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■ 続・昔話31の機能分類

- Updated: 2001/5/22


∇ Attention
 非常に本格的な記事ですが、内容もその分難しいものになっています。記事は分量がありますが、ローカルで使うことを想定して、一つのファイルに留めました。

[※1]
- 「メルヘンの深層(森義信/講談社現代新書)」などを参考のこと。

[※2]
- 余談。採集、という表現を使い、それをメジャーにしたのは柳田国男と言われていますが、口承文芸の語り手から話を聞く作業を採集と呼ぶのはその人達に失礼であり相応しくない等と小澤俊夫らは主張していたりします。「日本の昔話(柳田国男/新潮文庫)」のあとがき参考。

- 続・昔話31の機能分類

 1999/9/5に掲載した「昔話31の機能分類」は、有用な資料と言う事で好評を戴きました。あれから1年半余、私自身も昔話の検討を行ったり、また色んな資料を集めたりしまして、件の記事をもう少し詳細に紹介できるようになりました。前の記事と合わせてストーリー製作の参考にしてください。


INDEX

1. はじめに
2. 31機能分類の活用
3. 機能分類はいかにして得られたか
4. 31機能分類(定義)
5. 分類詳細(0〜31)
6. メタ言語による記述
7. 適用例2
8. おわりに

1. はじめに

 私が昔話や神話を読むのは、内容を楽しむためというのもあるにはありますが、どちらかというと自分の作品製作のための資料として吸収したいから、という方が主です。私はファンタジー物語が好きなので(ファンタジー物語を書きたいので)、ファンタジーの基となっているこれらの話を研究することは非常に重要な事であろうと確信しています。
 たとえば数学を学びたい人にとっては、効率良く覚えられる教科書なるものがいくらでも存在します。ところがファンタジー作品を書きたい人にとっての教科書レベルのものは、希少にしか存在しません。よって基本的には、膨大な、未分類のテクストたちを時間をかけて調べ、得ていくしかないのです。これは大変な作業です。しかし、この作業で得られたものをまとめておけば、次の人達は教科書(というレベルのものではなくても、それに準ずるもの)として、はるかに短い時間で、本質について知る事ができるでしょう。このCカレで記事を提供する目的の一つはそれです。他の研究者の例にもれず、単に自己利益および自己満足のため「だけ」に研究し、発表しているわけではありません……それが有効に活用されることを望むからです。
 まあ、鷹月のやっている作業が研究の名に値するかは、皆さんの判断に任せる事にしますが、ともかく今回は、以前書いた「プロップの昔話31の機能分類」の続きにあたります。続きと言っても書きなおし的な所もあるのですが、以下は皆さんが前記事を読まれた事を想定して書いていきます。

[▲ INDEX]

2. 31機能分類の活用

 ファンタジーに限らず、あらゆる物語の大元は神話や昔話(+歴史を参考)にあると言われています。まあ、「AはBという作品の影響を受け→BはCという作品の影響を受け..」と源を辿っていくと帰納的に言えてはしまう事ですが。
 ただ、他の観点からも同様に示す事ができます。たとえば感動させる物語を書きたいとする場合、悲劇あるいは悲喜劇物語を想像するわけですが、その本質が「主人公への加害、欠如」とか「試練」とか、「欠如の解消」にある所まで見て取ると、これはプロップのまとめた昔話のモチーフに他ならなくなります。
 また、成長物語を書こうとして、「心の成長とは何か」と、ユング&フロイト心理学を調べていくと、成長 の心のプロセスが、昔話の筋に存在するものと極めて類似している事に辿りつきます(※1)。よって昔話はこうした深層心理を反映して成立したものだとする彼らの主張まではそのまま受け入れられないものとしても、成長物語の軸が昔話の軸と酷似する、という事実だけは確かめる事ができます。
 そこで、プロップの研究によって示された、昔話の31のモチーフを覚えておけば、昔話の素筋は誰でも組みたてられるようになり、それを元に作り上げた物語は、本質的にドラマチックストーリーや心の成長のプロセスを含むものとして、表面的なシナリオだけではない多層的な作品が割と楽に作れてしまう、と私は考えました。 勿論、モチーフはあくまでモチーフに留まるものであり、それらの接合の仕方、動機付け、解決法などは、自分で自由に考えていかなくてはいけません。そこに技術とその他の知識、芸術的センス、その他のテーマが必要になり、全体から見た割合はそちらの方が多いため、素人でも芸術的物語作品が作れることは決して有り得ないわけですが、少なくとも主軸について保証されるだけでも、儲けもののようなものだと考えます。
 それで前回あのような記事を書いたのですが、実際のところ、モチーフそれぞれの説明が不足しすぎて、あれで主軸を申し分無く構成する事は簡単ではありません。実際プロップは、あの31機能分類をもっと細分化し、そして説明や証明を加えています。その部分について解説することが今回の目的というわけです。

[▲ INDEX]

3. 機能分類はいかにして得られたか

 このプロップの31機能分類ですが、氏はどのようにしてそれを得たのかを、せっかくですから簡単に紹介しておきましょう。氏は、ロシアおよびヨーロッパ北部の昔話を中心に、さらにはあらゆる世界各方面からの昔話を集めました。勿論、グリムをはじめとする採集者(※2)の発表物という先人の作業があったからこそできたことですが。
 昔話の分類自体は、プロップが初めてというわけではなく、ミレルやヴント、ヴォルコフ、アアルネやヴェセロフスキーという前任者が居ます。しかし、昔話の本質とは何か、それがどのように発生したものかを研究するにあたり、この分類法がひどく宜しくないものであると気が付きました。
 一例を挙げましょう。ヴントの分類では、「純粋な動物寓話」と「道徳的な寓話」、「純粋な魔法昔話」が別々のカテゴリを与えられています。しかし、犬の主人公が変身するお話で、全体を通して見ると明らかに道徳的であるという場合はどれにカテゴライズするのが正しいのでしょうか。結局、本質を調べるにあたって、このようなジャンルによる分類の仕方は全く危険なものであるという結論にプロップは思いました。以下青字文は「昔話の形態学」からの引用です。

 私達がここで意図しているのは、魔法昔話の様々な筋をたがいに比較することです。その比較の為に、ある特定の方法に従って、昔話の構成部分を析出し、その後でかく分析した構成部分に基づいて、昔話をたがいに比較してゆきます。その結果得られるのが、形態学です。言いかえると、昔話に関し、その構成部分・構成部分相互の関係・構成部分と全体との関係に基づいて行う記述です。

 鷹月がCカレ等で行っているいくつかの解析などは、プロップのこのようなやり方を元にしていたりします。それはそうと、プロップは、昔話の形態を記述する上でどのような方法を用いたのでしょうか……ということで、アファナーシェフ選集から、類話4つを取り上げて、筋の一切れを並べています。

[1] 王が、勇者に、鷲を、与える。鷲は、勇者を、他国へと連れて行く。
[2] 老人が、スーチェンコに、馬を、与える。馬は、スーチェンコを、他国へと連れて行く。
[3] 呪術士が、イワンに、小舟を与える。小舟は、イワンを、他国へと連れて行く。
[4] 王女が、イワンに、指輪を、与える。指輪の中から現れた若者たちが、イワンを、他国へと連れて行く。

 ここに引いた例のうちには、定項と可変項とがあります。話ごとに変わる可変項は、登場人物たちの呼び名・属性です。話が変わっても変わる事のない定項は、登場人物の行為です。つまり、機能です。以上のことから出てくる帰結は、昔話はしばしば、相違なる人物たちに、同一の行為を行わせるということです。この帰結は、私達に昔話を、登場人物達の機能に基づいて研究しうる可能性を与えてくれます。

 上の4つは、元の話を見るとそれなりに細部は異なっています。「どのようにして贈与者が主人公に物を与えたか」とか、「主人公はどのようにして他国へ行ったのか」などは違いがあるのですが、ともかく、贈与者が主人公に物を与えると言う行為、主人公はともかく他国へ行く、という移動の行為は同じという事実があり、この事実=機能、において見ていくやり方が、昔話の解明に繋がるのだとしました。
 こうして、氏はアファナーシェフの魔法昔話を中心に、この機能の部分を切り出していきました。そうして得られたのが31機能分類であり、また、以下に示す4つの基本テーゼ(の証明)です。

[1] 昔話の恒常的な不変の要素となっているのは、登場人物たちの機能である。その際、これらの機能が、どの人物によって、また、どのような仕方で、実現されるかは、関与性を持たない。これらの機能が、昔話の根本的な構成部分である。
[2] 魔法昔話に認められる機能の数は限られている。
[3] 機能の継起順序は、限られている。
[4] あらゆる魔法昔話が、その構造の点では、単一の類型に属する。

 短く説明しようとしたので、どうも端折り気味になってしまいましたね(^^;)。ここらへんの経緯は、直接「昔話の形態学」を読んでいただくと良いのですが、値段の高さと絶版である事も考えると難しい要求ですね。代わりに、「グリム童話 〜子供に聞かせて良いか〜(野村滋/ちくま文庫)」にて、この項で述べたことをもう少し詳しく触れられていますので、宜しければ読んでみてください。

[▲ INDEX]

4. 31機能分類(定義)

 それでは、ここでプロップの31分類(+導入の状況)の定義を再掲します。用語は、前回は新紀元社の「ファンタジーメイキングガイド」の記述から取っていましたが、今回は原書の直接の訳書、叢書記号学的実践10「昔話の形態学(ISBN4-89176-208X/絶版)」での表現をそのまま用いました。

[0] 導入の状況α
[1] 留守β
[2] 禁止γ
[3] 違反δ
[4] 探り出しε
[5] 情報漏洩ζ
[6] 謀略η
[7] 幇助Θ
[8] 加害
[8a] 欠如
[9] 仲介あるいはつなぎの段階
[10] 対抗開始
[11] 出立
[12] 贈与者の第一機能
[13] 主人公の反応
[14] 呪具の贈与・獲得
[15] 二つの国の空間移動
[16] 闘い
[17] 標づけ
[18] 勝利
[19] 不幸・欠如の解消
[20] 帰還
[21] 追跡Pr
[22] 救助Rs
[23] 気づかれざる到着
[24] 不当な要求
[25] 難題
[26] 解決
[27] 発見・認知
[28] 正体露見Ex
[29] 変身
[30] 処罰
[31] 結婚・即位

 「Θ」とか「M」とかは、機能を示す「メタ記号」と呼ばれるものです。後ほど、これらを用いたメタ言語なるものを紹介することができるでしょう。
 ともあれ、31機能は以上の通りです。つくり話ではない昔話は、この0→31に沿って展開しています。ただし、全てを持つ事はありません。また、機能の順番が完全に戻る事はありませんが、ある一連を繰り返したりする事はありますし、一話の中で、この0→31のシークエンスが、複数回行われることはあります。また、展開柄、微妙に順序が逆転することもありえます。
 なぜこうした順番で生起するのかについては、あまり解明されていません。プロップは、これらの事実を発見しまとめ、指摘したに過ぎません。ただし、氏は後の著書「魔法昔話の起源」にて明らかにした事から、これが古代トーテミズム時代の信仰、儀礼の流れから生まれた部分が強い、としています。それとともに、扉を開けないうちに泥棒は扉の中の物を盗めない、といった論理的必然な考えもある程度流れを規定する働きがあるのでしょう。

 それはともかく、氏はさらにこの31の機能を詳細化したわけで、それぞれ紹介していく事にしましょう。紹介の中の実例まで全引用するのでは、自分の記事と言えなくなってしまうため、敢えて昔話以外のファンタジーからの例を当てはめたりという作業を行っています。

[▲ INDEX]

5-[0]. 導入の状況 (α)

役割- 舞台状況説明

 昔話は常に、ある種の導入の状況から始まります。これは登場人物の行為ではないために機能ではありませんが、形態学上重要な要素なので、仮の記号αが与えられています。
 ここでは主に、登場人物の状況および役柄が説明されます。「むかしむかし、貧乏な家に住んでいる、農家の一組の夫婦がありました。二人には子供がありませんでした。」
 また、この後で起こる事件と対照させてか、物語の初めでは幸福そうに暮らしている様子あるいはそのことが伝えられます。「むかしむかし、あるところに王様とお妃様、それから息子の王子様がありました。仲良く暮らし、仲良く国を納めておりました」

[▲ 31機能インデックス]

5-[1]. 留守 (β)

役割- 家族の成員のひとりが家を留守にする

[β1] - 年長者の留守(外出)。「商人は、子供達に留守を言いつけて、外に出かけていきました」「お爺さんは、芝を刈りに行きました」
[β2] - 両親の死。「お父さんは病気になり、自分はもうだめだと3人の息子に言いました」
[β3] - 年少者の留守(外出)。「娘は、苺を積みに野原へ出かけていきました」

 このような形で留守のモチーフを、プロップは3種類に細分類しました。ただしこの分類は、資料のテクストを振り分けたものであって、恒常的に不変の法則と言う訳ではない事に注意してください。もちろん、このモチーフが出てこないケースも多々あることも留意してください。
 ともあれ、物語はまず、誰かが家から外出することからゆっくりと始まります。まだ主人公にとっての危機は発生していません。

[▲ 31機能インデックス]

5-[2]. 禁止 (γ)

役割- 主人公に禁を課す

[γ1] - 行為、外出の禁止。
[γ2] - 命令、または提案。

 外出にあたって(外出がない場合は何の前触れもなく)、主人公に対して禁止が課せられます。年長者が家を出て行く場合は、残る息子に、「(私は留守にするが、)地下の奥の扉だけは開けてはいけないよ」、あるいは年長者によって主人公に、「出かけておいで。ただ、日が落ちる前に帰ってこなくちゃいけないよ」。この禁止はほぼ確実に破られます。
 外出のない禁止の例も幾らでもあげることができます。「その壺(=パンドラの箱)だけは、何があっても開けてはいけないよ」
 命令もしくは提案は、禁止という形でなく、行為を薦めるものですが、結果的に禁止と同じ働きをすることになります。

 なお、時系列的には、[禁止]があって[留守]があるべきです。しかし、昔話の語り口はほとんど常にこの逆です。「娘は街に行くことになりました。お母さんは、途中の森の道を外れてはいけないと言いました」

[▲ 31機能インデックス]

5-[3]. 違反 (δ)

役割- 禁が破られる

[δ1] - 禁止を破ること。
[δ2] - 命令を実行すること。

 違反は、先ほどの禁止とそれぞれ対応するものです。しかし、昔話の中には、この片方が抜け落ちている例もたまに存在しています。誰も禁止していないのに、ある行為を行ってしまい、それが後の事件に繋がるというものです。

[▲ 31機能インデックス]

5-[4]. 探り出し (ε)

役割- 敵対者が探り出そうとする

[ε1] - 敵対者が、子供達の居場所、貴重なものその他の在り処を探り出す。「鏡よ鏡、鏡さん。この世で最も美しいものはだあれ?(うふ、きっとあたしだわぁ)」
[ε2] - 犠牲となるものの方が敵対者に問いただす。
[ε3] - 他の人物を介しての探り出し。

 このフェーズでは、いよいよ新しいキャスト、「敵対者(加害者)」が登場します。主人公側に恨みとか嫉みとか、あるいは命そのものを狙おうとします。敵対者がその本性を現しておらず、主人公側もまったく気が付かない例もあります。

[▲ 31機能インデックス]

5-[5]. 情報漏洩 (ζ)

役割- 犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる

[ζ1] - 敵対者が、自分の問いに対する答えを得る。たとえば魔法の鏡にお妃が問い掛けたのに対して鏡が答える、「お妃様、あなたは美しいですが、森の中の家に住んでいる、あなたの継娘はもっと美しいです」
[ζ2] - 犠牲となる者の方が、自分の問いに対する答えを得る。
[ζ3] - それ以外の形で得られた答え。

 先ほどの「探り出し」に基本的に対応しています。

[▲ 31機能インデックス]

5-[6]. 謀略 (η)

役割- 敵対者は、犠牲者となる者なりその持ち物を手に入れようとして、犠牲となる者を騙そうとする

[η1] - 敵対者が、説得により働きかける。「姫さま、どうぞこの指輪をお受け取り下さい」
[η2] - 敵対者が、呪具を「直接」使って働きかける。「その継母は、継子の着るはずの衣服にあらかじめピンを刺しておきました」
[η3] - それ以外の、欺いたり乱暴したりする手段を使う。

 敵対者は、これらの謀略を行うにあたって、しばし姿を変えます。魔女は、心優しい女とか老婆に化けます。

[▲ 31機能インデックス]

5-[7]. 幇助 (Θ)

役割- 犠牲と鳴る者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける

[Θ1] - 主人公が敵対者の説得に同意する。
[Θ2] - 主人公は、呪具が用いられると、それに機械的に反応する。
[Θ3] - 主人公は、それ以外の手段が用いられると、それに機械的に反応する。

 昔話では、主人公に課した禁は常に破られるのに対して、主人公たちを騙そうという物語序盤の企みは、ほぼ確実に成功するのが特徴です。主人公側がほとんど疑わず、それを受け容れてしまうのが特徴です。「まあ、なんて美味しそうな林檎なんでしょう」

 なお、主人公達がここで行う幇助には、強制されるものがあります。それは予め、敵対者によって意図的に用意されたものです。「飢饉が起き、食べるものがありませんでした。そんなときに現れた山男が、おまえ(農民)の知らないものを私によこすと約束すれば、食べ物をあげようといい、農民は了承しました。さて、1年後に農民夫婦の間に子供ができましたが、そうしたらあのときの山男が現れて、子供を持っていくと宣言しました。農民は従うしかありませんでした。」
 この形は特殊な、「予備的な不幸・災い」として、[6] の謀略とは区別して定義されています。その記号は(x)です。

[▲ 31機能インデックス]

5-[8]. 加害(A)

役割- 敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷を与えたりする

[A1] - 人間を誘拐する。
[A2] - 呪具を略奪する。
[Aii] - 呪力を持った助手を力づくで奪う。
[A3] - 種子を奪うなり、台無しにしたりする。「どこからともなく現れたその馬は暴れて、あたり一面の畑をめちゃくちゃにしてしまった」
[A4] - 昼の光を失う。
[A5] - 他の形で、対象の略奪を行う。
[A6] - 身体に危害を加える。危害は体の一部ですが、昔話では殆どの場合、決して血は流れません。「女中は、そのお姫様の両目をくりぬくと、近くにある木に縛り、隠した。」
[A7] - 犠牲者の姿を突然消してしまう。語り手の視点からも離れてしまいます。「その息子は絨毯の上に乗った。絨毯は彼をどこか遠くで連れて行ってしまった」
[Avii] - 花嫁は、記憶を喪失する事によって、自分の花婿を失う。
[A8] - 犠牲となる者を、要求するか、おびきだす。
[A9] - 誰かを、追放する。
[A10] - 誰かを、海に投げ込めと命ずる。
[A11] - 誰かに/何かに、魔法をかける。
[A12] - すりかえを行う。
[A13] - 殺せと命ずる。大抵の場合、その証拠として手首とか心臓とかを差し出すよう加害者から求められます。
[A14] - (敵対者自ら)殺害する。
[A15] - 誰かを、幽閉し監禁する。
[A16] - むりやり夫婦になると脅す。
[Axvi] - 親族の者同士での、むりやり夫婦になるという脅し。
[A17] - 人肉食いで脅す。「そのミノタウロスは、月に一度、生贄として娘を要求した。これが拒否された場合は、村を滅ぼすぞと脅した」
[Axvii] - 親族の者どうしにも、人肉食いによる脅しが行われる。
[A18] - 夜毎に苦しめる(吸血など)。
[A19] - 戦争を宣言する。
[*A?] - [A?]のために、深淵に投げ込むことと結びついた形。

 物語は「加害・欠如」によって実際的に展開しはじめます。言ってみればここまでの導入(α)〜幇助(Θ)という流れは、この加害の準備段階にあたります。
 加害のパターンは極めて多様です。また、基本的には加害は一つですが、時には二つ以上の加害が結合する事もしばし起きます。たとえば、「その盗賊は、王子様を殺して、王子様の衣類を着て、なり代わった。見分けがつかないほどだった」では、A14とA12が複合しています。(なおこの場合、メタ記号の記述はA14-12と書きます)

[▲ 31機能インデックス]

5-[8a]. 欠如 (a)

役割- 家族の成員に何かが欠けている。その者が何かを手に入れたいと思う。

[a1] - 花嫁、あるいは一般に人間が欠如している。
[a2] - 呪具・助手が欠如している。
[a3] - 珍しい、不思議なものが欠如している。
[a4] - 死(愛)が詰まっている魔法の卵が欠如している。
[a5] - 金銭なり、生活の手段なりが欠如している。
[a6] - それ以外の様々な形。

 加害(外側から成されるもの)の結果発生するものが欠如(自覚するもの)であり、これは一つの機能としてセットになっています。しかし物語の中には加害については触れられず欠如だけ存在するものも相当数あります。「彼は嫁が欲しかったので、旅に出た」

[▲ 31機能インデックス]

5-[9]. 仲介、つなぎの段階 (B)

役割- 被害なり欠如なりが主人公に知らされ、頼むなり命令するなりして主人公を派遣したり、出立を許したりする。

[B1] - 助けを求める叫びがあげられる。
[B2] - 主人公が、直接、送り出される。
[B3] - 主人公が、家から出立する事を許される。
[B4] - 被害が知らされる。以前に起きた被害について、機会が来るまで主人公には知らされない、というケース。

 以上の4パターンを用いた場合、この物語の主人公は探索者型という事ができます。この場合、加害は主人公そのものではない事も多いです。

[B5] - 主人公が家から追い出され、連れ出される。
[B6] - 死ぬ運命にある主人公が、ひそかに解放される。「王女を殺そうとしたが、殺し屋はあまりに可哀相に思え、彼女の手首を切っただけで逃がしてやった。手首は継母の妃が望んでいたから、仕方がないことだった。」
[B7] - 嘆きの歌が歌われる。

 こちらの3パターンは、自分から望んで出立したわけではないため、被害者型の主人公と言うことができます。特にβ7の場合は、主人公自身が殺されてしまい、人ではないものに身を封じてしまい、まるで自身が援助者のように働くことになります。 >

[▲ 31機能インデックス]

5-[10]. 対抗の開始 (C)

役割- 探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出る事を決意する

 欠如を解消するために、主人公が対抗する行動に出る、というフェーズです。「ではお父さん、私が姉さんたちを探しに行ってまいります」これは、探索者型の主人公にしか見られないことです。

[▲ 31機能インデックス]

5-[11]. 出立(↑)

役割- 主人公が家を後にする

 実際に主人公が旅に出るなりの理由で、動いたという事を示し、以下はその主人公に対してスポットが当てられるようになります。探索者型の主人公の場合は常に「C↑」とセットで用いられますが、被害者型の主人公は「↑」だけとなります。
 「A・B・C・↑」の4つの機能は、昔話の中で「発端」と呼ばれる部分にあたります。

[▲ 31機能インデックス]

5-[12]. 贈与者の第一機能 (D)

役割- 主人公が贈与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。その事によって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備が成される

[D1] - 主人公を試す。
[D2] - 主人公に挨拶し、色々と尋ねる。
[D3] - 死にかけている者あるいは死者が、自分の為に尽くしてくれるよう頼む。
[D4] - 捕われているものが、自分を解き放してくれるよう頼む。「見ると、悪魔が塔の中で捕われていた。悪魔は、自分をここから解き放ってほしい、と頼んできました」
[*D4] - 贈与者が捉えられる段階があって、その後でD4と同じ事が続く。
[D5] - 主人公が家から追い出され、連れ出される。
[D6] - 取り合いをしているもの達が、獲物の分配をして欲しいと頼む。
[d6] - 自ら率先して分配してやろうと申し出る。
[D7] - その他の頼み。
[*D7] - 捕えられるという段階があって、その後でD7と同じ事が続く。
[d7] - 贈与者にとって、手も足も出ないという状態。なんらかの頼みを口にすると言う事はない。「浜辺で亀が、漁師の子供達に虐められていた。」
[D8] - 主人公を亡き者にしようと試みる。
[D9] - 敵意を持つものが、主人公と戦う。
[D10] - 主人公に対し、呪具が示され、交換しないか(金銭交換も含め)と言われる。

 出立の後、贈与者(援助者)という新しいキャストが登場します。大抵において主人公は彼らに偶然会い、イベントを経て、呪具を得たり、あるいは助力そのものとなり、すぐではないにしろ欠如を解消してくれるアイテムとなります。

[▲ 31機能インデックス]

5-[13]. 主人公の反応 (E)

役割- 主人公が贈与者となるはずの者の働きかけに反応する。

[E1] - 試練に耐える。
[E2] - 挨拶に答える。
[E3] - 死者を供養する。
[E4] - 捕われた者を放してやる。
[E5] - 頼みこむ者を容赦してやる。「彼はその鳥を食ってやろうと考え、矢を引き絞った。そうしたら鳥が、後生ですから私は食べないで下さいと嘆願した。彼は弓を下ろした。」
[E6] - 分配してやりあっていた者達を仲直りさせる。
[Evi] - 取り合いの当事者達を騙す。
[E7] - なんらかの別の形で、他人の為に尽くす。
[E8] - 敵意を持つ者の悪巧みから救われる。
[E9] - 敵意を持つ者に勝つ。
[E10] - 交換に同意するが、直ちに、受け取ったものの呪力を相手に適用する。
[Ebar] - 試練に失敗する。否定的な態度を取る。

 常に肯定的な態度を取るわけではなく、時には否定的な態度を取ります。また、偽主人公たちの行動はほとんどが否定的です。否定的な行動を見せた登場人物は何も得られないか、手痛い仕返しに合ったりします。

[▲ 31機能インデックス]

5-[14]. 呪具の贈与・獲得 (F)

役割- 呪具あるいは助手が主人公の手に入る

[F1] - 呪具が直接に贈与される。
[f1] - なんらかの物質的価値が与えられる。
[Fneg] - 譲渡は行われない。
[F=] - 主人公の否定的な反応は、譲渡が手厳しい報復にとって代えられる。
[F2] - 呪具が指示される。
[F3] - 呪具が用意される。
[F4] - 呪具が売買される。
[F3-4] - 呪具が注文によって用意される。
[F5] - 呪具が主人公の手に、偶然入る。
[F6] - 呪具がひとりでに突然出現する。
[Fvi] - 呪具が地中から現れてくる。
[F7] - 呪具が飲まれるか食べられるかする。
[F8] - 呪具が略奪される。
[F9] - 様々な人物が、自らすすんで主人公のお役に立ちましょうと申し出る。
[f9] - 動物が、「いつ何時でも、私はあなたのお役に立ちます」と言うだけ。
[F6-9] - 不思議な力を持った様々な者達が、突然現れたり、助力を申し出たりする。

[▲ 31機能インデックス]

5-[15]. 二つの国の間の空間移動 (G)

役割- 探し求める対象のある場所へ、連れて行かれる・送り届けられる・案内される

[G1] - 主人公は、空を飛ぶ。
[G2] - 主人公は、陸路か水路を行く。
[G3] - 主人公は、道案内してもらう。
[G4] - 主人公に道あるいは目的地を教える。
[G5] - 主人公は、動かない移動の手段を使う。
[G6] - 主人公は、血の跡を辿って行く。

[▲ 31機能インデックス]

5-[16]. 闘い (H)

役割- 主人公と敵対者が直接闘う

[H1] - 野外で戦う。
[H2] - 競争する。
[H3] - カードで争う。
[H4] - どちらが重いか比べてみる。

[▲ 31機能インデックス]

5-[17]. 標づけ (J)

役割- 主人公に標が付けられる。

[J1] - 体に標が付けられる。
[J2] - 主人公が、指輪かタオルなりを手に入れる。
[J3] - 標づけのほかの形。

[▲ 31機能インデックス]

5-[18]. 勝利 (I)

役割- 敵対者に対する勝利

[I1] - 野外の戦いでの勝利。
[*I1] - 否定的な形での勝利(不戦勝など)。
[I2] - 競争で勝つ。
[I3] - カードで勝つ。
[I4] - 重さ比べで勝つ。
[I5] - 予め戦わずして敵を殺す。
[I6] - 敵を放逐する。

[▲ 31機能インデックス]

5-[19]. 不幸・欠如の解消 (K)

役割- 発端の不幸・災いか当初の欠如が解消される。

[K1] - 探し求めていた対象を、力づくか、悪知恵を働かせるかして、略奪する。
[Ki] - K1の人物が二人の人物によって行われる。一人の人物がもう一人に略奪させる。
[K2] -探し求めていた対象が、同時に何人かの人物によって取り戻される。
[K3] - 探し求める対象を餌で釣って手に入れる。
[K4] - 探し求めていた対象の獲得は、それに先立つ行為の直接の結果である。
[K5] - 呪具を用いることによって、探し求めていた対象が瞬時に手に入る。
[K6] - 呪具を用いることによって、貧しくなくなる。
[K7] - 探し求めていた対象を捕らえる。
[K8] - 魔法をかけられていた者の魔法が解ける。
[K9] - 殺されたものが生き返る。
[Kix] - 予め生き水、死に水を手に入れることによって、殺されたものを生き返らせる。
[K10] - 捕らえられていた者が、自由の身になる。
[K11] - 捜し求めていた対象を手に入れることが、呪具を手に入れるのと全く同じ形を取る。
[KF1] - 直接に譲渡される。
[KF2] - 在り所が指示される。

[▲ 31機能インデックス]

5-[20]. 帰還 (↓)

役割- 主人公が帰路につく。

 欠如が解消された、あるいは解消が確約された場合、もう主人公は旅をしている必要はなくなりました。彼は来た道を戻っていきます。帰路は必要がない限り、一切描かれません。必要がある時というのは、即ち追跡が発生する場合です。

[▲ 31機能インデックス]

5-[21]. 追跡 (Pr)

役割- 主人公が追跡される。

[Pr1] - 追跡者が主人公を追って飛ぶ。
[Pr2] - 追跡者が犯人を要求する。
[Pr3] - 追跡者は、様々な動物その他に身を変えながら、主人公を追う。
[Pr4] - 追跡者たちが、主人公を誘惑するようなものに身を変えて、主人公の道を妨げる。
[Pr5] - 追跡者は主人公を呑み込み、食い尽くそうとする。
[Pr6] - 追跡者は主人公を殺そうとする。
[Pr7] - 主人公が登った樹を、追跡者が噛み砕こうとする。

 主人公が無理やり目的物を奪った場合はまず確実に追跡が行われます。また、大蛇などの魔物を倒した場合でも、その妻とか娘などが、彼を殺そうと追って来ます。

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5-[22]. 救助 (Rs)

役割- 主人公は追跡から救われる

[Rs1] - 主人公は空中を飛び去る・素早く逃げ去る。
[Rs2] - 主人公は追跡者に対し障害物を置きながら、逃げる。
[Rs3] - 主人公は逃走の最中、それと気づかれないものに身を変える。
[Rs4] - 主人公は逃走中、身を隠す。
[Rs5] - 主人公は鍛冶屋の元に身を隠す。
[Rs6] - 主人公は動物・植物・石その他のものに身を変えながら逃げる。
[Rs7] - 主人公は誘惑を退ける。
[Rs8] - 主人公は自分を呑み込ませない。
[Rs9] - 主人公は謀殺から救われる。
[Rs10] - 主人公は他の樹へ飛び移る。

 追跡者は、主人公の力だけでは倒せないという暗黙のルールが存在します。せめても主人公に出来るのは逃げる事と、呪具を投げて彼らの追跡を妨げる事です。
 3度ほど隠れる事に成功するか、あるいは援助者(鍛冶屋など)の元に辿り着く事で、この危機から逃れる事ができます。
 常に救助されるとは限らず、追っ手によって無残に八つ裂きにされて殺されて終わる昔話も存在します。

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5-[23]. 気づかれざる到着 (O)

役割- 主人公がそれと気づかれずに到着する

 身を隠して帰る場合。到着する場所は、家郷か、他国かです。家郷に帰った場合は主人公は職人の元に弟子入りし、機会を待ちます。他国の場合は、その城の中で働き口をいつのまにか見つけます。

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5-[24]. 不当な要求 (L)

役割- 偽主人公が不当な要求をする

 身分を隠して戻る必要があった理由とは、それは偽主人公が主人公に成り代わって不当な要求をしているからです。芸術文学的には、「主人公が万一戻るような事があっても、入れさせないよう監視する」展開になり、それゆえ主人公は変装するなどして潜入するのです。

[▲ 31機能インデックス]

5-[25]. 難題 (M )

役割- 主人公に難題が課される

 謎かけ。昔話における難題は、もっとも好まれるパターンであり、それを加害の時と同じように列挙するにしても、数が多すぎます。それゆえここでは、近似した典型的な例のみをあげる事にして、記号も付けない事にしておきます。

・食べ物や飲み物を食べる試練。
・火による試練。
・謎解きの問題。ほとんど解けるはずがない謎である事が多い。
・選択の難題。複数の同じような形態をした者の中から、求める人を選び当てる。
・隠れる試練。
・接触不可能な所に居る王女などに接吻する試練。
・力や勇気を試す試練。
・忍耐力を試す試練。
・ある物を持って来いと言う試練、あるいは何かを建てろ、という試練。どれもこれも、短期間のうちに、しかも不可能と思われることを要求する。
・製作する難題。
・その他の難題。

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5-[26]. 解決 (N)

役割- 難題を解決する

[Nbar] -難題は主人公にのみ解決可能です。偽主人公は解決ができません。
[*N] - 予め示されている解決。主人公とお姫様の間にすでにある種の協定が成り立っている場合は、難題が出る以前から、主人公にとっては既知である場合があります。

[▲ 31機能インデックス]

5-[27]. 発見・認知 (Q)

役割- 主人公が発見・認知される

 以前、[17]で標づけがしてあった場合、ここで主人公の目指すべき人物(花嫁など)は主人公に気が付きます。また、標づけがない場合でも、難題を解いた人が居ると言う事は、即ちそれが主人公であると彼女は知っているので、同等の意味を持ちます。

[▲ 31機能インデックス]

5-[28]. 正体露見 (Ex)

役割- 偽主人公あるいは敵対者の正体が露見する

 偽主人公の正体露見はいろいろなパターンで行われます。もっとも単純なのが、難題を解けなかった場合。あるいは、だれか事情を知るものが、加害行為などを衆人の前で喋った場合など。偽主人公自らが自分の正体をうっかりばらしてしまう時もあります。

[▲ 31機能インデックス]

5-[29]. 変身 (T)

役割- 主人公に、新たな姿形が与えられる

[T1] - 主人公に新たな姿形が与えられる。
[T2] - 主人公が宮殿を立てる(ことにより身分を変える)。
[T3] - 主人公は新しい衣装を身に付ける。
[T4] - 合理化された形、ユーモラスな形。

[▲ 31機能インデックス]

5-[30]. 処罰 (U)

役割- 敵対者が罰せられる

 昔話は一般に憐憫というものがないため、偽主人公は多くの場合、殺されるか、でなければ追放に合います。しかし、時には寛大に感謝するケースも確かにあります。これはUbar、という記号を付けます。

[▲ 31機能インデックス]

5-[31]. 結婚・即位 (W)

役割- 主人公は結婚し、即位する

[W**] - 花嫁と国が与えられる。あるいは王女だけが与えられるが、現王が死んだあとに国のすべてを手に入れる。
[Wsup*] - 結婚する。花嫁が王女でない場合はこの結論にしか達せない。
[Wsub*] - 王位を得る。昔話の中ではたまに、結婚について触れられないものが存在する。
[w*] - 結婚の未発達な形。
[w1] - 結婚の約束。話が婚礼の所で中断され、加害によって新たにシークエンスが始まる場合などは、婚礼の約束までで終わる。
[w2] - 再建された結婚。すでに妻を持っている主人公が妻を失うかして、物語の最後に再び結婚に至る場合。
[w3] - 金銭その他の形での報償。

[▲ 31機能インデックス]

5-ex. 注意点

 こうやって31機能の細分詳細も含めて紹介してきましたが、留意しておかなくてはいけないのは、これがあくまで魔法昔話という分野(主に龍殺しの話か、王族からの難題の派生)の昔話を基本として機能分類をしたものであること(その他のタイプは基本的には考慮外であること)、それとアファナーシェフのロシア昔話をベースとしていることです。特に後者に関しては、次の3つの事に気を付ける必要があります。

[1] それがロシアという国の土壌に多少合う形になっていること
[2] その反面、他の昔話の選集に比べると、筋の改変が比較的行われておらず、またアファナーシェフ自身もオリジナルに気を付けて採集していたという事。グリム童話に関して言うと、彼ら兄弟は類話から良いところだけを切り貼りしたり、話が繋がるように芸術的な作り変えをしています。また、日本の昔話などは、その歴史を映してか、戦いを含む話自体が概ね少なく、魔法昔話としての土壌が育っていない事もあり、これらが適用できるにしても、かなり半端な適用になってしまいます。
[3] サンプル数自体がそこまで大量というわけではない。もっと多くの資料の検討を行っていけば、細分化がさらにいくらか増えるであろうということ。つまり、上の細分化は完全とは言い切れない事。

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6. メタ言語による記述

 自分でもここまで書いてきてちょっと疲れてたりします(^^;)。本格的な記事はどうしても長くなりますね。
 さて、前回の記事では分類をした後に、ギリシア神話とイタリア民話集から話を取り上げて適用させてみました。今回もう少し細かく分化したわけですが、それぞれにメタ記号を用意しました。これを用いて筋を書いていくことで、昔話の構造がメタ言語図式として理解できるようになります。
 前回の記事で紹介した「七面鳥(FIC 141)」を、もう一度追いかけてみることにしましょう。ストーリーは改めて書きませんので、前の記事を別の窓で読んでいてください。まず、キャストについて示され(α)、それから王も妃も亡くなるという形で留守の機能が出てきました(β2)。そして前王の子二人は監禁されるという形での加害が行われます(A14)。前回やった分類と微妙に解釈が変わっていますが、以前は鷹月の資料が少なかったということで、いやはやすみません(^^;)。
 さて、この後老婆が現れます。この人物は明らかに贈与者にあたります。率先して二人に贈り物をし(d6)、それに対して娘はお礼を言うことでこの贈与者の恩に報い(E2)、同時に助手となる七面鳥を入手しました(F1)。この七面鳥が、なぜか王家の装備を発掘します。これにより、二人は民の元に帰ってきて(G5)、そこで弟王と間接的な形であれ、野外で戦い倒します(H1)。こうして欠如は解消され(K10)、二人は帰還し(↓)、即位(Wsub*)となります。
 この前半部分の筋をあらためてメタ言語だけで記述すると、次のようになります。

αβ2146215110↓W*

 完全に記号学の領域なので、始めてこういうメタ言語を見た人は面食らうかもしれませんが(^^;)、このように図式で示す事で、容易に昔話の型を記録する事ができます。せっかくなので、前回私が作った昔話モドキも、このメタ言語で記述しなおしてみましょうか。
 まず、王の臣下の兵士達(年少者)が外出します(β3)。これは「おふれ」という提案形です(γ2)。そして提案を遂行し、秘薬を入手します(δ2)。しかし、敵対者である同僚の兵士がそれを奪い取ろうとします(η3)。具体的には眼を切られ、濁流に落とされます(*A3)。
 主人公の欠如は、自分の身分と眼です(a5)。彼を助けてくれた少女の家から恒久的に出てしまうわけではないにしろ、彼はともかく欠如を補うために、消極的であれ行動を開始します(C、↑)。表向きの理由は機能にとっては関係なく、重要なのは登場人物の行動なのですから。そこで起きる老人は贈与者であり、明らかに主人公を試しています(D1)。遂行することで(E1)、その老人の助力を勝ち得ます(F9)。
 この力が得られたところで、陸路を通って戻ります(G2)。そして敵を家の外におびき寄せて倒し(H1)、続いて勝利します(I1)。その後の奇跡により、眼が見えることになったため欠如が解消され(K5)、彼は帰還することになりました(↓)。姿を隠して戻ります(O)。偽主人公と結婚することになった(不当な要求、L)お姫様ですが、彼女は難題を出します(M)。これを解決するのは主人公です(N)。
ここで主人公が認知され(Q)、一方の偽主人公はその正体を露見します(Ex)。後は、主人公は自分の身分を明かし(身を隠して入った=変装していた、その変装を解いた→T3)、偽主人公たちはしょばつされ(U)、婚約します。王が亡くなってから即位し、国を継ぎました(W**)。
 まあ、この話は強引に多くの機能を付けようと無理したため、やや奇跡に頼りすぎてしまいましたが(^^;)、ともあれメタ言語は下のようになります。

β3γ2δ2η3*A35C↑D1192115↓OLMNQExT3UW**

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7. 適用例2

 単一の筋じゃなく、機能のシークエンスが複合するケースも一つだけ見ていきましょう。サンプルはせっかくですから、ファンタジー総論で解析した「ドラゴンクエスト1」を使ってみることにしましょうか。
 まず準備として、世界観が提示されます(α)。そして、竜王がローラ姫を略奪するところから物語が進行するわけですが、これは加害で言うと、誘拐(A1)、幽閉(A15)、さらに竜王軍がアレフガルドを徘徊するようになったので、戦争も含めてよいでしょう(A19)。この場合の欠如は、王様にとっての姫様です(a1)。
 さて、主人公が登場し、王の嘆願を受けて出立します(B1、C、↑)。彼はまず、リムルダールで、商人(贈与者)から魔法の鍵を買います(D10F4)。これが先行して、太陽の石などのアイテムを取る事になりますが、これは姫を助けてからでも良いため、後回しと考えましょう。
 ともかくこの後、直接の加害者ではないにしろ、敵対者(ザコドラゴン)との戦闘が行われます。洞窟や城の中での戦闘はプロップの小分類には出ていませんから単にHという事にしておきましょうか。戦って勝利し(I)、その結果姫を救い出し、(王にとっての)欠如が解消しました(K4)。これによって主人公は帰還します(↓)。ただし、婚礼は王女の愛という約束の形で、約束だけに留まります(w1)
 ここでシークエンスの区切れとなり、次の筋が始まります。
 加害はないものの、主人公に取っては、本来獲得できるはずの花嫁を獲得できません。これが欠如にあたります(a1)。先ほどと欠如の主体が王→勇者、に変わった訳です。それで、欠如の獲得のために竜王を倒すということで、対抗開始・出立と続きます(C、↑)。その後で、先ほど触れたアイテム……太陽の石、雨雲の杖などの獲得に入ります。それぞれの獲得プロセスを細かく追うと、太陽の石(F5)、雨雲の杖(D10)、ロトのしるし(F2)、虹のしずく(D10)ですが、これは結局のところ、虹のしずくだけが、渡りの為に必要であるため、あとはサイドモチーフ的なものとして処理できます。
 虹の雫を手に入れたら、いよいよ竜王の城へ渡ります。虹の橋ですから、空を飛んだと言っても良いでしょう(G1)。後は同様に戦闘と勝利(HIK4)、帰還(↓)があって、最後に婚礼(W)となります。

I : αA1-15-1911C↑D104HIK4↓w1
II: 1C↑[F5/D10/F2]D101HIK4↓W**

 最終的に、シークエンスに従って、次のような図式が得られます。このように示せた事は、間違いなくドラゴンクエストが魔法昔話のジャンルに属するものだということの証明にもなります。解析記事の時はモチーフの起源からの証明であり、今回は形態学的な証明というわけですね。

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8. おわりに  

 この資料はどのように活用できるでしょうか? まず、うまい筋が作れない人にとって、それを提供してくれます。また、既存の魔法昔話を当てはめ、得られた図式を比較検討していくことで、筋の変形活用の仕方を学ぶことができるでしょう。これは、コード理論を学ぶことで、独自のコードを考え活用する、作曲者のそれと同じではないでしょうか。
 また、ランダムに機能をチョイスして、そこから物語を作る事もできます。プログラマさんなら、ここからシナリオジェネレータも作れるかも知れません。
 昔話の中の、登場人物の行為は同じでも、それをつなぐあらゆる部分は作り手が創作できる自由があり、そこから新しい昔話が創造されました。このプロップの資料も同じように、どのように活用するかまでは限定されていません。私達も、これらの軸を元に、自由に活用していきましょう。
 長くなったこの記事もここまでとしますが、それにしてもプロップの成した功績の大きさに、私は感銘を受けずにはおれません。「昔話の形態学」は、単に昔話の解析書として認知されたのみならず、説話学という分野の創設となったきっかけとなる始祖の書でもあり、記号学という分野においても第1の古典とされています。書物が1928年、ロシアで発行されて70年以上経った今でも、この研究そのものについても依然、輝きを保っているのです。(しかし不遇な事に、スターリニズムの影響で、この書物は国内国外ともに、プロップの存命中はほとんど反響は呼ばなかったのです)

 なお、メタ言語については、鷹月もそらで覚えているわけではない(=見ただけで流れを完璧に把握できてはいない)ので安心してください(^^;)。

- 鷹月ぐみな

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