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■ 続・昔話31の機能分類 - Updated: 2001/5/22
∇ Attention
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1. はじめに 2. 31機能分類の活用 3. 機能分類はいかにして得られたか 4. 31機能分類(定義) 5. 分類詳細(0~31) 6. メタ言語による記述 7. 適用例2 8. おわりに
私が昔話や神話を読むのは、内容を楽しむためというのもあるにはありますが、どちらかというと自分の作品製作のための資料として吸収したいから、という方が主です。私はファンタジー物語が好きなので(ファンタジー物語を書きたいので)、ファンタジーの基となっているこれらの話を研究することは非常に重要な事であろうと確信しています。 たとえば数学を学びたい人にとっては、効率良く覚えられる教科書なるものがいくらでも存在します。ところがファンタジー作品を書きたい人にとっての教科書レベルのものは、希少にしか存在しません。よって基本的には、膨大な、未分類のテクストたちを時間をかけて調べ、得ていくしかないのです。これは大変な作業です。しかし、この作業で得られたものをまとめておけば、次の人達は教科書(というレベルのものではなくても、それに準ずるもの)として、はるかに短い時間で、本質について知る事ができるでしょう。このCカレで記事を提供する目的の一つはそれです。他の研究者の例にもれず、単に自己利益および自己満足のため「だけ」に研究し、発表しているわけではありません……それが有効に活用されることを望むからです。 まあ、鷹月のやっている作業が研究の名に値するかは、皆さんの判断に任せる事にしますが、ともかく今回は、以前書いた「プロップの昔話31の機能分類」の続きにあたります。続きと言っても書きなおし的な所もあるのですが、以下は皆さんが前記事を読まれた事を想定して書いていきます。
ファンタジーに限らず、あらゆる物語の大元は神話や昔話(+歴史を参考)にあると言われています。まあ、「AはBという作品の影響を受け→BはCという作品の影響を受け..」と源を辿っていくと帰納的に言えてはしまう事ですが。 ただ、他の観点からも同様に示す事ができます。たとえば感動させる物語を書きたいとする場合、悲劇あるいは悲喜劇物語を想像するわけですが、その本質が「主人公への加害、欠如」とか「試練」とか、「欠如の解消」にある所まで見て取ると、これはプロップのまとめた昔話のモチーフに他ならなくなります。 また、成長物語を書こうとして、「心の成長とは何か」と、ユング&フロイト心理学を調べていくと、成長 の心のプロセスが、昔話の筋に存在するものと極めて類似している事に辿りつきます(※1)。よって昔話はこうした深層心理を反映して成立したものだとする彼らの主張まではそのまま受け入れられないものとしても、成長物語の軸が昔話の軸と酷似する、という事実だけは確かめる事ができます。 そこで、プロップの研究によって示された、昔話の31のモチーフを覚えておけば、昔話の素筋は誰でも組みたてられるようになり、それを元に作り上げた物語は、本質的にドラマチックストーリーや心の成長のプロセスを含むものとして、表面的なシナリオだけではない多層的な作品が割と楽に作れてしまう、と私は考えました。 勿論、モチーフはあくまでモチーフに留まるものであり、それらの接合の仕方、動機付け、解決法などは、自分で自由に考えていかなくてはいけません。そこに技術とその他の知識、芸術的センス、その他のテーマが必要になり、全体から見た割合はそちらの方が多いため、素人でも芸術的物語作品が作れることは決して有り得ないわけですが、少なくとも主軸について保証されるだけでも、儲けもののようなものだと考えます。 それで前回あのような記事を書いたのですが、実際のところ、モチーフそれぞれの説明が不足しすぎて、あれで主軸を申し分無く構成する事は簡単ではありません。実際プロップは、あの31機能分類をもっと細分化し、そして説明や証明を加えています。その部分について解説することが今回の目的というわけです。
このプロップの31機能分類ですが、氏はどのようにしてそれを得たのかを、せっかくですから簡単に紹介しておきましょう。氏は、ロシアおよびヨーロッパ北部の昔話を中心に、さらにはあらゆる世界各方面からの昔話を集めました。勿論、グリムをはじめとする採集者(※2)の発表物という先人の作業があったからこそできたことですが。 昔話の分類自体は、プロップが初めてというわけではなく、ミレルやヴント、ヴォルコフ、アアルネやヴェセロフスキーという前任者が居ます。しかし、昔話の本質とは何か、それがどのように発生したものかを研究するにあたり、この分類法がひどく宜しくないものであると気が付きました。 一例を挙げましょう。ヴントの分類では、「純粋な動物寓話」と「道徳的な寓話」、「純粋な魔法昔話」が別々のカテゴリを与えられています。しかし、犬の主人公が変身するお話で、全体を通して見ると明らかに道徳的であるという場合はどれにカテゴライズするのが正しいのでしょうか。結局、本質を調べるにあたって、このようなジャンルによる分類の仕方は全く危険なものであるという結論にプロップは思いました。以下青字文は「昔話の形態学」からの引用です。 私達がここで意図しているのは、魔法昔話の様々な筋をたがいに比較することです。その比較の為に、ある特定の方法に従って、昔話の構成部分を析出し、その後でかく分析した構成部分に基づいて、昔話をたがいに比較してゆきます。その結果得られるのが、形態学です。言いかえると、昔話に関し、その構成部分・構成部分相互の関係・構成部分と全体との関係に基づいて行う記述です。 鷹月がCカレ等で行っているいくつかの解析などは、プロップのこのようなやり方を元にしていたりします。それはそうと、プロップは、昔話の形態を記述する上でどのような方法を用いたのでしょうか……ということで、アファナーシェフ選集から、類話4つを取り上げて、筋の一切れを並べています。
[1] 王が、勇者に、鷲を、与える。鷲は、勇者を、他国へと連れて行く。 ここに引いた例のうちには、定項と可変項とがあります。話ごとに変わる可変項は、登場人物たちの呼び名・属性です。話が変わっても変わる事のない定項は、登場人物の行為です。つまり、機能です。以上のことから出てくる帰結は、昔話はしばしば、相違なる人物たちに、同一の行為を行わせるということです。この帰結は、私達に昔話を、登場人物達の機能に基づいて研究しうる可能性を与えてくれます。
上の4つは、元の話を見るとそれなりに細部は異なっています。「どのようにして贈与者が主人公に物を与えたか」とか、「主人公はどのようにして他国へ行ったのか」などは違いがあるのですが、ともかく、贈与者が主人公に物を与えると言う行為、主人公はともかく他国へ行く、という移動の行為は同じという事実があり、この事実=機能、において見ていくやり方が、昔話の解明に繋がるのだとしました。
[1] 昔話の恒常的な不変の要素となっているのは、登場人物たちの機能である。その際、これらの機能が、どの人物によって、また、どのような仕方で、実現されるかは、関与性を持たない。これらの機能が、昔話の根本的な構成部分である。 短く説明しようとしたので、どうも端折り気味になってしまいましたね(^^;)。ここらへんの経緯は、直接「昔話の形態学」を読んでいただくと良いのですが、値段の高さと絶版である事も考えると難しい要求ですね。代わりに、「グリム童話 ~子供に聞かせて良いか~(野村滋/ちくま文庫)」にて、この項で述べたことをもう少し詳しく触れられていますので、宜しければ読んでみてください。
それでは、ここでプロップの31分類(+導入の状況)の定義を再掲します。用語は、前回は新紀元社の「ファンタジーメイキングガイド」の記述から取っていましたが、今回は原書の直接の訳書、叢書記号学的実践10「昔話の形態学(ISBN4-89176-208X/絶版)」での表現をそのまま用いました。
[0] 導入の状況(α)
「Θ」とか「M」とかは、機能を示す「メタ記号」と呼ばれるものです。後ほど、これらを用いたメタ言語なるものを紹介することができるでしょう。 それはともかく、氏はさらにこの31の機能を詳細化したわけで、それぞれ紹介していく事にしましょう。紹介の中の実例まで全引用するのでは、自分の記事と言えなくなってしまうため、敢えて昔話以外のファンタジーからの例を当てはめたりという作業を行っています。
役割- 舞台状況説明
昔話は常に、ある種の導入の状況から始まります。これは登場人物の行為ではないために機能ではありませんが、形態学上重要な要素なので、仮の記号αが与えられています。
役割- 家族の成員のひとりが家を留守にする
[β1] - 年長者の留守(外出)。「商人は、子供達に留守を言いつけて、外に出かけていきました」「お爺さんは、芝を刈りに行きました」
役割- 主人公に禁を課す
[γ1] - 行為、外出の禁止。 なお、時系列的には、[禁止]があって[留守]があるべきです。しかし、昔話の語り口はほとんど常にこの逆です。「娘は街に行くことになりました。お母さんは、途中の森の道を外れてはいけないと言いました」
役割- 禁が破られる
[δ1] - 禁止を破ること。
役割- 敵対者が探り出そうとする
[ε1] - 敵対者が、子供達の居場所、貴重なものその他の在り処を探り出す。「鏡よ鏡、鏡さん。この世で最も美しいものはだあれ?(うふ、きっとあたしだわぁ)」
役割- 犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる
[ζ1] - 敵対者が、自分の問いに対する答えを得る。たとえば魔法の鏡にお妃が問い掛けたのに対して鏡が答える、「お妃様、あなたは美しいですが、森の中の家に住んでいる、あなたの継娘はもっと美しいです」
役割- 敵対者は、犠牲者となる者なりその持ち物を手に入れようとして、犠牲となる者を騙そうとする
[η1] - 敵対者が、説得により働きかける。「姫さま、どうぞこの指輪をお受け取り下さい」
役割- 犠牲と鳴る者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける
[Θ1] - 主人公が敵対者の説得に同意する。
なお、主人公達がここで行う幇助には、強制されるものがあります。それは予め、敵対者によって意図的に用意されたものです。「飢饉が起き、食べるものがありませんでした。そんなときに現れた山男が、おまえ(農民)の知らないものを私によこすと約束すれば、食べ物をあげようといい、農民は了承しました。さて、1年後に農民夫婦の間に子供ができましたが、そうしたらあのときの山男が現れて、子供を持っていくと宣言しました。農民は従うしかありませんでした。」
役割- 敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷を与えたりする
[A1] - 人間を誘拐する。
役割- 家族の成員に何かが欠けている。その者が何かを手に入れたいと思う。
[a1] - 花嫁、あるいは一般に人間が欠如している。
役割- 被害なり欠如なりが主人公に知らされ、頼むなり命令するなりして主人公を派遣したり、出立を許したりする。
[B1] - 助けを求める叫びがあげられる。 以上の4パターンを用いた場合、この物語の主人公は探索者型という事ができます。この場合、加害は主人公そのものではない事も多いです。
[B5] - 主人公が家から追い出され、連れ出される。 こちらの3パターンは、自分から望んで出立したわけではないため、被害者型の主人公と言うことができます。特にβ7の場合は、主人公自身が殺されてしまい、人ではないものに身を封じてしまい、まるで自身が援助者のように働くことになります。 >
役割- 探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出る事を決意する 欠如を解消するために、主人公が対抗する行動に出る、というフェーズです。「ではお父さん、私が姉さんたちを探しに行ってまいります」これは、探索者型の主人公にしか見られないことです。
役割- 主人公が家を後にする
実際に主人公が旅に出るなりの理由で、動いたという事を示し、以下はその主人公に対してスポットが当てられるようになります。探索者型の主人公の場合は常に「C↑」とセットで用いられますが、被害者型の主人公は「↑」だけとなります。
役割- 主人公が贈与者によって試され、訊ねられ、攻撃されたりする。その事によって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備が成される
[D1] - 主人公を試す。 出立の後、贈与者(援助者)という新しいキャストが登場します。大抵において主人公は彼らに偶然会い、イベントを経て、呪具を得たり、あるいは助力そのものとなり、すぐではないにしろ欠如を解消してくれるアイテムとなります。
役割- 主人公が贈与者となるはずの者の働きかけに反応する。
[E1] - 試練に耐える。
役割- 呪具あるいは助手が主人公の手に入る
[F1] - 呪具が直接に贈与される。
役割- 探し求める対象のある場所へ、連れて行かれる・送り届けられる・案内される
[G1] - 主人公は、空を飛ぶ。
役割- 主人公と敵対者が直接闘う
[H1] - 野外で戦う。
役割- 主人公に標が付けられる。
[J1] - 体に標が付けられる。
役割- 敵対者に対する勝利
[I1] - 野外の戦いでの勝利。
役割- 発端の不幸・災いか当初の欠如が解消される。
[K1] - 探し求めていた対象を、力づくか、悪知恵を働かせるかして、略奪する。
役割- 主人公が帰路につく。 欠如が解消された、あるいは解消が確約された場合、もう主人公は旅をしている必要はなくなりました。彼は来た道を戻っていきます。帰路は必要がない限り、一切描かれません。必要がある時というのは、即ち追跡が発生する場合です。
役割- 主人公が追跡される。
[Pr1] - 追跡者が主人公を追って飛ぶ。 主人公が無理やり目的物を奪った場合はまず確実に追跡が行われます。また、大蛇などの魔物を倒した場合でも、その妻とか娘などが、彼を殺そうと追って来ます。
役割- 主人公は追跡から救われる
[Rs1] - 主人公は空中を飛び去る・素早く逃げ去る。
役割- 主人公がそれと気づかれずに到着する 身を隠して帰る場合。到着する場所は、家郷か、他国かです。家郷に帰った場合は主人公は職人の元に弟子入りし、機会を待ちます。他国の場合は、その城の中で働き口をいつのまにか見つけます。
役割- 偽主人公が不当な要求をする 身分を隠して戻る必要があった理由とは、それは偽主人公が主人公に成り代わって不当な要求をしているからです。芸術文学的には、「主人公が万一戻るような事があっても、入れさせないよう監視する」展開になり、それゆえ主人公は変装するなどして潜入するのです。
役割- 主人公に難題が課される
謎かけ。昔話における難題は、もっとも好まれるパターンであり、それを加害の時と同じように列挙するにしても、数が多すぎます。それゆえここでは、近似した典型的な例のみをあげる事にして、記号も付けない事にしておきます。
・食べ物や飲み物を食べる試練。
役割- 難題を解決する
[Nbar] -難題は主人公にのみ解決可能です。偽主人公は解決ができません。
役割- 主人公が発見・認知される 以前、[17]で標づけがしてあった場合、ここで主人公の目指すべき人物(花嫁など)は主人公に気が付きます。また、標づけがない場合でも、難題を解いた人が居ると言う事は、即ちそれが主人公であると彼女は知っているので、同等の意味を持ちます。
役割- 偽主人公あるいは敵対者の正体が露見する 偽主人公の正体露見はいろいろなパターンで行われます。もっとも単純なのが、難題を解けなかった場合。あるいは、だれか事情を知るものが、加害行為などを衆人の前で喋った場合など。偽主人公自らが自分の正体をうっかりばらしてしまう時もあります。
役割- 主人公に、新たな姿形が与えられる
[T1] - 主人公に新たな姿形が与えられる。
役割- 敵対者が罰せられる
昔話は一般に憐憫というものがないため、偽主人公は多くの場合、殺されるか、でなければ追放に合います。しかし、時には寛大に感謝するケースも確かにあります。これはUbar、という記号を付けます。
役割- 主人公は結婚し、即位する
[W**] - 花嫁と国が与えられる。あるいは王女だけが与えられるが、現王が死んだあとに国のすべてを手に入れる。
こうやって31機能の細分詳細も含めて紹介してきましたが、留意しておかなくてはいけないのは、これがあくまで魔法昔話という分野(主に龍殺しの話か、王族からの難題の派生)の昔話を基本として機能分類をしたものであること(その他のタイプは基本的には考慮外であること)、それとアファナーシェフのロシア昔話をベースとしていることです。特に後者に関しては、次の3つの事に気を付ける必要があります。
[1] それがロシアという国の土壌に多少合う形になっていること
自分でもここまで書いてきてちょっと疲れてたりします(^^;)。本格的な記事はどうしても長くなりますね。 さて、前回の記事では分類をした後に、ギリシア神話とイタリア民話集から話を取り上げて適用させてみました。今回もう少し細かく分化したわけですが、それぞれにメタ記号を用意しました。これを用いて筋を書いていくことで、昔話の構造がメタ言語図式として理解できるようになります。 前回の記事で紹介した「七面鳥(FIC 141)」を、もう一度追いかけてみることにしましょう。ストーリーは改めて書きませんので、前の記事を別の窓で読んでいてください。まず、キャストについて示され(α)、それから王も妃も亡くなるという形で留守の機能が出てきました(β2)。そして前王の子二人は監禁されるという形での加害が行われます(A14)。前回やった分類と微妙に解釈が変わっていますが、以前は鷹月の資料が少なかったということで、いやはやすみません(^^;)。 さて、この後老婆が現れます。この人物は明らかに贈与者にあたります。率先して二人に贈り物をし(d6)、それに対して娘はお礼を言うことでこの贈与者の恩に報い(E2)、同時に助手となる七面鳥を入手しました(F1)。この七面鳥が、なぜか王家の装備を発掘します。これにより、二人は民の元に帰ってきて(G5)、そこで弟王と間接的な形であれ、野外で戦い倒します(H1)。こうして欠如は解消され(K10)、二人は帰還し(↓)、即位(Wsub*)となります。 この前半部分の筋をあらためてメタ言語だけで記述すると、次のようになります。 → αβ2A14d6E2F1G5H1K10↓W*
完全に記号学の領域なので、始めてこういうメタ言語を見た人は面食らうかもしれませんが(^^;)、このように図式で示す事で、容易に昔話の型を記録する事ができます。せっかくなので、前回私が作った昔話モドキも、このメタ言語で記述しなおしてみましょうか。 → β3γ2δ2η3*A3a5C↑D1E1F9G2H1I1K5↓OLMNQExT3UW**
単一の筋じゃなく、機能のシークエンスが複合するケースも一つだけ見ていきましょう。サンプルはせっかくですから、ファンタジー総論で解析した「ドラゴンクエスト1」を使ってみることにしましょうか。 まず準備として、世界観が提示されます(α)。そして、竜王がローラ姫を略奪するところから物語が進行するわけですが、これは加害で言うと、誘拐(A1)、幽閉(A15)、さらに竜王軍がアレフガルドを徘徊するようになったので、戦争も含めてよいでしょう(A19)。この場合の欠如は、王様にとっての姫様です(a1)。 さて、主人公が登場し、王の嘆願を受けて出立します(B1、C、↑)。彼はまず、リムルダールで、商人(贈与者)から魔法の鍵を買います(D10F4)。これが先行して、太陽の石などのアイテムを取る事になりますが、これは姫を助けてからでも良いため、後回しと考えましょう。 ともかくこの後、直接の加害者ではないにしろ、敵対者(ザコドラゴン)との戦闘が行われます。洞窟や城の中での戦闘はプロップの小分類には出ていませんから単にHという事にしておきましょうか。戦って勝利し(I)、その結果姫を救い出し、(王にとっての)欠如が解消しました(K4)。これによって主人公は帰還します(↓)。ただし、婚礼は王女の愛という約束の形で、約束だけに留まります(w1) ここでシークエンスの区切れとなり、次の筋が始まります。 加害はないものの、主人公に取っては、本来獲得できるはずの花嫁を獲得できません。これが欠如にあたります(a1)。先ほどと欠如の主体が王→勇者、に変わった訳です。それで、欠如の獲得のために竜王を倒すということで、対抗開始・出立と続きます(C、↑)。その後で、先ほど触れたアイテム……太陽の石、雨雲の杖などの獲得に入ります。それぞれの獲得プロセスを細かく追うと、太陽の石(F5)、雨雲の杖(D10)、ロトのしるし(F2)、虹のしずく(D10)ですが、これは結局のところ、虹のしずくだけが、渡りの為に必要であるため、あとはサイドモチーフ的なものとして処理できます。 虹の雫を手に入れたら、いよいよ竜王の城へ渡ります。虹の橋ですから、空を飛んだと言っても良いでしょう(G1)。後は同様に戦闘と勝利(HIK4)、帰還(↓)があって、最後に婚礼(W)となります。
→I : αA1-15-19a1B1C↑D10F4HIK4↓w1 最終的に、シークエンスに従って、次のような図式が得られます。このように示せた事は、間違いなくドラゴンクエストが魔法昔話のジャンルに属するものだということの証明にもなります。解析記事の時はモチーフの起源からの証明であり、今回は形態学的な証明というわけですね。
この資料はどのように活用できるでしょうか? まず、うまい筋が作れない人にとって、それを提供してくれます。また、既存の魔法昔話を当てはめ、得られた図式を比較検討していくことで、筋の変形活用の仕方を学ぶことができるでしょう。これは、コード理論を学ぶことで、独自のコードを考え活用する、作曲者のそれと同じではないでしょうか。 また、ランダムに機能をチョイスして、そこから物語を作る事もできます。プログラマさんなら、ここからシナリオジェネレータも作れるかも知れません。 昔話の中の、登場人物の行為は同じでも、それをつなぐあらゆる部分は作り手が創作できる自由があり、そこから新しい昔話が創造されました。このプロップの資料も同じように、どのように活用するかまでは限定されていません。私達も、これらの軸を元に、自由に活用していきましょう。 長くなったこの記事もここまでとしますが、それにしてもプロップの成した功績の大きさに、私は感銘を受けずにはおれません。「昔話の形態学」は、単に昔話の解析書として認知されたのみならず、説話学という分野の創設となったきっかけとなる始祖の書でもあり、記号学という分野においても第1の古典とされています。書物が1928年、ロシアで発行されて70年以上経った今でも、この研究そのものについても依然、輝きを保っているのです。(しかし不遇な事に、スターリニズムの影響で、この書物は国内国外ともに、プロップの存命中はほとんど反響は呼ばなかったのです) なお、メタ言語については、鷹月もそらで覚えているわけではない(=見ただけで流れを完璧に把握できてはいない)ので安心してください(^^;)。 - 鷹月ぐみな [▲ INDEX]
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