Article: 物語作りの7W1H

- 意図と構成を把握する事の重要性
Article Written: 99/10/24




 物事を分析するときに時々使われる「5W1H法」なるものがあります。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)。これはまた、しばし物語を考えるときにも有効で、これらを埋めていくようにすると、矛盾のない、スッキリとしたものが作れるといいます。小学校の作文の時間などで習った事を覚えている人も居るかもしれません。さてこれは、ゲームの物語制作にも利用できるのですが、ただもう少し考えを拡張すると良いように思えたので、「7W1Hによるゲーム物語構築法」なるものを提案してみようと思います。増えたWというのは、Which(どれを)、Whose(だれのもの)の二つです。



 まず、既存の5W1Hの部分についての紹介です。

1. When(いつ)

     時間という次元要素、物語の上でこれを考える事はきわめて重要です。その時間範囲は当然ですがストーリーの始まりから終わりまでで、これらを大きめ小さめのイベント単位で区切っていくことにより、物語の展開というものを始めて形にする事ができます。
     いま「単位で区切っていく」と書きました。これが物語の面白い所で、連続的ではなく離散的なのです。この単位の中では時間が流れないという事がしばし起こり得ます。むしろ、一般的にゲーム物語を作る場合、そうならざるを得なくなるのです。フラグ立てのAVGが典型的な例で、プレイヤーの操作により時間を進めるかどうかが委ねられているのです。
     時間はまた、次に紹介する場所と密接に関わってきます。場面がx軸とするならば、時間はy軸に相当し、世界観の外形を作り上げるのです。
2. Where(どこで)
     場所(場面/位置/舞台)という次元要素、物語は原則的にはやはりこれがないと成り立ちません。とくに、テーマ重視ではなくシナリオ重視な物語を作りたい人は(註:シナリオ重視とストーリー重視は混同されますが、概念としてかなり違います)、場面のすべてに気を配らなくてはいけません。しばし何も考えずにストーリーを作り始めると、時間と場所が一緒に動いている、それで成り立っているかのように感じますが、これは主人公にスポットライトを当てているからそうなっているだけであり、あくまで場所は場所で、主人公(動作主体)と関わらずそこに存在します。そして、主人公がその場に居ないときでも、そこで何かが起きていて、それが主人公たちに影響を及ぼす原因となっている事を忘れてはいけません。
     ヒーローものの物語を考える人はよくこの罠に陥りがちです。他の人物はストーリーに関係ないと割り切り、あくまで主人公たちだけを追っていきます。その結果、ひねりも何もない作品が出来あがるだけなのです。RPGの多くはいまだこの考えに引きずられていまして、それではなかなか世界観を表現することはできません。日本のRPGがアメリカとは違い、TRPGに祖を置かなかったからです。代わりに自由性のないストーリーゲームの分野は発達しましたが……。
     なお、テーマ性重視の物語の中には、時間が主人公と場所の二つの要素をひきずり込み、世界観もろとも強烈に変化させてしまうものがあります(cf. 「判決」/カフカ、「ONE」/Tactics)。転回法の一つに入れて良いのだと思っていますが、やはりシナリオ主導とテーマ主導とは相容れないのだな、と思ってしまいます。
3. Who(誰が)
     動作主体という要素で、場面と時間の上に立ち、動く存在です。ストーリーは彼らによって作られます。物語を考える際に重要なのは、きちんと主人公、敵役、脇役、端役を分けておく事です。これは主人公だけひいきして端役は無視しろと言いたいのではありません。そうではなくて、シナリオにおいては彼らそれぞれのタイプの役割というのがあり、無節操にその都度切り替わると、訳のわからないものになってしまいます。昨今はマルチサイトだとかパースペクティヴだとかが流行りのようで、しょっちゅう視点者を切り替えていますが、視点を増やせばそりゃあ物語の全容が見えやすくなるわけで楽になりはしますが、統一性はなくなります。視点者の影に動く人達の存在、表立っては語られないけれども、テキストの端や隙間にそれらを伺えるような物語を書く方が何倍も趣深く、難しいけれども濃いものになるのです。
4. What(何が/何を)
     物語の中で起きる事象(イベント)です。5W1H式ではしばし主人公にかかわる事象すべてをこれに置いていますが、物語のキーとなるオブジェクトは別個に定義する価値があるので分割しました。事象というのはオブジェクト、「道具だて」と解してください(「ファンタジー・メイキング・ガイド」の表現)。動作主体はこれらに躓き、利用し、悩みます。「宿屋の娘の病気」、「目の前に立ちはだかる崖」、「扉を開けるためのまじない言葉」、「宝箱の中にあった剣」などなど。この部分の用意の仕方で、シナリオのキャパシティや深みが決まってきます。
     また、動作主がこれと関わり、ある行動をしたことにより、その結果として何かが変わります。つまり「結果」と呼ばれるもので、大抵はオブジェクトによって結果の可能性(種類)が規定されています(その中のどれに帰結するかは行動:Howによって確定します)。
5. Why(なぜ)
     シナリオの各場面や見せ場を作るための前段階、理由付けです。細かい所では動作主体の行動理念、全体として見るとテーマと言う事もできます。「A(動作主)はB(行動)した」というとき、必ず「なぜならCという理由があったからである」が生まれてきます。物語、特にゲーム物語においてはこの部分の提示は「明るすぎず暗すぎず、分かり易すぎず分かりにくすぎず」を旨とするのがいいでしょう。何もかも行動背景を提示すると作品の底を露呈させてしまうのがオチですし、あるキャラが理由の全く理解できない行動を取り、その意味をどこかで、ある程度示されなければ、物語すべてが崩壊しかねません。この要素こそはもっとも技術と感性を必要とするところです。繰り返しますが、ハッキリしているからいいというものではないんです。また、書いた本人だけ理由を知っていて、読み手を悩ませようと小出しにした挙句にテキストフレーバーのどこからも理由が読み取れないものは、続編でない限りダメです。ちなみに他のトピックで扱うネタとかぶりますが、伏線が残ったから続編を書くという手法は愚かで、破綻が見えています。物語を書くときには原則として、どのくらいの分量なのか、続編を意識しているのか居ないのかを明らかにする事を最初に行なうべきなのです。
6. How(どのように)
     これは、動作主(おもに主人公)と事象とを繋ぐ「プロセス」という要素です。たとえば「病気の娘」と「薬は悪い魔法使いの元」を与えた際に考えられうる解決法であり「行動」です。1本の物語軸というのは結局、これを繋ぎ合わせて行くことにより完成していきます。ごく小さなものから、全体の流れとしてのプロセスまで様々あります。割とこの要素は理由付けよりも軽視されがちですが、理由付けを読み手に理解、納得させるためにはこの「行動」が必要不可欠である事は押さえておきましょう(もっとも表裏一体の概念ではあるのですが……)。ドラマチックなストーリーを作りたい人は、心理描写よりもこちらのパターンを鍛えておきましょう。理由付けよりもパターン化して憶えやすい部分もあります(それがワンパターンを産むことにもなるのですが……)。
     余談ですが、人間の非常時、切迫時の行動は心理を省みる余裕なく、無意識が表層に現れて行動します。後になってこの行動の理由が明らかになるのです。キャラクターの「真の個性」というのはこの瞬間に出てくるものだと私は思っています(あらゆるペルソナの存在しない状態、と捉える)。でもこの瞬間を自然に描くのは非常に難しい……。



 残る二つの要素の紹介です。別に新しい概念というわけではないのですが、ゲーム物語として考えるときに、分けておいた方が良いなと思っただけなのですが。

7. Which(どれを/いずれを)

     ゲーム物語は大抵、何らかの自由性を提供します。裏では全然自由性がなかろうと、見せかけ上は必ずと言って良いほど作ります。そして、読み手に選択というプロセスの一部を与えるのです。これは一般的にストーリーラインにおける選択と解するだけでなく、もっと広義にもあてはまります。即ち、「どの剣を使えばあの敵が倒せるのだろうか」「今使うべきは薬草か、それともエリクシルか」といった、ゲーム製作者でも「表立って」意図してない部分にまで適応され、ある程度はこういった選択の幅を与えてあげる事により、ゲームを面白いと感じるのです。こう書くとお分かりの通り、作り手というのは「裏では」遊び手のあらゆる選択を想定して制作をしているわけです。
     そして大概は、微妙にであれ大幅にであれ、内容が変わり、時には物語そのものが変わります。Whatの所で書いたように、考えられうる結果の可能性の一つに帰結するのです。
8. Whose(だれのもの)
     最後はこのWhoseという要素です。このWhoseは単なるアイテムの所有者という意味ではなく、ある動作主が依存する関係を示し、また複数のキャラクターが同時に関係する(英語で言う制限/非制限用法というやつです)重要なオブジェクトを指します。この二つは分類できるのですが、適当な単語がなかったのでWhose要素にまとめてしまいました(^^;<まだ解析が甘いんで、分けるのが怖かったんですね
     最初の「関係」というのはそのまま、キャラ同士、もしくはキャラとアイテム類の関係というように、線で引いて一言で「is a(等価)」とか「belong(所属)」とか「part of(部分)」とか書けてしまうものを指します。それを一覧にしたものは「関係図」とか呼ばれ、重要な資料として活用することができます。ストーリーを考えるのが難しいと言う人は、まず人間キャラとアイテム類を丸で書き並べ、線を適当に引いて、それから連想するという方法があるのでぜひ試してみてください。慣れた人でも背後関係とかを用意するのによく使いますよ。
     そしてもう半分の意味「同時関連するオブジェクト」ですが……まあ実際の所ゲーム物語に特定されるわけではないのですが、物語中ではしばしクリティカルなオブジェクトが存在し、それに色々なキャラが引きずられていくことがあります。ドラゴンボールからパンドラの箱、王錫、予言の鉄筆、悪魔の本……etcと、まあ色々ありますね(^^;)。それはアイテムに限らず、概念一般です。これらのオブジェクトを主軸に(つまりキャラクターを副として)物語を考える事により、整然とした構図が作れることがあります。なかば冗談な例ですが、相手を追わずにサッカーボールを追うと考えるとカットできてしまうというやつですね(キャプテン翼1巻より……なんだかなー)。


 7W1H要素の紹介を一通り終えました。で、具体的にこれらをどう結びつけてゲーム物語を考えて行くかについては、短期連載型として、あと2回くらい場を設けて述べていくことにしたいと思いますが、最低限「こういう考え方で作れるんだな~」というのを認識する程度でも、なにがしか得られるものがあるかも知れません。

 とりあえず今回は、大まかで、もっとも単純な利用法としての「全体把握」のやり方を紹介しましょう。これは、1列8段の表を作り、それを埋めていくと言うやりかたです。

5W1H連想
When -いつ 
Where -どこで 
Who -だれが 
What -なにを 
Why -なぜ 
How -どのように 
Which -どれを 
Whose -だれの 

 これを何となく紙に書いて、「好きな順番で」埋めていくというものです……って、5W1H法と同じやり方ですな(^^;)。ここで考えるのは物語の中心となる部分のみです。細かい時間の流れなどは気にしなくて良いのです。そして中心ということだから、大概が主人公を主体として書く事になります。それも、ゲーム物語ではプレイヤーの事です。例ということで鷹月が即興で考えてみますね。
 まず、Whoから埋めてみましょう。ちなみにWhoから始めるとよく「キャラ主導的」な物語ができます。まず、趣味丸出しで「可愛い魔法使いの女の子」とでもしておきましょう(笑)。ただ彼女はヒロインであって、ゲームのプレイヤーは別に用意しておきましょう(あとで考えます)。同時にファンタジー世界であることもいちおう確定します。思ったらすぐ書くんです。こうやって全体を眺め、「まだ考えなければいけない部分」というのを逐一把握するのです。主要場面を「聖域」とし、彼女はそこを守る守護者という設定にしておきましょう。となると、ストーリーの中心と「なりそう」なのは「聖域にある何か」という事になります。では、かきかき。

5W1H連想
When -いつファンタジー
Where -どこで聖域
Who -だれが聖域の守護者ジュシア〈ヒロイン役)
What -なにを 
Why -なぜ 
How -どのように 
Which -どれを 
Whose -だれの聖域にある何か?

 そしてまた改めて見なおして、埋めていきます。ここでありがちなのは「どういうストーリーなのか」ですが、今回はいきなり結論、「彼女は想いの男性と、外の世界に出て行く」ということにしましょう。理由付けはここではごく完結に、「男性は外の世界の人間であり、その男性を好きになったから」 です。
 なお、一応エンディングを自分で決められるようにするのもいいという事で、出て行くかいかないかも決められると良いかも……という分岐点も考えてみたりします。では、かきかき。

5W1H連想
When -いつファンタジー
Where -どこで聖域。恐らく最後は聖域の中
Who -だれが聖域の守護者ジュシア〈ヒロイン役)
What -なにを彼女は守護者の任務を一時外れ、外の世界に行く(結論)
Why -なぜ自分を助けてくれた男性が好きになった→外に行く
How -どのように 
Which -どれを聖域に留まる事も可能。ちなみにAVGですな 
Whose -だれの聖域にある何か?

 あとは、この線にしたがってストーリーライン(How)を考えていけばいいというわけです。その際に、Whose属性の書きこみの部分が役に立つ事になるでしょう。無意識的にこういった作業が頭の中で行なえれば不必要なのですが、整理がうまく出来ないと言う人にはお薦めします。



上で書いていた通り、これは初歩的な構築手順です。これでゲーム物語の内部や機構を固めるにはかなり不充分です。それらを埋める方法として、「いつどこチャート/鷹月ぐみな」「右往左往シート/野田昌宏」などがありますんで、この記事の続きとしてそのうち紹介しようと思います。
 なお、このシリーズの記事はゲームジャンルを特定せず、とりあえず「ゲーム物語」としています。実際にゲームを作る際、AVGにするかSLGかRPGかを選ぶことで、それぞれカスタマイズを行なう必要があることを書き加えておきますね。

- 鷹月ぐみな



Creation College
鷹月ぐみな情報局2号館

Written by. gumina(鷹月 ぐみな)