Article:ファンタジーSLGのTips
     ファイアーエムブレム・シャイニングフォース・ラングリッサー・タクティクスオウガ・ファーランドストーリー・麗獣・エンゲージエランズなど、ファンタジー世界を舞台にしたマス・シミュレーションがこれに該当します。以下、製作にあたって必要なチップスを取り上げていきます。

Article Written: 98/5/21




1、マス配置の種類
     ファンタジーSLGにおいて移動する部分を主に「マス」と呼びます。これを焦点にしてみると、次の4つに分類ができます。

    A、4方向マス:タイプ1
     シャイニングフォース外伝などがこの例。正方形のマップチップによって、ドラクエRPG的に配置されたマップを舞台とするもので、移動マスが1チップの間隔で行なわれる場合(分かりやすく言うと、1キャラ移動)、隣接マスは4つとなります。システムとしては単純にすむ反面、陣形というものが作りにくく、戦術指向どころかパワープレイ系になることが多いです。

    B、4方向マス:タイプ2
     見かけ上は先のタイプ1と同じなんですが、移動マスが半キャラずつ行なえると、全然趣向が変わってきます。手で試して見ると分かるのですが、実に12ヶ所もの隣接マスができることになります(同時接敵数は6つですが)。ゲームとしては幅が出ますが、現在地形や障害物判定など、相当面倒くさい作業が必要になります。タクティクスオウガは、これを斜めから見た視点で処理し、なおかつ高さの概念をも導入しています。

    C、ヘクスマップ
     大戦略や信長の野望でお馴染み、六角隣接マップです。先のタイプ2に比べると移動判定は遥かに楽に行なえ、またある程度の戦術性を持たせることが可能になります。ただし、マップだけを見ると、いかにもパーツで組み上げられたような、見栄えの悪いものになっています。
     なお、ヘクスマップには、大戦略のように本当に6角形のチップをマスとしたものと、長方形チップを1段毎に交互に(レンガ状に)しきつめたものと2種類あり、ゲーム性としては同じですが、若干Y座標の扱いが違っています(6角形マップを30度回転させれば同等になるという話もありますが……)。

    D、フリーマップ(アンチ・マスマップ)
     いちおう挙げておきますが、ファンタジーSLGではほとんど例がありません。キャラをドット単位で移動させることができるもので、マスという概念は存在しません。銀河英雄伝説など、スペオペ系SLGにて採用されています。このタイプは、向きという概念が非常に重要な要素となります。接敵(隣接)という概念もなく、例外なく射程武器での応酬で戦闘していきます。



2、ファンタジーSLGにおける確率の処理
     基本的にSLGというのは頭脳をフル回転させ、いかに要領よく相手を倒せるかを試す、というのを楽しむ部分があると思います。そのため、確率(運)によって攻撃がかわされたり、RPGのように与える(受ける)ダメージにやたらバラつきがあると、つまらなくなってしまう例があります。
     とはいえ、たまにクリティカルヒットがあったり、奇跡的回避を行なわせると、「ラッキー」などと思うのがユーザとしての反応です。つまりユーザー側は、

    攻撃→絶対命中、クリティカルの可能性あり
    回避→たまに回避もしたい、クリティカルを受けるのは嫌だ

     こう無意識的に望んでいるわけですが、真面目に考えるとひどく身勝手なものですね。
     さて、ダメージのバラつきに関してですが、変化0にして常に一意に決まるようなSLGもありますが(エンゲージエランズ)、多少の差は出す方が一般的です。「攻撃値−防御値」でダメージを決定してから、2割あたりの変動をさせる、というゲームもありますが、あまり望ましい結果になっていません。

     こちらの打撃力をAとしますと、与えるダメージが A/2 〜 Aの任意の値(ランダム決定)
     相手の防御力をBとしますと、減少しうるダメージが B/2 〜 Bの任意の値(ランダム決定)
     よって、実際に与えるダメージC=(A/2〜A)−(B/2〜B)

     鷹月の制作しているSLG・RPGの類は、基本的にこの式を用いています。シミュレートしてみますと、かなりいい具合のバラつきが得られるはずです。



3、ユニットの相性
     歩兵は弓兵に強く、弓兵は騎兵に強く、騎兵は歩兵に強い……という相性相関はラングリッサーや独眼流正宗(笑)でお馴染みだと思います。主人公側に沢山の種のユニットが登場してきたり、部下を付けられるタイプには必ずといっていいほど設定されていまして、戦術性に広がりを持たせることができます。しかし、相手側はプレイヤーほど相性を意識してユニットを動かせませんので、基本的には自軍有利のシステムになり、逆につまらなくなる可能性も持っています。
     また、地形に対応して強い・弱いが設定されるものもあります。砂漠地帯の大アリクイ(モンスター)、浅瀬地帯のクロコナイト(ラングリッサーで登場してくるユニットです)がその例にあがるでしょうか。



4、ヒットポイント調整
     SLGのデザインをしていまして、なかなか難しいのがHPのセッティングです。あまり低くすると、ちょっとキャラが突出しようものならすぐに2〜3ユニットからの連続攻撃で殺されますが、あまりに高くすると、1つのユニットを倒すまでの時間が長くなり、戦術性が薄れる以上に「飽き」をもたらします。主人公側のHPを高く、相手側を低くする、というパターンもありますが、これは少数が多数を駆逐する、いわば水戸黄門活劇的な状態を生み出し、ヒーローものでない限りはリアルの観点から望ましくありません。

     戦闘にリアル・スリル性を持たせるなら、どちらかというと低めの方が宜しいでしょうか。ただしこの場合、ユニットがやられる可能性は強くなるわけですから、ステージクリア時の経験値ボーナスを参加ユニット全体に与えるといった措置をしておかないと、ユーザにその場でリセット(やり直し)されてしまうことになります。



5、自軍ユニットの撃破
     ゲームによって、自軍ユニット(主人公系除く)が生命力がゼロ以下になり、やられた時の処理具合はそれぞれ違っています。
    A、消滅型戦闘不能
     そのステージから「戦線離脱」として消えてしまいますが、死んだわけではないので、次のステージにはちゃんと回復して参加できるようになっています。キャラストーリー系のSLGはもっぱらこのパターンです。

    B、猶予型戦闘不能
     1ターンの間、「気絶」や「戦闘不能」状態でマップに存続します。その間に、敵のさらなるトドメを受けることなく回復処置を施せば復活しますが、行なえなかった場合は撤退と見なしてマップから消滅します。

    C、死亡
     タクティクスオウガなどは容赦なく「死亡」となります。リザレクション等の復活術を唱えない限りは、そのステージを終了してしまった時点で2度と現われることがなくなります。
     戦略系SLGでは原則的にHPゼロは死亡ですが、ストーリー系のSLGは死亡にしてしまうと、死んだはずの人間が登場し喋る、といったオチが付くので、あまりこの扱いをしたがりません。

     ところで、主人公のHPがゼロになった場合は、大抵どのゲームにおいてもゲームオーバーとなります。しかも主人公はCOMの思考ルーチンにより、他のキャラよりも狙われるようになっているため、おもわず前線から引いてしまいます。結果としてあまりレベルが上がらず苦労する……というパターンがよくあるようです。そのため、主人公ユニットは防御力をやや高めに設定してあげるといいらしいです。



6、クラスチェンジ
     ゲーム中盤になると、ソルジャー→ナイト→パラディン、プリースト→クレリック(同じだと思うが……)→カテドラルなどと、クラスチェンジができるものがあります。これは、中盤でやや「たるむ」ゲームに新鮮味を与えると共に、成長の度合いを実感できるという効果があります。しかしマトモに考えてみると、誰の認可もなく勝手にナイトがパラディンの位を貰うことはありえません。ここでゲーム性とストーリー性との衝突(コンフリクト)が発生します。
     ストーリーを優先したいのでしたら、物語内で王から爵位を貰うなどしてクラスチェンジする、などといった正当性を持たせるべきでしょう。鷹月もこちら側を推奨しています。



7、反撃に関する考察
     接敵状態から直接攻撃を行ない、相手を撃破できなかった場合、反撃を受けるゲームと受けないものがあります。それぞれのケースにおいて長所、短所があり、一概にどちらが望ましいとは言えませんが、反撃を認めた場合についてちょっと考えてみることにします。

     まず、当然ながら弱い直接攻撃型ユニットが下手に攻撃をするのは危険極まりなく、結果として遠隔ユニットの重要性が増す事になります。もちろん得てして遠隔ユニットは鎧が薄く、直接攻撃系ユニットをその前方に立たせ《楯》型の戦術をとることになります。
     それは良しとして、このシステムの場合、AP、DPの高いキャラを突出させて、手を出してくる相手を返り討ちにしていくという技が使えてしまうことがあります。この構図を見ていてふと、「こんなに反撃ってできるものだっけ」と考えてしまいます。マトモに戦いを考えると、攻撃されたら受けるのに必死で、仕返しをする暇はそうそうないような気もします。そこで鷹月は、望ましい形として「反撃は、前のターンに能動的行動をせず、反撃のために身構える=防御の宣言をしていたときにのみ行なえる」を提唱しています。
     もしくは、従来の自動反撃でもかまいませんが、通常打撃ダメージの半分程度にしておくなど考慮しておいた方がいい、と考えます。



8、経験値に関する考察
     大抵のSLGでは敵にダメージを与えたときと倒したときにその行為主に経験値が入ります。この仕組み柄、効率よくレベルアップできるようにキャラを行動させていく事になります。ただしプリースト等、攻撃を行なわないキャラなどは回復呪文などを使用したときに経験値が入るようにします。

     ここまでは良いのですが、うっかり成長しそびれたキャラがいますと(シャン・グリ・ラ2など)、以後の敵はさらに強くなっていくため、もう倒しようが無くなります。あと1ポイントまでHPをなんとか削り、トドメだけ刺しにいくという涙ぐましい努力をした人もいるのではないでしょうか。
     こういった「落差」現象を防ぐためには、ミッションクリア時に「全体経験値」なるものをいくらか与えておくか、ダメージを受けたときにも経験値が入るようにしておくといいようです(一撃で殺されてはどうしようもありませんが……)。

     ところでこのミッションクリア時に入る経験値の事は通例、ボーナス経験値と呼ばれていますが、ゲームによってはこれらに変動条件を付けている例があります。
     例えばシャン・グリ・ラ2では、敵の全滅が100P、敵領地の占領が200Pという案配になっています。ところがこのシステム、敵を倒しても当然ながら経験値が入るわけですから、ユーザはすぐに「あと1匹まで敵を倒してから占領する」という解放に気付いてしまいます。これでは条件の意味が無いので、「Xターンの間に占領するとボーナス200点」などのようにしておくといいようです。

     さて、「敵から得られる経験値」に関しての話に戻します。
     HPが全ステージであまり変動の無いゲームは、

     A=(敵レベル−自分レベル+1)とおいた時、(Aが0以下の場合は0か1として扱う)
     経験値Exp=A×与えたダメージ

     このような単純な式を使い、経験値を出しているようです。HPがステージを進むにしたがってどんどん上がるタイプは、経験値Exp=与えたダメージ、としている所もあります(しかしこれは、レベルを上げそびれたキャラには致命的な式になります)。

     なお、経験値が100になるとレベルが上がる、というシステムを用いるものは上式とは別に、「100割り」という概念を用いて処理しています。次の表を見てください。

    敵とのレベル差攻撃時奪取Exp撃退時奪取Exp
    100100
    50100
    25100
    1250
    同レベル
    25
    −1
    12
    −2

     こちらより4レベル高い敵を攻撃し、ヒットしたときは100点の経験値(必ずレベルアップ)、3レベル差の場合は50点……といった具合になります。撃退した場合は攻撃時より2段スライドさせているのが分かると思います。先の式とは違って、ダメージ量は問わないのが特徴です。
     細かい数値は違いますが、この「100割り」を用いている有名なゲームがタクティクスオウガです。1ターンで終わる最初の面で石を投げて15Expゲットした人は結構いるのではないでしょうか(笑)。


 戦術SLGの構築は、ゲーム製作の中でもかなり困難です。こういった資料が少しでも参考になれば幸いです。なお、コンピュータの移動アルゴリズム部に関するTipsは別の項にて紹介しています。

- 鷹月ぐみな


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