Article: 物語作りの7W1H
- 意図と構成を把握する事の重要性 |
物事を分析するときに時々使われる「5W1H法」なるものがあります。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)。これはまた、しばし物語を考えるときにも有効で、これらを埋めていくようにすると、矛盾のない、スッキリとしたものが作れるといいます。小学校の作文の時間などで習った事を覚えている人も居るかもしれません。さてこれは、ゲームの物語制作にも利用できるのですが、ただもう少し考えを拡張すると良いように思えたので、「7W1Hによるゲーム物語構築法」なるものを提案してみようと思います。増えたWというのは、Which(どれを)、Whose(だれのもの)の二つです。
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まず、既存の5W1Hの部分についての紹介です。 1. When(いつ)
いま「単位で区切っていく」と書きました。これが物語の面白い所で、連続的ではなく離散的なのです。この単位の中では時間が流れないという事がしばし起こり得ます。むしろ、一般的にゲーム物語を作る場合、そうならざるを得なくなるのです。フラグ立てのAVGが典型的な例で、プレイヤーの操作により時間を進めるかどうかが委ねられているのです。 時間はまた、次に紹介する場所と密接に関わってきます。場面がx軸とするならば、時間はy軸に相当し、世界観の外形を作り上げるのです。
ヒーローものの物語を考える人はよくこの罠に陥りがちです。他の人物はストーリーに関係ないと割り切り、あくまで主人公たちだけを追っていきます。その結果、ひねりも何もない作品が出来あがるだけなのです。RPGの多くはいまだこの考えに引きずられていまして、それではなかなか世界観を表現することはできません。日本のRPGがアメリカとは違い、TRPGに祖を置かなかったからです。代わりに自由性のないストーリーゲームの分野は発達しましたが……。 なお、テーマ性重視の物語の中には、時間が主人公と場所の二つの要素をひきずり込み、世界観もろとも強烈に変化させてしまうものがあります(cf. 「判決」/カフカ、「ONE」/Tactics)。転回法の一つに入れて良いのだと思っていますが、やはりシナリオ主導とテーマ主導とは相容れないのだな、と思ってしまいます。
また、動作主がこれと関わり、ある行動をしたことにより、その結果として何かが変わります。つまり「結果」と呼ばれるもので、大抵はオブジェクトによって結果の可能性(種類)が規定されています(その中のどれに帰結するかは行動:Howによって確定します)。
余談ですが、人間の非常時、切迫時の行動は心理を省みる余裕なく、無意識が表層に現れて行動します。後になってこの行動の理由が明らかになるのです。キャラクターの「真の個性」というのはこの瞬間に出てくるものだと私は思っています(あらゆるペルソナの存在しない状態、と捉える)。でもこの瞬間を自然に描くのは非常に難しい……。
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残る二つの要素の紹介です。別に新しい概念というわけではないのですが、ゲーム物語として考えるときに、分けておいた方が良いなと思っただけなのですが。 7. Which(どれを/いずれを)
そして大概は、微妙にであれ大幅にであれ、内容が変わり、時には物語そのものが変わります。Whatの所で書いたように、考えられうる結果の可能性の一つに帰結するのです。
最初の「関係」というのはそのまま、キャラ同士、もしくはキャラとアイテム類の関係というように、線で引いて一言で「is a(等価)」とか「belong(所属)」とか「part of(部分)」とか書けてしまうものを指します。それを一覧にしたものは「関係図」とか呼ばれ、重要な資料として活用することができます。ストーリーを考えるのが難しいと言う人は、まず人間キャラとアイテム類を丸で書き並べ、線を適当に引いて、それから連想するという方法があるのでぜひ試してみてください。慣れた人でも背後関係とかを用意するのによく使いますよ。 そしてもう半分の意味「同時関連するオブジェクト」ですが……まあ実際の所ゲーム物語に特定されるわけではないのですが、物語中ではしばしクリティカルなオブジェクトが存在し、それに色々なキャラが引きずられていくことがあります。ドラゴンボールからパンドラの箱、王錫、予言の鉄筆、悪魔の本……etcと、まあ色々ありますね(^^;)。それはアイテムに限らず、概念一般です。これらのオブジェクトを主軸に(つまりキャラクターを副として)物語を考える事により、整然とした構図が作れることがあります。なかば冗談な例ですが、相手を追わずにサッカーボールを追うと考えるとカットできてしまうというやつですね(キャプテン翼1巻より……なんだかなー)。 |
7W1H要素の紹介を一通り終えました。で、具体的にこれらをどう結びつけてゲーム物語を考えて行くかについては、短期連載型として、あと2回くらい場を設けて述べていくことにしたいと思いますが、最低限「こういう考え方で作れるんだな~」というのを認識する程度でも、なにがしか得られるものがあるかも知れません。 とりあえず今回は、大まかで、もっとも単純な利用法としての「全体把握」のやり方を紹介しましょう。これは、1列8段の表を作り、それを埋めていくと言うやりかたです。
これを何となく紙に書いて、「好きな順番で」埋めていくというものです……って、5W1H法と同じやり方ですな(^^;)。ここで考えるのは物語の中心となる部分のみです。細かい時間の流れなどは気にしなくて良いのです。そして中心ということだから、大概が主人公を主体として書く事になります。それも、ゲーム物語ではプレイヤーの事です。例ということで鷹月が即興で考えてみますね。
そしてまた改めて見なおして、埋めていきます。ここでありがちなのは「どういうストーリーなのか」ですが、今回はいきなり結論、「彼女は想いの男性と、外の世界に出て行く」ということにしましょう。理由付けはここではごく完結に、「男性は外の世界の人間であり、その男性を好きになったから」
です。
あとは、この線にしたがってストーリーライン(How)を考えていけばいいというわけです。その際に、Whose属性の書きこみの部分が役に立つ事になるでしょう。無意識的にこういった作業が頭の中で行なえれば不必要なのですが、整理がうまく出来ないと言う人にはお薦めします。
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上で書いていた通り、これは初歩的な構築手順です。これでゲーム物語の内部や機構を固めるにはかなり不充分です。それらを埋める方法として、「いつどこチャート/鷹月ぐみな」「右往左往シート/野田昌宏」などがありますんで、この記事の続きとしてそのうち紹介しようと思います。 なお、このシリーズの記事はゲームジャンルを特定せず、とりあえず「ゲーム物語」としています。実際にゲームを作る際、AVGにするかSLGかRPGかを選ぶことで、それぞれカスタマイズを行なう必要があることを書き加えておきますね。 - 鷹月ぐみな |