Article:パラメ系恋愛AVGの構図

 鷹月は分類のために、時間とパラメータが展開に影響を及ぼすゲームのことを「パラメータ型AVG」と呼んでいますが(シミュレーションという呼び名は不適当)、ここでは恋愛要素を加えた、「ときメモ」と「同級生」を筆頭とする「パラメ系恋愛AVG」のデザインについて考察、紹介しています。なお、最終目標が「基本的に恋愛関係にならない」ものは「育成ゲーム」として、別のカテゴリになります。

Article Written: 99/3/7




1、舞台設定の理由
     パラメ恋愛AVGは一般的に舞台が学校、とりわけ高校になっています。これには次のような理由があるからだと推測しています。

    A、中学までの恋愛は子供だましに過ぎないという認識がある

     ただ、鷹月の認識としては、高校での恋愛も子供の付き合い(これは性的な関係がどうこうの問題ではなく、付き合い方が)であると考えています。実際、衝動的恋愛で付き合った人たちのその後をリサーチした資料によりますと、大学で新しい彼女を見つけてあっさりと分かれていたりしています。ようは「浅い恋愛」なわけですが、この手のゲームが好きな人はいまだ多いようです。
     鷹月としては、「今後も永遠にこの愛って続いていきそうだよなぁ」と思わせてくれるストーリーを作って欲しいんです。「トゥハート/リーフ」のあかりシナリオはその点で完璧と言える反面、マルチシナリオはまったく逆の評価になっていました。
    B、大学などに比べるとイベント数が豊富
     大学は各クラスごとの教室がない、というのが結構ネックになります。週6回ないし5回、確実に学校で会えるうえ、文化祭・受験などのイベントも多く、ストーリー上のアクセントになりやすいです。アクセントといえば「She'sn」がこの観点を狙った恋愛AVGでしたね。
    C、疑似体験よりも追体験傾向
     まだ体験していない大学の物語よりは、現在もしくは過去に体験した高校の物語の方が実感が出る、という部分があります。それが多くのユーザ層の取り込みに繋がると考えて良いでしょう。くわえて、「昔に、こんな過去があったら幸せだったなぁ」と、自分とゲームの世界とをオーバーラップさせて感傷(センチ)に浸りたがるようです。別に批判的な目で見ているわけでなく、過ぎ去った過去(青春)を懐かしむ行為としては自然だと思います。ただ、鷹月は「トゥハート」以上に追体験の得られそうな恋愛AVGはしばらくお目にかかれないのではないか、と考えているんですが。
    D、性的関係の規制(於:18禁系)
     ロリ系ユーザのためにメーカー側も作りたがっているようなのですが、現実問題として、15歳未満の女性と成功すると淫行条例にて処罰されます。これを助長するような主張をしたメディアも厳しく弾劾されるためか、ソフトウェア倫理機構(ソフ倫)ではこれに沿って、「15歳未満の女性のHシーンを認めない」としています。裸程度であれば問題はないようですが。
     15以上といえば高校というわけで、必然的に中学以下を舞台にした18禁恋愛AVGは作れない、というわけです。もっとも、18禁系では明らかにそれ以下としか見えないキャラを「15以上ですぅ」と数値的に主張するだけでオーケーになるというのは何とも……。

    「……って、嬢ちゃん何歳だ?」
    「言ったら、ソフ倫にひっかかって、このソフトが販売禁止になりますー」

    〜「リィナ☆クリスタル/コロッサス」より〜

     逆手にギャグにしてしまうようなゲームもあったりします(笑)
     しかし、ある程度は規制されているといっていいでしょう。まぁ、飽き足らない人たちが即売会でロリィやエロアニパロ(アニメのヒロインは基本的に小学〜中学であるため)な本を買ったりしているわけですが……。


2、特殊な恋愛パラメAVG
     「やっぱり高校ばっかじゃマンネリだ!」ということで、違った舞台を採用しているものもあります。以下がその一例です。

    A、Pia☆キャロットへようこそ!/カクテルソフト

     ファミリーレストランを舞台にして、そこで働く女性と恋愛を育んでいくもの。当時にしては変化球で良かった気もしますが(当日買ってプレイしてましたし)、システムが単純なのと、実際一人がいくつものパートを持ち回って働くことはないんだぞ〜というツッコミとがあいまって、通常評価となってしまいました。
    B、ホワイトアルバム/リーフ
     大学生をメインに据え、芸能界系を恋愛に組み入れてしまった挑戦作ではあります。リーフのキャパシティーの高さは反映されていまして、大学の雰囲気・芸能系の研究は他のソフトに比べてしっかりしていましたが、主人公の生活が不自然なまでに自堕落であることと、ゲームがかなり冗長になってしまうことから、トゥハートに比べると評価は数段落ちてしまったようです。
     あ、歌はいいねぇ(謎)
    C、猟奇の檻2/日本プランテック
     ファンタージェンという、ディズニーランドライクなテーマパークを舞台とした、殺人事件モノAVGであると同時に見事なパラメ恋愛でもありました。キャラの書き込みはいまいちだった気もしますが、バッドエンドへの誘導、システムの消化などにくわえ、舞台をたまにフェンタージェン外にも移行させたことから、全体の世界を窮屈でないものにしたりと、デザイナーの能力の高さが目立ちました。個人的には遊び応えで同級生2を抜いてトップに立っています。
     もっとも、縦のストーリーは1本道なんで、系はだいぶ違いますが……。
    D、エターナルメロディー/シグナルライト
    E、ハーレムブレイド/戯画>
    F、ブルーブレイカー/NEC

     この3作は、ファンタジーRPGの中にパラメ恋愛をミックスしたものです。結局はRPGのストーリーに引きずられる形で、思うように成功はしていない、という気はしたのですが、斬新であったのは確かですし、エタメロは「狙い」が見事に当たったのも確かです。ブルーブレイカーはゲームシステムがネックになりました(^^;


3、評価された理由/氾濫した理由
     これら恋愛AVGが評価され、氾濫していったのにはいくつかの理由がありました。その中でも最もウェイトが高かったのが「並列ストーリー(人によってはこれをマルチストーリーと呼ぶ場合があります)」の導入です。一本道モノに比べるとゲームの行動幅が格段に増し、「マルチエンディング」と繋げることによって「攻略」というゲーム性が見事に発生する事になります。
     そして、一度システムを解析/構築してみるとよく分かるのですが、パラメ型恋愛AVGは制作が意外に楽なのです。シナリオライターはただ、各キャラごとの縦列ストーリーを作り、それを細分化してちりばめるだけでいいわけです。
     例えば8人のキャラのストーリーを作った場合で、作り手の労力を8とします。プレイする側は常に縦列のストーリーを選択し辿ることはありませんから、毎回のプレイで同じイベント・シナリオがいくつも発生します。そして8人のキャラを攻略するころには、20以上の労力(ボリューム)を味わうわけです。これを鷹月は「見せかけのボリューム化」と呼んでいます。

     また、パラメータを持った並列ストーリーは、プレイヤーによってその経過、状態が変わります。これが「自分だけのゲームを味わいたい(ゲームスタンス:項8参照のこと)」と考える人たちに評価される事になったようです。これは、アクションやパズル全盛期からRPGブームが巻き起こった時も、同様の評価があったのだと考えています。

     そして次の点は、「キャラゲー」であるという所です。
     基本的には男性の理想像的な女性を数多く登場させて、「いいなぁ」「可愛いなー」とプレイヤーを引き付けます。これに成功さえすれば、ひどい話ゲームのテーマやストーリーまでもが適当であっても、そのキャラとのストーリーを最後まで見たい、という意欲が発生するわけです。もちろん現実には、ストーリーがしっかりしていないと受け入れられないのですが。
     昨今はユーザの中に、ゲームって実際には何の得にもなってないんだよな、時間潰しのためぐらいなんだよな……とか、と一度なりとも考えた方もいまして、そんなユーザを再び取り込んでいったのではないか、と考えていたりします。

     最後に、女性キャラが沢山出てくることに関しての「有名声優」「有名原画」の起用……これはもう、しょうがありませんね。鷹月は某声優のファンではありますが、声優をダシにするようなゲームは大嫌いですし、買う気も起きないのです。



4、イベント発生テーブル
     パラメ型恋愛AVGの多くのイベント発生(女性とのエンカウント)に関しては、基本的には大体同じシステムを用いています。まぁときメモや、同級生システムを鋳型にしているワケですから当然なのでしょうが。それらをちょっと説明してみようと思います。
    まずは次の表を見てください。

    時間帯地点1地点2地点3地点4地点5地点6地点7
    09−10A子C子B子G子
    11−12B子*F子
    13−14D子
    15−16B子F子C子A子
    17−18D子*
    19−20A子

     ゲーム内部では、このようなタイムテーブルを持っていまして、縦軸で示された時間に置いて、どの地点に行くと誰が登場するかが緻密に設定されています。「↑」は一つ上のコマと時間連続であることを示しています。
     例えば、11時30分に地点4にいた場合にはF子と出会うようになっています。そして好感度を1上げるなりのパラメータ増減を起こした後で別れます。一度会ってしまった場合は、「↑」も含めた同時間軸には登場しなくなります。
     さて、15時に地点2に行きますと、F子と再び出会えます。ここでイベントは縦列的に処理され、先の続きの会話が展開されます。先にF子と会っていなかった場合、イベントも一つスライドされるようになります。分かりやすく言いますと、各キャラごとに会話データが1〜30くらいありまして、会う度にカウンタを1つ増やして処理していくと考えてください。これを単純に考えますと、「たくさん会うこと」が重要になります。
     もちろんプレイヤーは普通、攻略チャートを作成してはいないわけですから、時間軸との競合が色々発生しまして、攻略していく女性を次第に絞るようになっていきます。
     なお、「*」の付いたイベントは、この時間帯にしか発生しない特殊イベントで、これらを逃すことにより、以後のいくつかの通常イベントが発生しなくなったり、パラメータを大幅に上げるチャンスを損したり、致命的なときにはそこでエンディングへの道が閉ざされてしまうこともあります。

     このテーブルは見ているぶんには「なるほどー」と思いますが、実際製作者サイドに回ってみますと、バランスを取るのがとにかく難しくなってきます。あまり地点を増やした反面、イベント発生率が低い場合(「−」が多い)は、ルーチンワーク的にウロウロしなければいけなくなりますし、重要イベントを取りこぼす可能性も強くなり、イベント発生率を上げるとゲームの難易度が極端に下がったりします。このバランスが極めて優れていたのが「同級生シリーズ/エルフ」で、見事に失敗した例が「卒業写真/ジャニス」「追憶/BELL−DA」などです。



5、テーブルの拡張
     先の例はあくまでも基本パターンでして、巷に溢れている恋愛AVGでは色々と拡張して使用しています。そのいくつかを紹介していきます。

    A、期限付き誘発イベント

     ある日において女の子と出会うまでは良いのですが、それから一定時間内(もしくは規定の時間の後)にある場所に行くと特別なイベントが発生するようになっているもの。最初のイベント自体はいつでも発生するのですが、誘発したイベントを見逃すと(デートをすっぽかす!、等)、エンディングへ辿り着けない例がしばしあります。
    B、日程枠の追加
     先のテーブルは、長くても期間が2ヶ月程度の例で、それ以上となるとそのシステムではフラグ管理で死ぬ事になります。その場合、あのテーブルの中にさらに「日程」という次元を追加し処理していきます。2コマだけ取り上げると次のようになります。

    時間地点S地点V
    12−13 5/12〜5/14:F子イベント14
    5/17〜5/18:G子イベント13
    (発生条件:フラグG4,5)
    5/11〜5/13:A子イベント7
    (発生条件:フラグA15)

     この手法では、重要なイベントがある一コマしか起きないのではなく、数日のうちこの時間に1回でも見ればいい、という事ができます。同一時間帯に重要なイベントがいくつも発生していて、プレイヤーはそれらを取捨選択していくという考え方自体はそのままです。
     期間が6ヶ月あるパラメ型恋愛AVG「追憶」で用いられていた方法がこれでした。着想は良かったのですが、ユーザの視点に立った作りになっておらず、「前のイベントをこなさないと次のイベントが見れない」パターンが多く、普通にプレイすると、イベントの密度があまりに薄いので誰もいないと判断した時点で時間をすすめてしまい、重要なイベントを逃し、以後のイベントが何も発生しなくなる……という現象を引き起こしていました。
    C、ランダムエンカウント
     薄いイベント密度を補佐する目的や、世界観のフレーバ作りとして用いられる手法です。コマ上「−」となっている部分において、任意のキャラを登場させ、一言だけ会話させるというものです。パラメータ変化がなく、時間だけが過ぎるといういわゆる「ハズレ」イベントでもあります。

    「これから学校?」
    「ええ」

     そして内容も当たり障りのないものにしておくことが多いです。こうすることによって、何度も同じイベントを使いまわすことが可能になるわけです。

    D、パラメ−タで出現キャラの変更
     あるコマにおいて、パラメータ次第で出てくるキャラが変わってくる……というものです。完全攻略をする人にとっては面倒の種になることが多いようですが、この種には通例、致命的なイベントは発生しません。
    E,パラメータ変動に関わる選択
     イベント内において、女性がなんらかの質問をしてきます。プレイヤーにそれに対する3つほどの選択肢を出して選ばせ、それによってパラメータをいろいろ増減する、というものです。ここであからさまに「ハズレ」な反応が返ってくるとロードとしてしまうのですが、どれを選んでも曖昧な反応を返すように固めておくと、その心配がなく(プレイヤーは毎回ヒヤリとするわけですが)、ゲームが同一時間軸のままで進んでいく事になります(リアルプレイとしては望ましい)。
     ちなみにセーブに関しては、次の4つに分類することができます。
     一つが「いつでもセーブ可能」タイプです。選択の最中であろうとセーブでき、反応を見てロードすることがしばしあります。
     続いて、「移動時セーブ可能」タイプです。会話中や選択時はセーブできません。
     3つ目は、「自宅セーブ/ロード」タイプです。それ以外の場所ではタイトルを除いてはシステム命令は使えません。
     最後が「一日終了時セーブ/ロード」タイプです。PIa☆キャロットではこれを採用していました。途中が長ければ長いほど、やり直しもしたくなくなりますが、ある種セーブ/ロードの利点は失われることにもなります。


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Written by. gumina(鷹月 ぐみな)