Column: 面白いゲームの形

 ゲームを作るからには面白いゲームを目指すわけですが、さて、この「面白い」とは何をもってそう感じるのでしょうか。遊び手の視点の裏を覗いて考察をしてみました。この手の記事は「何もそんな事を考えなくても、できあがったゲームが面白ければいいわけでしょ」と思われてしまうかもしれませんが、それは遊び手側の考えであって、作り手側はやはりこういった問題についてもしっかり掴んでおくべきだと思うのです。

Article Written: 99/4/12




 何をもってゲームを面白いと感じるか、その要素は何か。これについてはゲーム系の雑誌などでも時々語られていますね。自分の考えを交えて、主に次の5つの定義を紹介します。
    1) システムの底を見抜けないうちが面白いゲームと感じる
    2) 自由性。プレイヤー独自のステータスを持つものが面白い
    3) 成長感、達成感。はじめは難しかったものが経験により楽になっていく。
    4) ストーリーでドキドキワクワクさせてくれるもの。明るい気分にさせてくれるもの。
    5) 攻略本を作れるようなゲームが面白い

 これで全部とは言えないでしょうけれど、エッセンスを突き詰めて行った場合の要素の大部分はカバーしていると考えます。つまり、これら5つの定義に合うようにゲームを作っていけば、面白いと評価される……はずです。では以下より、5つの定義それぞれに対する詳しい説明、補足をしていきます。



1) システムの底を見抜けないうちが面白いゲームと感じる
     ゲームを始めた時は、システムの奥の深さに魅力を感じるものですが、しばらくプレイしていると、感覚的にシステムを理解してしまい、楽に進める方法を見つけたり、もしくは先のパターンが読めたりして、自分の気を引くものがなくなってしまったりします。これを「底が読める(見える)」と呼びます。こうなると、以降は惰性でプレイされることになります。途中で止めてしまう人もいるでしょう。こういった現象は、えてしてどんなゲームにも起こりうるわけですが(例外として、対戦モノはシステムの他に相手と言う人間が介在するため、底がずっと見えない場合があります。格闘モノが依然としてシェアを持つのはこの理由に拠ります)、できる限りこの時間を長引かせようと勤めるのが作り手の役目です。世界に何か変化を起こしたり、グラフィックで演出したり、FFシリーズに良く見られるような、ちょっと特殊な戦闘シーンを入れてみたり。システムで攻めるのだとしたら、進むにつれて、行動の幅が広がるようなものがいいでしょう。これを個人的には「システムの上書き」と呼んでいます。対して、一貫して同じシステムで攻めるには相当の完成度が必要です。ロードランナーとか海腹川背が成功の例ですね。


2) 自由性。プレイヤー独自のステータスを持つものが面白い
     ゲームをプレイしているという実感は、基本的に「今、自分がこのキャラを操作している」という事からもたらされます。逆に、ゲームクリアまでの全ての手順が一意に定められている、ユーザはただそれを追っているだけというものにはゲーム性がなく、面白みに欠けるところ大です。確かにパズルやRPG、AVGは「ほぼ」決められた順路を辿っていくのですが、その中でも自由性を出す事は可能です。他の人が見つけられなかった意外な方法でクリアしたり、ユニークなアイテムを手に入れたり。ランダムや「隠れ」要素によって、これを高める事ができます。
     一本道のAVGはこの演出は無理だろうと思われがちですが、そうでもありません。総当り的なシステムをやめ、選択によって多少の反応を変えるようにしてあげるだけで、大分印象は変わってくるものです。別に2、3回やって「あ、やっぱり一本道だったんだ」と思われるのは構いません。一番重要なのは、1回目の通しプレイで自由性を感じさせることなのです。
     恋愛系のゲームが評価されたのは、まさにこの擬似的な自由度、および独自ステータスを持っていたからだと考えています。


3) 成長感、達成感。はじめは難しかったものが経験により楽になっていく
     ゲーム性の基本はこれです。社会でも、何らかの障害にぶつかり、それを努力で乗り越えていくわけですが、これと同じプロセスを持ちます。難しいシューティングやアクションゲーム等、何度もプレイしたくなるのは決して意地や金を払ったからという理由だけでなく、プレイするたびに少しずつコツを覚え、「次はいけるんじゃないか」という期待を持つからなのです。そして再度挑戦していきます。途中で苦労したものがある時ぱっ、と解放されると、その過程すべてが過去のものになると共に、楽しみとして残るのです。
     これは基本的には瞬間瞬間の手さばきを要求するタイプのゲームに該当しますが、プロセスそのものはRPGの場合でも同一です。リアルタイムな操作を必要としないかわり、かけた時間が文字通りの「経験値」として反映され、障害、試練を乗り越えていくからです。そしてACTではプレイヤーの成長感、一方のRPGでは主人公キャラに対しての成長感を実感する事ができるのです。


4) ストーリーでドキドキワクワクさせてくれるもの。明るい気分にさせてくれる
     システムは大抵は途中で底を見ぬかれたりして、何らかの楽な攻略法を見つけたり、もしくはある不快な操作を取り消せない事が分かったりすると飽きられてしまいます。こうなると、あとはストーリーやキャラクターの出番です。謎をプレイヤーに提示したり、キャラに感情移入させたりと内部から惹きつけようと試みます。成功すれば、ゲーム性はどうあれ(もちろんシステムが優れていた方が良いことは言うまでもなく)、プレイヤーは惰性でなく、自身の意志によって続きを見ようとします。ドラマチックな展開を、緩急をつけて与えてあげれば、もう言うことはありません。但し、終わりがしぼんではいけません。謎や伏線を残したままにしたり、EDを手抜きしたりすれば、速やかに、今まで面白いと思ってくれたプレイヤーたちも満足度40%減になります。プレイヤーというのはゲームにおいて、劇を見に来たお客さんです。最後までもてなしてあげるのは当然の義務というべきでしょう。
     ストーリーに作品性、メッセージ性を導入し、鷹月が主張するところの「プレイした人が社会生活の上で何らかのプラスになるようなもの」を与えてあげれば、単に面白い、という以上の満足をしてもらえます。もっとも、あからさまに教唆的なもの、意図を感じさせるものは逆に退いてしまう原因にもなりかねないので注意が必要です。また、必ずしも作品性を入れた作品が望ましいゲームとも一概には言えません。ストレス解消、余暇潰しなどなど、娯楽のためのものもあって然るべきでしょう。この場合の目的は、とにかくプレイヤーを明るい気分にさせることです。ナンセンス系も含め、センスを働かせて、「あはは」と笑ってくれるもの、おもわず幸せな気分に浸れるもの……こういったものを作りましょう。悲しいシーンも暗いシーンも良し、だけど最後はポジティブな、光の当たった終わり方。クリエイターの皆さんは、ぜひ目的と手段をはっきりさせておいてください。


5) 攻略本を作れるようなゲームが面白い
     正しくは、「あるアイデアをまとめてゲーム化したとして、それに攻略本ができたと仮定したとき、ゲームの面白さはそのページ数に比例する」という定義です。人気ゲームの攻略本は分厚い、という実態から発想したものです。これを元に、作り手は攻略本の誌面を想定しつつ、ゲームを組みたてていけば、面白いゲームになる……考えが独特でしょう(^^;)。もちろん、「だったらとにかくパラメータや分岐が大量にあるものが面白いのか?」というと決してそうではありません。この定義の前提として、作り手の能力の限界を超えるようなアイデアはゲーム化できないとして切り捨てる必要があります。あくまで制作することが充分可能であると思える範囲内で想定してください。


 派手派手しい画面効果、アニメーションやポリゴン、主題歌などはエッセンスから見れば外面に属し、売上には影響するでしょうけれど、見る人から見れば、あくまで飾りつけ程度の魅力しか感じません。これらを面白いと感じたり、ぶっちゃけたところ、これだけで満足してしまう人達もいますが(ポリゴンの感覚はゲーム性にも繋がるので良いとは思いますが)、鷹月にはアイスのモナカだけを食べているような気がして、満足からは程遠いです。ゲームはアニメじゃないんだぞ、って(^^;
 それと、一つだけ。作り手は、常にシンプルイズベストは面白いと考えることはやめた方が良いと思います。ライターさんの中には「パラッパ」や「ビートマニア」がシンプルに立ち戻った作品だなんて書いてましたが、あれはエッセンス等、ゲーム性を与える仕組みが基本に忠実なだけで、ゲーム自体はシンプルとは思えません。プレイヤーをほのぼのさせてくれたり、思わずにやりと笑える挿入ストーリー(おまけに英語仕立て)、研究された押下タイミング処理、巧妙なレイアウト配置に配色、単純に作れるものじゃないです。そういった苦労を取っ払ってみれば、面白さは半減していることでしょう。あれらの作品は全てが一体になってはじめて面白いと感じるようになっているのです。
 ここで鷹月が言いたいのは、面白い作品を作るためには、アイデアはともかく、それをうまく調理し、常にプレイヤーの視点、および操作を意識した作りにしなければいけないということです。
 加えて、市販の作品の下位互換的な地位に満足しないことも重要です。アマチュアクリエイターさんはその束縛の無さをフルに利用して、やるからには市販以上の何かを持たせてください。たとえば市販のRPGの呪文数が40だったら、10や20実装した程度で満足せず、50だろうと100だろうと、製作者の能力のある限りは作ってみましょう。鷹月が同人ソフトに足りないと思っているのはまさにその点においてです。意図的に書き忘れましたが、プレイヤーがゲームを面白いと感じるもう三つの定義は、「今までになかったような斬新性、もしくは新鮮味を感じさせてくれるもの」であり、「ともかくも作り手の熱意を感じられるもの」です。それと、「以上を踏まえた上で、可能な限り外面を整える事。ユーザーインターフェースを意識する事。ゲームバランスをしっかり調整する事」、これで全てだと思います。

- 鷹月 ぐみな



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Written by. gumina(鷹月 ぐみな)