プロップの昔話31の機能分類最近民話や神話にかぶれている鷹月がその分野で最も尊敬している人である、ウラジーミル・プロップという人がいます。氏は自分の論文「昔話の形態学」の中で、「昔話の構造は機能に分解できる。そしてこれはほぼ特定の順番で進行していく」と述べ、構造を31の機能に分類しています。ここではそれらを引用紹介し、ストーリーの作り方について考察していきます。 Article Written: 99/9/5 |
世界各地の民話集、伝説集を調べてみると、話の構造にはかなりの共通性、時には偶然とは思えない一致が見られます。イタリア民話の「木造りのマリーア」「なつめ椰子・美しいなつめ椰子」はグリム童話の「シンデレラ」に、「孔雀の羽」は「歌をうたう骨」に、また、日本神話のイザナギの黄泉の国訪問の話はギリシア神話のオルペウス伝説に対応できてしまいます。それらを元に民族の発祥や文化の伝播を探る事もできるのですが、そちらはひとまず措いておくとして、こういった物語構造の共通性をひっくるめて、それらを機能(登場人物の行為)という構成要素に分解した人がいました。それがロシアのウラジーミル・プロップです。機能を31に分け、ほとんどの物語はこの任意数を持つという事に加え、それらがある特定の順番に沿って進んでいくと著書の中で発表しました。つまり逆から考えてみて、これらの機能を満たすように話を作っていけば、昔話と同じ構造を持った物語が租筋ではありますけど、出来ると言うわけです。まずはこれら31の機能を紹介しましょう。
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■ 昔話の構造31の機能分類
1:「留守もしくは閉じ込め」
※ 多少、引用文献を参考にして、言葉の内容を補足しています。
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実際にあらゆる昔話がこの展開通りに進んでいるわけではありませんが、なるほど確かに多くの昔話がこの線に沿って展開しています。例証として二つほど昔話を取り上げてみましょう。 まずは古代も古代の神話、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」から。イタケという国の主であるオデュッセウスという人物がいました。彼がトロイアへ戦争に行き、20年ぶりにイタケに帰還することになりました(「求婚者達の最後」より)。 これはあまりに壮大なサーガなので、そのおしまいの部分だけを紹介しています。ともかく、「主人公の帰還」という機能(20)が出てきましたね。これ以前の機能も、今回は紹介できませんが「オデュッセイア」を読んで見ると色々出てきます。 さて、20年も国と宮殿を空けていたので、それはもう酷い状態になっていました。「オデュッセウスは死んだのだ」と妻のペネロペを誘惑して、自分がイタケの王になろうとする連中が宮殿に入り浸って、宮殿と人民を操っていたのです。ペネロペはじっと彼等の要求を断りつづけていましたが、いい加減断りつづけられない事態になってしまいました。そこにオデュッセウスが帰ってきたのです。彼は「国をめちゃくちゃにした奴らに復讐をしてやろう」と思いつきます。そこにギリシアの女神アテナが力を貸し、彼を見苦しい乞食の姿に変えてしまうのです。こうして彼は旅人として、こっそり自分の宮殿に帰ったのでした。 アテナは以前にも度々オデュッセウスに力を貸しています。昔話につきものの「援助者・贈与者」の役に彼女がなっているのです。ともかく「身分を隠して家に戻る(23)」が出てきています。「にせ主人公の主張(24)」は順番は微妙にずれていますが、オデュッセウスが死んだという偽の情報を流し、乗っ取ろうとする彼らはまさしく「にせ主人公」なのです。 さて、妻ペネロペは宮廷で競技を行ない、求婚者を決定することになりました。競技とは射的です。12の輪を一列に距離を置いて並べ、その輪を一矢で貫いた人が王妃と結婚できるというわけです。ところが弓の大きさ、固さときたら、誰も矢を番えることができないのです。オデュッセウスの息子であるテレマコスをはじめとして、求婚者たちが試そうにもびくともしません。 これが噂の「難題(26)」です。この時点でペネロペは宮殿にオデュッセウスその人が居る事を知っています。難題の機能のポイントは、主人公にだけ解くことができるというものです。 ほとんどの求婚者たちが諦める中で、一人の乞食が名乗りをあげました。求婚者たちは「ジジイの遊ぶものじゃない」とバカにしながら引き離そうとしますが、テレマコスが彼らをなだめます。この乞食はひょいと矢を番えると、一瞬にして12の輪を抜けるように射通したのです。さらに「今一つの的だ」と、独りの男に狙いを定め、喉を貫き殺したのです。殺された男は求婚者の中でももっとも悪どく、テレマコスを亡き者にしようとした男でもありました。このあと、「私はオデュッセウスだ」と主張し、国をめちゃくちゃにした男どもを皆殺しにしたのです。そして妻と自分の王国を取り戻したのです。 「主人公の変身(29)」は正体を明かす部分、その後の戦闘でにせ主人公を殺してしまう部分が「敵対者の処罰(30)」、そして王国を取り戻す部分が「即位(31)」に対応しています。
「オデュッセイア」の機能構造は以上の通りです。ではもう一つ、イタリア民話の中から「七面鳥(FIC 141)」という話を紹介して、同様に対応させてみましょう。 「閉じ込め(1)」という形で発端の不幸を与えています。もしくは「謀略(6)」を適用しても構いません。本来正統に継承権を持つものを閉じ込め、強制労働をさせているのですから。 さて、独りの善良な老婆が二人の境遇を知って哀れに思い、ちょうどクリスマスの時期だったので、せめてお祝いをしてやろうと七面鳥を一羽上げました。娘はお礼を言いましたが、返すものがなくて受け取ろうとしなかったのですが、老婆は気にせずに受け取らせると去って行った。さて、娘は七面鳥を暗い部屋の中にしまい、弟が帰ってくるまで待っていたのですが、弟に老婆の話をして、七面鳥を見に行ってみると鳥の姿はなく、変わりに鳥が掘ったと思われる大きな穴がありました。その一つに上げ蓋が見えていたので開けてみると、きらびやかな兜と鎧と剣が見つかりました。弟の方が試しに着てみると、それが余りに立派だったので、娘は拍手をし、また窓を開け放ちました。ちょうどクリスマスパレードの最中で楽隊が喇叭(ラッパ)を吹き鳴らしている所でした。彼らは青年の姿、王者のいでたちを見て、「これは本当の王様だ!私たちの王様だ!」と叫びます。群集は宮廷の叫び声を聞きつけて雪崩込んで来ます。王は騒ぎを鎮めようと出てきましたが、かねてよりの圧政に耐えきれなかった民衆たちはここぞとばかりに石を投げつけて殺してしまい、王冠をもぎ取り、青年の頭にかぶせたのです。王となった青年は善政を敷き、民に歓迎されたのでした。 この「七面鳥」の物語は前半と後半に分かれていまして、前半のみでもめでたしめでたし的に話は終わっています。さて老婆のあげた七面鳥が実に魔法的な役割を果たしています。「魔法の手段の提供(14)」が見られます。広く見ると、娘がお礼を返そうとしていた所など、善の行ないをしようとする動作は「主人公の反応(13)」に数えても良いようです。また、この後は主人公そのものは戦った記述はありませんが間接的に民衆と敵対者(王)とのもみあいがあり(16)、敵対者に勝利して(18)、主人公は「発端の不幸」を取り除き(19)、もとの王宮に帰還して(20)、「即位(21)」するわけです。
この話の原型は前半部分だけで終わっていたのですが、中世より前にキリスト教の影響を受け、後半部分が何時の間にか産み出されました。 後半の導入部には、女王の「謀略(6)」と王様の「黙認(7)」、殺し屋達による「加害(8)」の機能が見られます。とくに昔話における「加害」は必要不可欠と言ってもいい部分にあたり、後に必ず解消されることになります。
両腕を失った彼女は通りかかったイギリス紳士に助けられます。彼女のために蝋の腕も作ってあげました。そんなある日、一人の外国の王様が彼女を見初めて、彼女と結婚したいとやってきたのです。そして結婚し、王が戦争に旅立っている間に二人の美しい赤子を産みます。しかし大臣達は素性の知れない女に悪意を持っていましたので、その機に乗じて王には「王妃が二匹の子犬を産み落としました」と報告し、妃を浜辺に追い捨ててしまったのです。彼女は食べるものもなくさ迷っていましたが、泉を見つけてその水を飲もうとかがみこんだときに、袋に入れていた自分の赤子がその泉の中に落ちてしまいます。彼女には手が無いので拾う事ができません。ただただ嘆くばかりです。その時、独りの老人が現れ彼女に言いました。 機能としてはふたたび大臣による「謀略(6)」と「加害(8)」のあと、「主人公の移動(15)」、ようやく最後に「発端の欠如の解消(19)」が訪れています。また機能以外には、「子犬を産む(トーテミズムの名残)」や、「水辺への人捨て」「不思議な泉」のモチーフなど、昔話特有のものがいくつか見られます。
さて姉を殺してしまった王は、あれからすぐに悔い改め、あくどい妻を監獄の奥へ押しやり、自分のした事を嘆いて過ごす毎日でしたが、ある日大臣にせがまれて狩りをすることになりました。その途中で独りの王に出会いました。その王こそは姉の夫、戦争に行っていた王でした。帰ってきた王はお妃がいなくなっていたので失意のまま城を抜け出し、野良となってさ迷っていたのです。そのとき二人は雨に襲われます。近くにあった家へと雨宿りをするために向かいました。 最後は「おいおい、話がうますぎるよ」と思うでしょうけれど、このご都合主義は昔話の特徴なのです。「エルバビアンカ(FIC 157)」もこれとほぼ同様の結末です。加えて、キリスト教の「救い」の思想が取りこまれています。この箇所は純粋な昔話ではありませんが、王が妻(=アニマ)を失い野良になり、そして再会するプロセスは「アーサー王伝説」にも見られます。 以上、二つの物語にこの機能構造を当てはめて見ました。ぴたりと填まるわけではないけれど、確かにこの進行通り展開していることが分かります。 |
別に昔話の解析をする目的のコンテンツではありませんので、そろそろ本題に戻りましょう。鷹月が提案するのは、この機能分類をストーリー構築の手順(プロット)として使えないか、ということです。そこで、昔話そのものはあまり意識せず、先の31の分類を昇順で組みこみお話を考えてみようと思います。もちろん以下のストーリーは鷹月のオリジナルです。
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捜索(4)
謀略(6)、黙認(7)、加害(8)
調停(9)、出発(11)
贈与者による試練(12)、反応(13)、魔法の獲得(14)
移動(15)、闘争(16)、敵対者への勝利(18)、欠如の解消(19)
帰還(20)、身分を隠して帰る(23)
偽主人公の主張(24)、難題が出される(25)
難題の実行(26)、主人公の再確認(27)、にせ主人公バレる(28)
変身(29)、処罰(30)、結婚(31)
やがて王が亡くなって、彼は王位に着きます。彼は妻を愛し、善政を敷いて、民すべてに慕われ、長らく国を治めたのです。めでたしめでたし。
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どうでしょうか。いっぱしの、ドラマチックなストーリーが出来あがったと思います。多少は私なりに、プロットに伏線を張りましたが、進行はまったく上のパターン通りです。意識的に「孔雀の羽」の冒頭と結末の一部を重ね合わせてしまいましたが。あと、出来すぎるくらいのハッピーエンドにしたのは、昔話の結末はそうだからというのもありますが、鷹月が好きなだけです。ともかく、私なりに、「プロップの31の機能分類」からのストーリー構築の例は示し終えました。あ、一応このお話には「妖精の雫」と表題を付けておきますね。皆さんもこの例に従って、何か物語を考えてみてはいかがでしょうか。各機能ごとの特徴をもう少し説明しておけば良いのでしょうが、それはまた別の機会に紹介させていただきます。 割と本格的な記事になったかな?感想や要望などお待ちしてます(^^ - 鷹月ぐみな |