GAOGAO_REVIEW_04




4.ワイルドフォース
開発元:フォアナイン(エクセレンツ) 発売:1994/10/29 媒体:PC9801 Winリメイク無し
Author:鷹月ぐみな / Update: 2014/12/13 10:52:01
言い付けを守らなかったばっかりに、
あたしは狼さんに会い、さらに穴に落ちてしまう。
穴を出ると、そこも光が差す大きな世界。
あたし、どうなっちゃうの?



a. 作品背景

 狼族の青年ウルフィは旅の途中、森の中で獣と間違え、うさぎ族の少女ラビィにうっかり剣を向けてしまいました。ウルフィは詫びようとするのですが、ラビィは襲われる・食われると大騒ぎ。彼女の混乱を制止しようとするのですが収まらないまま、もつれあった二人は転んで、茂みに隠れていた大穴に落ちてしまうのでした。
 GAOGAO!シリーズ第3作目は、パンドラの森より遥か未来の物語。人類はその多くが死滅し、地下世界でなんとか少数が生き延びる存在となってしまい、彼らに変わって変異体たちは地上、地下で繁栄を得ている、そんな時代です。
 このお話は、地下世界の一つに迷い込んだウルフィたちの冒険活劇です。

b. メインキャラクター

ウルフィ(男/変異体:狼/シリーズメイン主人公
 本作の主人公にして、GAOGAO!シリーズの中心的主人公。楽観主義。
ラビィ(女/変異体:兎/シリーズメインヒロイン
 本作のヒロインにして、GAOGAO!シリーズの中心的ヒロイン。感情豊か。
イリア(女/変異体:山猫)
 伝説の勇者の子孫である強力な戦士。
ニース(女/変異体:鳥)
レオナ&ドーラ(女/変異体:猫)
 ボケ役。コミカル担当。トリックスター的役回りも。
ブルー(男/変異体/シリーズメイン敵役
 主人公の敵として立ちはだかる「闇喰い」の首領。

c. メインストーリー

 地下世界(アンダーグラウンド)に落ちた変異体の青年ウルフィと少女ラビィは、人(と言っても彼らがいう所の人は変異体であってニンゲンではない)の住む町を探して歩き回ります。そこで「闇喰い」と呼ばれる獰猛な獣の襲撃を受けます。追い詰められますが、そんな時にさらに地面が陥没し二人は不思議な地下の建物に落ちてしまいます。そこでラビィは封印されていた何かの魂を解放してしまい、ラビィの身体はそれに乗っ取られてしまいます。
 イリアと名乗るその存在から、闇喰いの存在とその戦いの歴史について聞きます。そのまま居付かれても困ることもあり、イリアの魂をあるべき体に戻すためにとりあえず町へ行こうと事になりますが、そこに闇喰い達の首領、「光喰い」のブルーが現れたのです。ラビィの身体を借りたイリアは叫びます。
「ブルー?! バカな、オレがあの時、確かに殺したはずなのに……」

 その場はブルーが身を退いたことで平穏のうちに終わり、ウルフィたちは変異体の町ニューアリストにやってきます。イリアが(魂だけですが)帰ってきたことで町は大騒ぎ。特にウルフィは伝説の勇者扱いされてもう大変。はじめは勇者なんかじゃないよと否定しようとしますが、期待されるほどにこの地は闇喰いとの戦いが絶えないんだなと知り、イリアが肉体(猫系の変異体)を無事に取り戻した後も、みんなの為にイリアと行動を共にすることにしました。目指すは闇喰いの本拠地。
 しかし闇喰い側には光喰いのブルーとその部下であるエンザ、シルフ、アエラが待ち受けていて、何度も彼らはピンチに陥ります。
 大きな犠牲を払いつつも、最後には闇喰いの本拠地への潜入に成功します。そこは変異体には理解し得ぬ機械が転がっていました。この本拠地はかつてニンゲンが住み、実験を繰り返していた施設だったのです。そこで自分たち変異体という存在の秘密を知るウルフィたち。変異体と闇喰いとの戦いが無益である事もまた知ります。彼は最上階目指して進みます。
 闇喰いを滅ぼすためにではなく、この無益な戦いそのものを止めさせるために。

d. 序盤デザイン

 一般的に物語導入部というものは世界設定をユーザに伝えることと、彼らをその世界へと惹きつけるパートです。いわゆる「つかみ」と呼ばれるこの部分ですが本作はこの部分が秀逸です。少し見ていきましょう。

 穴から落ちた二人は、洞窟をぐるぐる回っていきます。それは行けども行けども出口のない無の空間です。静止と死を印象付ける骸骨を出してみたり、行き止まりにさせて怖がらせてみたり。そしてようやく外に出れたはいいのですが、そこは見た事もないふしぎな世界です。地底のはずなのに明るく、空と大地と山が見える、まるで地上のような場所。
 こうした展開を使う場合はは大抵はこのあたりで無の緊張感は終わります。異世界導入物は、主人公たちが足を踏み入れた後は、流れるように向こうからトラブルがやってくるケースがほとんどです。ヴィルガスト、グランシード、イリウム、魔法の国売ります!などなど。しかしこのゲームはようやく閉鎖空間を抜けたかと思ったらさらに寂寥とした空間が広がるだけで、依然として心が落ち着きません。不安にかられながら進み、はじめて焚き木跡というものを発見して「人が近くにいるかもしれない。ようやくホッとできる」と思い、そのあと人の声がして駆けつけてみたら変異体の死体があるだけ。そこにはもはや敵もなく、やはり寂しげな空間が広がるのみ……。

 物語は読み手に無の緊張(静的不安)、張り詰めた緊張(動的危機)、ほどけた状態(緩和、安心)の3種類の状態を提供します。張り詰めた緊張の後には必ず緩和が来る訳で、それを無意識的に知っている読み手は不安状態よりはまだ危機に移行する方を望んでいるのです。そういったプレイヤーの心を手玉に取った演出はさすがと思いました。
 しかし静的不安はここまで。この残骸の中から生存者ニースがようやく登場します。彼女の姿が画面に映し出され、BGMが突如暖かい曲調に変わります。この曲を聴いたときの安堵感はもう何とも言えませんでした。染み渡るような暖かさ! 「ミラクル☆ガール」という曲名なのですが、もうそれだけでこの曲が大好きになってしまいました。
(GAOGAO!の曲はニコニコ動画で全タイトル公開されているようなので興味のある方はどうぞ)
 シナリオによる緊張感の操作もうまければ曲の連携も素晴らしい。満点と言って良い「つかみ」だったと思います。

e. 人物概観

 第1、2作と主人公は非力キャラとしてデザインされ、機転と信頼関係、そして強力な援助者たちの力でなんとか立ち回っていたのですが、今回のウルフィには力が与えられ、大剣が闇喰いたちを貫くさまは文字通りワイルドフォース(荒々しい力)と呼ぶにふさわしいヒロイック・ファンタジーとなりました。ブルー、エンザ、シルフに闇喰いたちという、敵対者との対決はいやがおうでも盛り上がります。中でもエンザは中ボス役を一手に引き受け(光喰いはそんなに存在できないという理由もあってか、一人で何役もこなしていました)、最後まで格好良かったです。
 GAOGAO!シリーズでは名前を与えられるようなキャラは極力死なない配慮があるのですが、立場上どこまでいっても仲間になりえない対立者たちは斃れていきます。フリッツ・ウォーレン、ガーディナル、無のアエラ。カナンになると敵対者が多くなるためもっとたくさん。そして本作のエンザも同じようにして斃れる1人となりましたが、そんな彼女の最後の見せ場は強烈でした。そこにブルーがいたからこそ火を放ち……その炎の中へと消えていった悲哀。

 味方側の構成も軽く触れておきましょう。
 前2作に比べて味方側の登場人物が多くなりましたが、ペア付けを意識して構成されています。
 ヒーロー型主人公のウルフィと、基本的に弱いヒロインのラビィ。
 ウルフィ以上に強力で強気なイリアと非力で内気なニース。
 突っ込みとボケ担当のレオナ&ドーラ、といった感じに。対比的なキャラを組ませることで役割が明確化し、それぞれの個性もくっきりと浮かび上がってきます。ラビィやニースは支えられる存在ではありますが、彼女達もまた主人公たちを支える貴重な存在となります。
 後半は彼らがゾロゾロ一緒に行動するようになるわけですが、このパターンでありがちな「埋没するキャラ」がいなかったことに感心させられました。このあたりパンドラの森からの改善も見られたような気がしますし、書き手の筆力の高さを感じさせられました。

f. テーマ解析(AnalyzeReview)

 この物語の悲劇はやはり闇喰いの存在に尽きます。
 名称はこの第3作が初出なのですが、姿かたちはどう見てもパンドラの森に出てきた「獣」と同一です。つまりは変異体研究の中で生まれた失敗作。彼らは自ら望んだわけでもなく本能に破壊・殺戮衝動がインプットされており、彼ら自身が変異体であるにも関わらず他の正常な変異体を殺そうと襲い掛かってくるのです。ラジカルシークエンスのアルファを原型とした戦闘タイプの中で、自己を制御する心を持った者がイリアのような変異体として、そして持っていなかった者がこのような存在へと分かれて行ったというわけです。
 しかしそんな彼らも一定の社会性を有し、自己制御はできないまでも心は有しています(ごく稀にミカヅキのように自力で自己制御能力を獲得できた変異体もいます)。主人公たち一行は彼らの出生の真実を知るにつれ、単なる敵としてではなく、同情するべき対象として見るようになります。
 光喰いはそんな彼らの中から先祖返りする形でごく稀に生まれる存在で高い知性を有します。そして彼らに望まれるように守り手、導き手となります。大事にはされますが、自分達を導かない導き手には従う価値無しと逆に殺してしまうこともあります。

 対立の構図は以上のとおりで、単なる正義対悪の戦いと言えないために、葛藤に満ちたストーリーとなっています。
 彼らとの共存は果たして可能なのでしょうか。変異体を人間に、闇喰いを熊や虎、狼に置き換えて、それが同じ場にいるものとして考えてみると、人間は自分達が生きるためと称して、獣たちを撃ち殺して森の奥に追い払うでしょう。個人的な利害関係が存在しなくても、自分達に危害をもたらす存在は機会さえあれば排除しようとするのが普通の考えです。これは人間対人間でも起きうることです。そして長年にわたって死傷者を含む対立構造が続くと、過去の事実それのみで相手を憎むようになってしまいます。
 ではやはり共存は元々不可能であって、この作品は滅ぼされる境遇に生まれた闇喰い、および落とし児である光喰いたちの悲劇物語だったと結論付けて良いのでしょうか。結果としては闇喰いは滅びてしまったのですが、本当はそうであってはならない、というメッセージを感じ取れました。光喰いのブルーは滅びる運命を従容として受け入れようとしましたが、主人公のウルフィは最後まで可能性を信じようとしたのです。

 そもそも彼らに刻まれた破壊殺戮本能とは何だったのでしょう。「人間が息を吸うのと同じレベルで、彼らは人を殺すよう入力されている」と作中で語られていますが、それは彼らの認識上での話であって、真なる設定ではないかもしれません。ラジカルシークエンスのアルファの暴走は結局は嫉妬によるものでした。破壊衝動の影には劣等感、絶望感、疎外感……あらゆる負の感情があり、それが憎悪となって表に出てきたものだと作品論上では考えた方が良いと思います。このあたりは第1作のフランケンシュタインの怪物のモチーフが再度出てきているわけですね。
 そしてアルファが彼らの原型であれば彼女が主人公によって救われたように、彼ら闇喰いたちも救われる道はあったのではないでしょうか。しかし残念ながら彼らを理解した、しようとしたのはウルフィを含めたほんの僅かでした。彼らの闇を溶かすにはいささか弱く、遅かった。だからワイルドフォースの物語は悲劇として終わってしまいました。

 そしてこの構図はそのまま第4作「カナン」にて形を変えて持ち込まれます。「変異体」と「闇喰い」の構図は、今度は「ニンゲン」と「変異体」という形に置き換えて。

g. 総評

 展開は王道的ではありましたが冒険活劇はやはりハラハラさせてくれて良いです。今作はゲームのテンポも良ければ会話も楽しめましたし、グラフィックも各段にレベルアップ。メッセージ性も感じられるし音楽も非常に良い。前2作からの続きとして遊んだプレイヤーが楽しめたのは言うまでも無く、本作は続編ながら単体でも楽しめるように配慮されています。ワイルドフォースから入ったプレイヤーは闇喰いたちの本拠地に乗り込んだ時に初めて知るSF的事実で驚く事ができるでしょう。
 本作にもいくつかの欠点はあります。赤い球の発見が些かご都合主義感が強かったり、若干フラグ立てで面倒さを感じる箇所があったり、レオナ&ドーラは盛り上げキャラとしては良かったのですが彼らをストーリー進行の便利屋として活用しすぎていたり、あまり必要とは思えないHシーンが入ったりしている等。それでも作品としての完成度は非常に高く、名作と断言できるものです。

 最後は建物が炎上するなかの戦闘、そして戦意を喪失した悪役の男女を残して燃え尽きるなか脱出というパターンはARMISTを彷彿とするところはありましたが、鮮やかなラストだったと思います。

データボックス - 原画さんについて

原画 - 輪月伽吉巳

 正直に言えば「ラジカルシークエンス」と「パンドラの森」は原画さんのレベルが期待する水準より下という印象がありました。しかし「ワイルドフォース」では原画に輪月氏を迎えて格段にレベルアップを果たしました。
 輪月伽吉巳氏はわつき彩雲→わつきるみ氏として現役でもバリバリ活躍されているイラストレーターさんです。エロを愉しむゲームではない(ライターさん的にもドロドロしたエロをそもそも書かない)のですが構図も表情もおかげさまでエロくなり、全4作を通してみて唯一エロゲー的な雰囲気を感じられた作品だったような気がします。(カナンでも引き続き輪月伽吉巳氏が担当されたのですが、もうひとりの担当となった故きゃろらいんようこ氏のタッチは好みが分かれるところだったと思います)

h. 終わりに

 GAOGAO!3部作は終わりました。ウルフィは、一行を連れて地上へと戻ります。ブルーたち光喰いや闇喰いたちの記憶を一生焼き付けながらも日常へと戻っていく――。そこで物語は完結だったようです。しかし、続編を望む声高く、そこから「カナン」が生み出されました。
 ……というくだりなのですが、実際はこのワイルドフォースを作っている段階である程度カナンの構想のモトになるものはあったように考えられます。実際本作には次につながる伏線らしきものも貼られていました。とはいえ「ワイルドフォースへの圧倒的な支持があって4作目を作ることを決めた」こと自体は制作者本人に確認したので間違いないとは思います。

 ワイルドフォースは非常に完成度の高い物語でした。完成度という観点だけ見る限りではカナン以上の出来だったと思います。胸の詰まる悲劇に沈む主人公たち。感情移入しているプレイヤーもまた同じような感覚に襲われるわけですが、そうした中でのエンディング、ラビィがウルフィに抱きついたその時の広がる温かさ! 大冒険が終わり、二人は晴れて恋仲となります。ファンタジーでの恋愛かくあらんやと感動したものです。

 しかし彼らの前に広がる地上は実際には幸せなだけの世界ではありませんでした。
 ラジカルシークエンスの時代に生み出された存在が世界を大きく変え、亀裂を生み……それらがいよいよ表面に出てきて、主人公と対峙することになります。いよいよ真の完結篇とも言える4作目「CANAAN」のレビューに入っていきたいと思います。



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