Article: ゲームの基本6要素
     鷹月は現在、ゲーム体系論なるものの構想を始めています。あらゆる視点からゲームを捉え、分析していこうという試みで、完成までに1年くらいかかりそうです。その草稿からいくつかピックアップして紹介していこうと思います。

- ゲーム要素の分解作業から得られるもの
Article Written: 99/10/28




エッセンス・チャート
     ジャンルにこだわらず、面白いゲームを作ろうと考えたとき、どんなイメージを持つでしょうか。面白いゲーム? はて、と悩む人もいると思います。「面白ければ良い」というのは間違ってはいませんが、これは遊び手側の要望であって、作り手側には何の制作イメージも与えてはくれません。そこでゲームを面白くする、ゲームをゲームたらしめる要素は何なのだろうと考えて、それらを分類していきました。鷹月はだいたい12くらい挙げることができたのですが、それらは大まかに2種類のどちらかに属します。一方が「操作性」など、「要素のベクトルが高ければ高いほど」タイプで、もう片方が「必ずしもベクトルは高いほど望ましいわけではない。他の要素とのバランスなども重要になってくる」タイプです。
     このうち後者の要素について、これらをうまく意識することにより、エッセンスとしてのゲームの骨組みまでは楽に作れるのではないか、と鷹月は考えました。また、名作をこの要素に分解してみて、「どういうバランスのものが評価されているのか」などを調べたり、今までないタイプのベクトルを持つゲームに挑戦する……なども可能なのではないかと思います。そして、この後者の6要素……「即時性」「思考性」「自由性」「物語性」「娯楽性」「外面性」を、私は「ゲームの基本6要素」と命名しました(まんまやんけ)。

     ついでに都合良く六つだったため、レーダーチャートに当てはめてみました。絵が適当なのはこの手の図形を描くツールがなかったためです。許して〜(^^;)。今度Versatile Basicでも使って作画しておきますんで。ま、それはともかく、これは以後、「エッセンス・チャート」と呼ばせてもらうことにします。
     これの適応は最後に述べる事にして、ひとまずは基本6要素の紹介と解説をしておきます。



1、即時性
     リアルタイム性の事。手先のキー操作およびタイミングを要求するもので、これが下手もしくは慣れていないうちは先に進めなかったり、得点が低めになってしまったりします。上手くなり、障害もしくは問題を解決することで達成感、満足感といったものを得る事ができます。アクションゲーム、挌闘モノ、シューティングなどはこのエッセンス主導で構成されていると言って良いでしょう。気づいていないかも知れませんが、即時性のポイントは、「相手がプレイヤー自身」である所にあります。「くっそ〜、俺のへたっぴー」と言っている時点で自分自身との戦いであることに気がつきます。つまり、人間同士で遊んでいるときのような感覚を受ける事ができるというわけです。喩えて言うならスカッシュをやっている時のような。


2、思考性
     考えなくては先に進めない類の障害や問題(リドル)のあるものはこのベクトルを持ちます。即時性は要求されないものの、読み解けなければやはり先には進めません。とはいえパズル以外のジャンルにおいて、難しくて解けずにゲームを諦められてしまうものはマズいので、大抵は「ある程度考えたり、ヒントを求めているうちに分かるようになる。最悪しらみつぶしでどうにかなる」ようになっています。頭の中に電球が付いたような(古典的)閃きと、それが成功したときの喜び。ここにプレイヤーは充実感、満足感を得ます。パズルゲームはこれが主導で構成されているのは当たり前としても、SLGの戦術などもこのベクトルに入ります。即時性とは手順が違うだけで結果が同じ、表裏一体の関係にあります。


3、自由性
     誰がやってもまったく同じ結果になるゲームはゲームとは言えません。人によって結果や進行状態、プロセスが違うものにゲーム性を感じるわけです。たとえ一本道のRPGやAVGだろうとも、平地をうろうろ歩き回ってみたり、しつこく人に話しかけてみたりと言う能動的な行動ができれば、それは自由性があると言って良いのです。高すぎるとまた大変なことになりますが、一般的にはプレイヤーに開放感を与え、ゲーム世界に没入させられる効果を持ちます。パズルやSLGでもこれは重要です。自由度の全くない、即ち解法が全く固定されているゲームを誰がやる気になるでしょうか?
     もっとも、そういうゲームも存在してはいます。完全では有りませんが「なぞぷよ」が良い例でしょう。もちろん本ゲームのオマケ的要素だったからこそ成功したわけですが。


4、物語性
     ストーリー。また、この要素においては世界設定も含む。しばしばゲームシステムとストーリーがゲーム性において対照的な存在にあると言われるくらい、近年においては重要なエッセンスです。ゲーム世界に没入させるキーはやはりここにあります。パズルゲームやSTGと明らかに違うのが、「プレイヤーがゲームという存在を楽しむ」より一歩突っ込んで、「プレイヤーはゲーム中のキャラクターに感情移入し、彼らを操作したり、彼らの動きを追ったりして楽しむ」所です。物語の威力は計り知れないものがあります。ビジュアルノベル等はこれを主導として成立している作品です。とはいえ、これが高ければいいというものではありません。大抵においてこのベクトルを強める事により、その他の要素のベクトルは軒並み低くなってしまうからなのです。システム、自由性、物語性のいずれも高く保てる作品を作れば、それは間違い無く名作と呼ばれる事になるでしょう。
     当然物語性を強く込められるジャンルはRPG、AVG、SLGですが、イベントシーンを上手く使う事により、その他のどのジャンルにも入れる事は可能です。


5、娯楽性
     これは全体としての面白さという事ではなく、ある瞬間におけるプレイヤーを楽しませよう、という意図を指します。プレイヤーを強く惹きつける「演出」と言っても構いません。ギャグものは当然このベクトルが強いわけですが、シリアスものにはこのベクトルがないわけではありません。息抜き、緊張感をほぐすために娯楽性を入れているケースもありますし、またシリアスの中でも、プレイヤーが読んでいて痺れるような台詞など、作り手が意図的に狙っている部分もまた娯楽性の一つと言って良いでしょう。ナンセンスギャグものは当然ながらこのベクトルを目指して作る事になります。


6、外面性
     文字通り「みかけ」の部分です。グラフィック、効果音、画面効果、立体化……鷹月はこれをいわゆる「アンチ・エッセンスという要素」と見ています。「面白いゲームは外側をすべて剥いでもやはり面白い」と考える「シンプル・イズ・ベスト」的な評価には私は賛同していません。例えば「パラッパ」は構図が単純であるだけで、裏打ちされた計算のもとに成り立っています。それを支えるのがこの外面性に他なりません(娯楽性もありますが。パラッパに付いては後のチャートで触れます)。挌闘モノなど、技を出したときの画面演出効果や音声が無ければ誰が楽しんでくれるでしょうか。
     一般的にこの要素は、マシンのスペックや、メーカーのレベルに比例して、ある一定のレベル(これはゲームをゲームたらしめるに足りる外面性の度合いとは無関係です)が求められます。それ故に開発コストが高くなるというのが今のコンシューマの苦悩すべき所なんだろうなと思います。


チャートへの適応
     厳密ではありませんが、6つの要素を一通り紹介しました。これらが密接に関わり合って一つのゲームを成しているんだと言う事を認識してもらいたいと思います。
     さてここで、既存のゲームのいくつかを、エッセンスチャートに適応させてみたいと思います。

    パラッパ・ザ・ラッパー(ACT)

     まずは先程述べた「パラッパ」から行ってみましょう。左上に極端に偏ったゲームだということが読み取れます。これはタイミングアクションゲームの特徴とも言えますが。但しパラッパの場合、娯楽性をしっかり4ポイント稼いでいる部分は見落とせません。ステージの間に入るほのぼのアニメーションや、キャラクターの表情のめまぐるしい変化、見ていて飽きないんです。単にステージを超えて「やったー」だけではなく、先を見たいからこそプレイしたくなる面があるのです。

    英雄伝説3 白き魔女(RPG)

     続いて、個人的に気に入っている日本ファルコムのRPG「白き魔女」です。近年の物語主導系RPGは大体この形に近くなりますが、それにしてもRPGで満点の物語性(世界描写含む)を与えられるゲームはそんなに多くありません。なおこのゲーム、マップチップの描写にはかなりこだわっています。1枚絵はゲームの最初と最後にしか出てきません。「プレイヤーが見るもの感じるもの、触るものが世界観となるんだ」という考え方が強く反映されているものと思われます。

    ラングリッサー(SLG)

     ラングリッサーは色々ありますけど、PCエンジン版の「1」です。即時性、娯楽性が低く思考性が高い……これはじっくり遊べる「硬派」なゲームの特徴と言って良いでしょう(1はね)。このSLGは以後、足りないものを埋めて行くかのように続編が次々出ていきました。自由性を高めた「デア」、「娯楽性」「外面性」に重きを置いた「ラング3」など。

    海腹川背(ACT)

     鷹月の大好きなアクションゲーム「海腹川背」。同じアクションと言っても「パラッパ」とは傾向がだいぶ異なります。最初から最後まで気を抜けないわけではなく、のんびりやりながらも手先の巧みさがないとクリアはできないというマニア向けのゲームでした。このソフトに関して特筆すべきはパズルさながらの「思考性」の高さに加えて「自由性」まで持つことです。次はどの地点に行って、どこを経由すれば楽にクリアできるか……それを探していく事そのものが楽しみになっています。プレイしたことのない人は持ち主の元へ行ってみましょう。うそ臭いほど鮮やかな演技を見せてくれる事でしょう。

    ワイルドフォース(AVG)

     他の要素が乏しいものはつまらないという訳ではないと前に書きました。あくまでこのチャートは傾向を見るためのものだからです。「他の要素が乏しい」と言えばAVGがその典型的な例です。ただ、純粋に文字のみで推している作品はそう多くなく、大抵はグラフィック(や音楽)によるサポートがかなりあります。さてこの「ワイルドフォース」、鷹月は物語と世界観の完成度を共に高く評価しています。もっともこのチャートではどの辺が素晴らしいのかは見えては来ませんが……(^^;

    学園ソドム(AVG)

     AVGは皆ワイルドフォースタイプか、それにマルチエンディング(自由性)が加わった程度かと思いますが、そうでないものも存在するにはします。選択コマンドに時間制限を設けることにより、AVGらしからぬ緊迫感を与えているのがこの「学園ソドム」です。既存の枠を打ち破る良い発想だと思います。その結果がこのチャートにはしっかり変化として現れているわけですね。ちなみにエロゲーの娯楽性は軒並み高めになっています(^^;

    FF7(RPG)

     映画ゲーの代名詞(^^;)的存在のFF7のチャートも紹介しておきましょう。見た通りなんですが、辛うじて思考性のベクトルが残っている部分がFFシリーズらしいですね。なお、「FF7は自由度がない」と言ってますが、鷹月は割と「見せかけ的な自由度」にやられました。2度プレイするとバレるんですけどね。しかし面積的には物凄いですね、これ。賛否両論ありますが、97年のRPG代表作であったことはやっぱり間違い無いんですね。

    同級生2(パラメ系AVG)

     チャート上で見ようが見まいが「バランスが素晴らしい」と言えるゲームといえばこれ、「同級生2」です。各要素はその概念的距離の遠さからポジションを決めているわけで、このシンメトリー構造になったのは偶然でも意図的でもないわけです。やっぱり名作なんですね、これ。



さしあたっての結論として
     もう残り6つの要素の紹介もしていませんし、これだけではゲームの体系分類は不充分だと思います。また、「バランスが良ければいいんだ」と思っていても、いざ作ると全然そうもいかない事だらけだと思います。これは一つの材料にしか過ぎないのです。
     とはいえ、チャートへの適応を繰り返して鷹月自身、各ジャンルの型というものを感覚的に把握できたかな、と思っています。また、そのジャンルの鋳型から抜け出すために必要なベクトルは何なのか、色々なタイプのゲームを作っていきたいと考える人には有用なのではと確信しています。興味を持たれたなら、各人が自分のプレイしたゲームをこのチャートに分解していき、並べてみてください。鷹月にも見えなかった何かが見える可能性は充分にあるのです。


 これを読んでいて、「私なら違う要素の分け方をするよ」と考える方もいるかと思います。いいと思います。私は単に感性と独断にて分類しただけであり、特別な論拠があるわけではないのです。でも、この記事に示したようにゲームを要素に分解し、再整理をしていくことに何らか得られるものがあると私は考えたので、紹介させていただきました。
 残りの「ゲームの技術6要素」は、また機会のある時に紹介しようと思います。

- 鷹月ぐみな



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Written by. gumina(鷹月 ぐみな)