Column: 個人がゲーム製作で食べていけるか
     ゲームをプレイしたい人はたくさんいますし、面白いゲームならそれに見合ったお金を出してもいいと思う人も沢山います(コピーで済むものはコピーにしよう、という人間もいるようですが……)。さて、ここでは会社に入らず、また興しもせず、2人以内でフリークリエイターとしてゲームを制作販売していけるかどうか、考察をしています。

Article Written: 99/3/5




 インターネットの登場で、時代は変わりました。ホームページというものの存在が、個人が無料で宣伝するのを可能にしました。パソ通時代では一部にしか広がらなかったシェアウェアといったものも一般化し、会社に入らなくても、技術を活かして個人で食っていける道が、少しずつ開かれてきたのです。「会社に入らない、というのは落伍者のする事だ」というのは日本の感覚で、欧米では各個人がそれぞれ個人企業として、お金を儲けられる手法があれば立派に認められていますし、そういう暮らしをしている者も多々いるのです。

 日本のゲーム業界においてはこういう暮らしはまだ全くと言っていいほど確立されていません。たとえば雑誌への投稿で食べていこうと考えても、全精力を傾けて完成した作品が落選してはシャレになりませんし、3万や4万をもらった程度では、片手間の趣味だったらいいでしょうけど、本業としてはこれではやっていけません。賞金100万といったコンテストはそれこそ宝くじを当てるようなもので、期待はすれどそれで生活することなどはできません。
 結局のところ、自分たちで制作・宣伝・販売をするしかないのです。宣伝場所であり配布場所は、ホームページ、ベクター等シェアウェア公開ページ、そして同人ソフト販売会場(コミッケット等)と充分にあります。以下、これらの舞台を使い、ソフトを制作し売りさばき、生活する事を考えていきます。

 先に前提を一つ言っておきます。中心的な作業にかかわる人数は二人以内です。趣味なら何人で制作しようと構いませんが、サラリーマン並みの月給25万を稼ごうと思ったら、これが限界となります。「1人いれば仕事量は1、3人いれば仕事量は3になるから、人は多くいても大丈夫なのでは?」というのは単純理論で、実際には人が多くなるほど一人当たりの平均仕事量は減っていきます(詳しく話すと、全体の工期において、人が多くいた方がいい時と少なくてもいい時というのがあり、望ましい投入の度合いは曲線で示されています。この辺はソフトウェア開発・設計論の本に載っています)。
 この二人以内で、「プログラム」「シナリオ」「デバッグ」「宣伝・渉外・予算管理」「原案・レイアウト設計」「音楽」「原画」「CGワーク」のほとんどをこなす必要があります。もっともプログラムは一回システムが出来上がってしまえば、次回以降は再利用したりと色々楽になります。また、音楽は例えばフリーサウンドを使ったり、知り合いのバンドの友人に作ってもらったりと、内部にいなくても何とかなる場合が多いです(最近はWAVEやCD−DAというアナログスタイルのままゲームに用いる事ができますから)。助っ人さんに色々頼む事も良いのですが、それで食っていく以上、彼らにも相応の賃金を払う必要があることを認識しておいてください。
 無論、一人で全部できるなら、時間はかかるでしょうが一番儲かるのでお勧めします。全作業をこなせる人間を鷹月は「マルチメディアクリエイター」と呼んでいます。これで食っていくかどうかはともかく、鷹月はそれを目指している人間の一人です。
 きついようですが、上述の作業をこなすのに3人以上の人材がいるのだったら、食っていくのはさっぱり諦めましょう。また、能力は中途半端でも、伸ばす事は充分に可能です。
 あと、細かく言っておきますと、二人でやる場合でも、一人がたった一つか二つの作業しかできない、というのでは駄目です。シナリオをあげたらCGワーク、もしも暇ができたら次のソフトの企画、と、働く時間はみっちり働く必要があります。「おれCG系は駄目だから、頼むよ〜」というのでは小人数で食っていく事はできません。極論ですが、やれば結構なんでもできるものです。

 さて、先程「月給25万」と書きました。これが得られるにはどれくらい仕事をして、いくらで、何本売るか、といった試算に入ります。
 中規模のゲームソフトを作ると考えた場合、値段はせいぜい高くて1000円が限度でしょう。これ以上では相当質・ボリュームともに高くないと買ってくれません。ユーザは当然「市販ソフト」と比べますし、いくら頑張ってみたところで、完成度・ボリュームともに市販にはなかなか敵わないものです。斬新性だけでは何ともできないのです。
 例外的に、よほど上手い原画・CG描きが居た場合は1500円を付けても売れます。逆に、へぼへぼ描きさんしかいなかった場合は、もう少し値段を下げる必要があるでしょう。
 内容も当然重要ですが、見栄えは売り上げにとって致命的な差ももたらすものです。

 さて、1000円とおいた場合、先の給料分を得るには一人で作るなら月に250本、二人なら500本の売り上げが必要になります。もちろんこれは単純計算で、実際には制作費をはじめとする出費がかなりかかるので、この4割増ぐらい売れる事が望ましいです。そしてこれは「月に」でして、1作つくれば黙っていても毎月売れていくなんてことはありませんので、どんどん作品をリリースしつづける必要があります。
 ここで仕事時間を計算してみます。普通の会社員に倣って、一日9時間、週休2日、残業月15時間(これは適当に)と置いてみますと、1ヶ月で約200時間となります。鷹月の経験上、ちゃんと形になる同人ソフト1作は(人数×時間数)で「最低でも」300はないと無理とみてます。ちなみにこの中に宣伝などの対外的活動・音楽制作にかかる時間は含まれていません。この最低でソフトを販売する事を考えてみると、一人で作る場合は3ヶ月に2本、二人で作る場合は1ヶ月に1本ペースという数値が出てきます。このペースでソフトを作りつづけ、先に示しただけの本数が売れるかどうか……という結論に達しました。

一人で作るなら……:1.5月に1本のペースでソフトを制作、1作出るたびに400本売りさばく

二人で作るなら……:1月に1本のペースでソフトを制作、1作出るたびに500本売りさばく

 これを満たす事ができれば、月給25万という、普通の会社員と同じ給料を手にすることができるわけです。また、この半分しか売れなかった場合でも月給12万ということで、バイト漬けフリーターと同程度になります。

 この計画は、結局のところいつぞやのディスクステーションのように、「固定ファン層」を得られるかどうかにかかってきます。面白い作品だったら、「1000円だったら出しますよ」と、毎月を楽しみにしてくれることでしょう。ホームページを活かし、ユーザーに密接に触れ合うこともできます。また、ユーザからのシナリオなども募集し、それを形にするというのも一つの手ですし、1作のボリューム・質に不安があるようだったら、それこそディスクステーションのようなバラエティマガジンにするという手段もあります。
 最初からこれだけの売り上げを得る事はできないでしょうが、支持されれば次第に口コミで広がっていきます。


 さて、あなたはこういう生活に身を投じてみたいと思いますか?
 ちなみに、鷹月は……いまのところノーコメントにしておきます。相談したい事などがありましたら気軽にメールをお願いします。鷹月はこういう活動をしようとする方がいたらバックアップしていこうと思いますので。また、応援してあげたいという方はいましたら、ぜひメール送ってくださいね。
 いちおう注意ですが、この記事を読んで奮い立って会社を辞め、こういった生活を始めて失敗したとしても、鷹月は一切責任は負いませんのでご了承ください(笑)。結局のところ、各人の才能と努力と、横のネットワークにかかっています。そして、今から数年はチャンスの時であるという事も付け加えさせていただきます。

- 鷹月ぐみな


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