妙であると思うゲームを一つ挙げるなら、鷹月は即座にカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング(MTG)」を挙げます。お互いがクリーチャーと呼ばれるカードを出したりしながら、相手本体のライフを削ると言うものです。このゲームにおいて、自分の操作するキャラ(クリーチャー)は、無闇に力押しに攻撃させるとロクな結果が待っていません。自分のターンの次に相手のターンがあるわけですが、攻撃してしまったキャラは防御に参加できなくなります。現状において、どれだけのキャラを攻撃させるか、防御に回らせるかを常に計算する必要があるのです。
 何も、この押しと引きの要素は「攻撃/防御」に留まりません。各プレイヤーは1ターン毎に一定量の魔力が使えます。次の自分のターンの最初にそれらは回復するので、それまでに使い切ることになります。一度に多く消費すればそれだけ強い「呪文」が撃てますが、使い切ってしまった場合、相手の行動に対応する事ができなくなります。かといって、あまり警戒していると、相手も大した行動をしなかったり、警戒しても無駄という行動を取られ、温存しておいた魔力が「無駄」になるのです。
 デッキの構築もそうです。パワーの強力なカードと弱いカード、様々ありますが、パワーが強いカードは、ゲーム直後は魔力が足りず出せません。一方パワーの弱いカードはローコストで使うことができます。このバランスの中で、最もうまく働くように、戦闘をする前に調整するのです。

 ……別に、MTGのルールを教えるつもりはないので、ここらへんにしておきますが、MTGは戦闘のできるカードゲームだから面白かったのではなくて、駆け引きの要素をシステムが持っていたからこそ面白く、あれだけの大人気になったのです。ポケットモンスターはその点よく研究していたのか、運に頼る部分も強いとはいえ、しっかり駆け引きの要素を持っていました。

やっぱり分かっていないエニックス

 MTGやポケットモンスターの御利益に与ろうと、エニックスも昨年、「ドラゴンクエストモンスターズ」なるカードゲームを発売しました。基本ルールは非常に簡単なので、箇条書きで書いてみましょう。

  • 各カードにはグー・チョキ・パーが書いてあり、また、攻撃のダメージや特殊能力が書いてある。
  • プレイヤーは各自、シャッフルした自分の山札からカードを引き、1回ごとに一斉に手札のカードを出す。ジャンケンに買った相手に対して、カードに書かれている通りのダメージを与える。
  • 結果、全ての相手プレイヤーのライフを削ったプレイヤーが勝つ。

     以上のようなルールなのですが、ここに駆け引きの要素は存在せず、あるのは運と、あとはカードそれぞれの違いのみです。同じチョキのカードの中で、あるカードはダメージ20を与え、あるカードはダメージ40を与えます。カードを持っていれば「ペナルティがなく、より強い」後者を使うのは当たり前です。結果、金をかければ確率的に勝つ確率が上がると言うだけの、プレイヤーの技能を必要としないものができあがっています。運に頼るゲームもそれなりに楽しめますが、戦術性のあるものと比べてみると、後者の方がより多くのファンが付くものです。理由をありていに言えば、実力とか技術とか経験といったものが存在し、相手に対してその優位性を発揮することができるからです。
     さてこういう事まで考えていたのかどうか。その真相は問うところではありませんが、ここに気が付けばもう少し面白いゲームになるだろうにな、と思います。

     まとめましょう。戦闘そのものを楽しませるゲームを作りたいなら、要素a、要素bを常に意識しておくこと。「Simple is Best(簡単なものが良い)」とか、「Complex makes deep(複雑にすると奥深くなる)」という問題ではなかったことに気づく事でしょう。たぶん。

    - 鷹月ぐみな


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